素直な気持ち

(良かった、イズナさん怒りが収まったみたいだ)


  直也は自分の胸の中で大人しくしているイズナを見てほっと息をついた。 


 みんなの前でイズナを抱きしめるのは若干の恥ずかしさはあるものの、不快感や違和感などはまったくなかった。

 むしろ幸福感や高揚感を感じた。直也は自分の心がイズナのことを完全に一人の女性として愛する大切な女性として受け入れていることに気が付いた。


 


  イズナさんはこの僕がいた千年後の世界で生きていてくれた。彼女は狐の神獣だった。  


 再会した時とても変わっていて、綺麗な人間の女性になっていて、僕は彼女が誰か分からなかった。


  彼女は僕が愛した桜とその子供達を守り、千年もの時間を桜の作ったセフィロトの町も守り続けてくれていた。僕の「後は頼む」という無責任なお願いの言葉をずっと守り続けて。僕はどうすれば彼女に受けた恩に報いることが出来るだろうか。彼女が失った千年の時間。彼女は何もいらないという。彼女は今が幸せだという。僕は彼女に何をしてあげることが出来るだろうか?


 

 直也はイズナを抱きしめながら、自分の元に「私も、私も」と言いながら集まって来る女性達を見渡して、自分のこの暖かい感情はイズナだけではなく、サクヤやマリー、リーシェ達にも同じく感じていると自覚した。


 


 サクヤさんとマリーさんとはこの世界に来てから、ずっと一緒に生活して色々と心配をお世話にもなった。


 サクヤさんは桜の転生者。一目会った瞬間から恋人にように優しく僕を受け入れてくれた。


 マリーさんは姉の様に時に優しく時に厳しく僕を叱ってくれた。


 彼女達が支えてくれたおかげで過去を乗り越えこの世界で生きてみようと思うことが出来た。


 僕に生きる理由をくれた。


 二人は僕に生き甲斐をくれた。


 今も僕は二人と一緒に人生を歩いている。


  もうずっと前から、僕は、この二人のことを、彼女達がいない生活なんて考えることが出来ないほどに惚れていたと思う。


 

 リーシェはいつも明るくて面白い天真爛漫な天然の美しい森の妖精。この町で冒険者に絡まれていたのを偶然助けたことがきっかけだった。出会ったその日に何故か彼女とパーティーを組んで、一緒にサクヤさんの屋敷で暮らすようになったけれども、不思議と何の抵抗もなく受け入れることが出来た。以来仲間として、最近では弟子として、共に時間を過ごすうちに、僕の心に住み着いていた。


 

 アスこと色欲を司る大罪魔王アスモデウスとは恋だとか愛いう言葉では括ることが出来ない深い関係だ。僕とアスとは一心同体だ。  


アスとは神魔の大戦で命を懸けて戦った。  


 彼女は始めから僕達を皆殺す気はなかった。アスは桜やイズナ、砦の人々を見逃してくれた。神気を使い過ぎて消滅寸前だった僕に、アスは自分の魂を分け与えて助けてくれた。

 二人で長い眠りの時を過ごした。アススモデウスは僕より早く起きて何かしていたみたいだけど。

 この世界でアスはトラブルメーカー。色々な面倒事を面白がって起こしてくる。そんなアスに振り回されるのも最近では悪くないと思っている。この先に何があろうとも、ずっとアスは僕の半身で、僕はアスの半身。お互いを補完し合うパートナー、僕はそう思っている。


  

 レーヴァテイン、とある神話に登場する剣の名を冠する世界最強の火竜。レーヴァはイズナと同じ大戦の生き残りで、僕は当時レーヴァを可愛がっていた。

 レーヴァは大戦後消息不明のなった僕を何百年も世界中探していたそうだ。可愛いドラゴンパピーから赤毛の綺麗な年上のお姉さんへと変貌を遂げたレーヴァは、「僕を探して婚期を逃した。だから責任を取って貰って欲しい」、と嫁入り道具持参でやって来た。色々あってレーヴァとも同じ屋敷で生活をする様になった。食べることとエロい妄想することをこよなく愛す、一途なクセの強い女性。


 

 直也はみんなの顔を見ながら自分の気持ちを整理して思った。


  僕は思っている以上に、今幸せだ。


  僕は彼女達と精一杯生きていきたい。


  直也は、今日の太陽はいつもより明るく暖かい気がした。


 


  そんな中、


 優しい笑顔を見せている直也を見てフレイヤは思った。


  抱かれて悶えるイズナを「どうだ、こいつは俺の女だ」とばかりに、見せつけてこの男は私をあざ笑っている。


 悔しい、


 悔しい、


 


 この男の、私を蔑んだ顔は


 この男の、私を憐れむ顔は、


 この男の、私を見る冷徹な、


 この男の、 私に何の興味が無いような瞳が、


 


 


 


  私は、・・・意外と・・・・・・、好き、かもしれない。


 


  ポッ


 


  放置の先で幻覚と出会い、錯覚し、恋に落ちる。

 

 フレイヤはまた一人険しい道を歩きだした。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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