役に立たない進化

「タカスギ・ナオヤ様、これよりイズナ様と貴方のお二人に私の剣も身も心も全て捧げたいと、・・・」 


「結構です」


「くふッ、・・・私のつる、ぎを」


「お断りします」


「ぐふッ、ハアハア。では私の体だけでも、」


「無理です」


「クゥウ、では貴方様のつるぎでイジメてくだ」


「僕から話すことは何もありません。忙しいので失礼します」


 世界が自分の未来を祝福する声を聞いた気がして、直也とイズナを愛して虐められる決意が決まったフレイヤの直也への熱いアプローチが続いていた。何度断っても話にならず、フレイヤを喜ばせてしまうだけで直也はほとほと困り果てていた。


 唯一フレイヤを説得できる可能性を持っているイズナは、「直也しゃま、好き。へへへ・・・だいしゅき」さっき直也に強く抱かれたことで、より深くて重いメンヘラ世界の住人となってしまい、現実世界に戻って来る見込みすら立たなくなっていた。


 自分のことを千年間も想い続けた深くて強い愛情、ずっと寂しかったイズナの心を考えると、直也は少しでもイズナの想いに応えることができれば、心を満たしてあげることが出来るなら、満足させることができるならと思うようになっていた。


「フレイヤ様、申し訳ありませんが、仲間が周囲の魔物の索敵を行っています。少し静かにしていただけませんか?」


「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません、シラサキ代表」


「フレイヤ様、どこかお加減が悪い所はありませんか? 頭とか、頭とか」


「ああ、マリー殿ありがとう。お気遣い痛み入ります。大丈夫です、むしろ調子が良いくらいです」


「みんなには案外普通だな」


 どうやらフレイヤは直也以外には案外まともな返答をするみたいだった。


「お前は旦那様に離れろよ! これ以上、旦那様に迷惑かけるなっ! 大体旦那様がイジメるのは、あたいだけだからな!」


「なんと! レーヴァ様はタカスギ様から一体どのようなご褒美を」


「変な事を言うなレーヴァ。僕これ以上面倒くさくするな! 後お前を虐めたりしてないから」

 

 だが直也の声も虚しく変態は語り合っていく。


「馬鹿かお前は? そんなの教える訳が無いだろう。あたいと旦那様の秘密の秘め事なのだからな」


「レーヴァ先輩、いえ、レーヴァパイセン、どうか、どうか、私にも聞かせて下さい。二人の思い出を。タカスギ様の偉大さを。この惨めなただの女にどうか、どうか教えてください」


「お前は、・・・」

 

 レーヴァはプライドを捨て去り、汚れることもいとわすに地面に土下座して、必死にプレイの内容を教えて欲しいと懇願するフレイヤ姿に、自分よく似た何かを感じて微笑んだ。


「ふふ、いいだろう。そこまで知りたいなら教えてやる。旦那様との愛のメモリーを」 


 レーヴァはるか遠くを見る懐かしそうな目で空を見上げて語り始めた。 


「あれはあたいがまだ幼女の時だった。当時両親と離れ離れになったあたいは旦那様に拾われた。身寄りがないあたいは旦那様に拾われて、助けられて、とても感謝していた。その感謝が恋心に変わるまで、そう時間はかからなかった。そしていつからかあたいは旦那様から体を触られるようになった」


「「直也(さん)」」


「嘘だからね、アイツがまた嘘をついてるだけだからね」


 サクヤとマリーの疑惑の声を慌てて否定する直也だが、慌て過ぎて返って怪しさがます。


「幼いあたいは恥ずかしかったけど、旦那様に嫌われたくなくて我慢していたんだ。でも、毎日体をまさぐられて、旦那様はどんどんエスカレートして、幼いあたいの体は旦那様の欲求のはけ口にされていったんだ。旦那様はあたいを見ると求めるんだ。来る日も来る日も休む間もなく調教された。真っ白だったあたいはどんどんと旦那様好みに染められ、躾られていったんだ」


「うら、や、まし・・・い。羨ましくて堪らない」 


「・・・、もう好きにしてくれよ」


 どうやら大戦時の砦での話の様だった。話を聞きながらフレイヤは涙を流して羨ましがっていた。

 その姿を見たレーヴァは「ふふ」と、わかるその気持ちわかるよ。でも旦那様はあたいの虜、とでもいっているような勝ち誇った素振りを見せながら話を続けた。


「あたいの体はもう旦那様専用になってしまった。旦那様以外の雄なんて考えられなくなかった。でも、旦那様はそんなあたいの前から姿を消した。あたいを放置プレイしたんだ」


「外道が、幼い子共になんてことを。私が、私が、もう少し早くタカスギ様に会っていれば、私が幼ければ、私もタカスギ・・・キングに放置、されていたのに・・・」


「それは違うぞ。お前、フレイヤと言ったな。幼いあたいと旦那様のプレイは因果、宇宙の意志によって決まっていた。たとえお前が幼く、あたいより旦那様と早く会っていたとしても、旦那様が選ぶのは、旦那様にイジメられ染められて放置されるのは、あたいだったのさ」 


「そんな、そんな酷いことって」


「この先もずっとそう決まっている。旦那様お愛の仕置きを受けることが出来るのは、あたいだけさ」


「わたしには、パイセンが弄られるのを見るだけしか出来ないっていうの」


 天を仰ぎ両手をひろげ膝をついてむせび泣く。


 直也は引いていた。それはもうドン引きしていた。出会ってはならない二人が出会い、まるで磁石のN極とS極の様に惹かれあいお互いを高め合っている。今の直也には間に入る気力はなかった。


異変が起きた。


 ブルブル。直也は激しい寒気に襲われ、空を見上げるとさっきまで辺りを優しく照らしていた春の暖かい日差しが、いつの間にか発生した黒雲によって遮られてしまっていた。

 

 先ほどから予兆はあった。


 だが遭えて目を逸らしていたのだ。直也のすぐ隣から、真っ赤に染まった気を出して、地獄のそこから這い寄る幽鬼の声が聞こえた。


「・・・直也様の一番は私。愛されるのも、いじめられるのも私が一番で無ければならない。それを邪魔する奴は殺してやる」


 覚悟を決めてイズナを見ると、トロトロになっていた彼女はもういなく、仲間や自分の部下を親の仇でも見る様な危な光を纏わせた瞳で睨みつけていた。


「変態で脳をヤラレた爬虫類と恩を仇で返す羽虫。誰が一番うまくイジメてもらえるかを理解させてから殺してやる」


「ふん、イズナ姉。いつかあんたとは本気でやり合わなければと思っていたよ。あんたの屍を越えて、旦那様の雌犬の地位はあたいがもらう。イヌ科イヌ亜科だけに」


「イズナたまがあんな恐ろしい目で私を見ている。私を、私を、ああ、イク、イッてしまう」


 割と本気で仲間の命を狙う者、かなり本気で雌犬の地位を望む者、身震いしながら完全かつ勝手にイってしまった者。

 どうすることも出来ない変態の渦に巻き込まれた直也の耳に、昔バイト先でお世話になった懐かしい女性フォルの声が響いた。・・・気がした。


「告。極メンヘラと真性変態、両刀ハードMが邂逅しました。業と因果が奇跡と合わさり、運命が変わり進化します。レボリューションスキル:「変態たちのメシア」を獲得しました」


「一体、僕が何をしたっていうんだ」


 あまりにあんまりな世界の声?の内容を理解した直也は、取り敢えず全部忘れて気絶することにした。




レボリューションスキル:「変態たちのメシア」・・・ただひたすらに変態たちを惹きつけ従わせ喜ばせるパッシブスキルと奥義変態革命で一般人にすら新しい扉を開き、真の変態に貶めることも可能な恐ろしいアクティブスキルの2つを合わせ持つ。

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