お風呂にて
「さあ皆さん、張り切ってどうぞ!」
美少女元魔王のアスモデウスの掛け声で掃除用具ロッカー、洗面台の収納庫、天井裏から3人の女達が現れた。
掃除用具のロッカーからは、モップを頭にかぶり髪を一房口に加えた幽鬼のイズナが現れた。
「直也様、信じていたのに。一度ならず二度までも」
イズナの精神は暗黒面≪ダークサイド≫に落ちているようだ。
続いて洗面台の収納庫から洗剤を頭からかぶった町の偉い人サクヤが現れた。
「直也さん、直也さんの背中は私が流します!」
サクヤは亀の子たわしを両手に装備している。
さらに天井裏から頭に蜘蛛の巣まみれの伝説レーヴァテインが現れた。
「汚れたあたいの洗ってくれよう。あたいを旦那様専用に磨き上げてくれよう」
レーヴァテインは妄想しているようだ。
さらにさらにアスモデウスの後ろに隠れて立っていた天然エルフのリーシェが現れた。
「私初めてです。宜しくお願いします」
リーシェは勘違いをして恥ずかしがっている。
最後に裸タオルの美少女元魔王アスモデウスが現れた。
「主様、ご飯にする? お風呂にする? それとも、ア・タ・シ?」
アスモデウスは状況を面白がっているようだ。
直也は完全に囲まれてしまった。あまりのことに声も出ない。しかし理解はしていた。早く起死回生の一手を打たなければ自分ばと。
「今のは、今の言葉は、伝説の伝承の失われた最後の一節か!?」
マリーは雷に打たれたように体を大きく反らせて、囲まれている事すら忘れたように、さっきまで羞恥で赤くしていた顔を興奮の色に変えてアスモデウスに問い詰めた。千年誰にも解き明かすことが出来なかった謎の答えを聞くことが出来て、マリーは昂っていた。
「そうですよ。これが由緒正しい新妻スタイルの伝承です」
「・・・それとも、ア・タ・シとは、恐れ入った」
マリーはアスの言葉に何度も頷き、その意味を自らに落とし込み、さらに相応しい形へ変化させていく。一を聞いて十を知る、マリーは優秀なメイドであった。
「ふふふ、これは素晴らしい。まさに今の私と直也の間にふさわしい言葉だ」
マリーは勢いよく直也の方を振り向き、元気良く、
「直也、お風呂で私にする? ・・・グハッ」
そう言いうとバタンと崩れるように倒れてしまった。マリーの後ろには手刀を構えたままの幽鬼イズナが立っていた。どうやら首へ当て身を入れて気絶させたようだった。
「マリーはいけない子ですね。私の直也様の一番を奪おうとするなんて。直也様は困っているじゃないですか。ねえ直也様。直也様は私以外の方々とそういうことは致しませんよね? だって私達は千の時を越えて再び出会った超時空のスピリチュアルなソウル的パートナー。私だけが心身共に繋がっているのだから。そうですよね、直也様」
イズナは抑揚のない声で直也を見つめている。その眼からはハイライトが消え去り心の病みを映すかのよう真っ黒な闇が広がっている。さすがの直也も背筋が凍り、お尻がキュっとしてしまった。
「イズナ様、私の大切な直也さんをあまり虐めないで下さい。怖がっているじゃないですか。よしよし。それに直也さんの第一の妻になるのは私です。始めて生命の樹であってから、そう第一印象から決めていました。直也さんの正妻は私が相応しいと思います」
「サクヤ。あの小指くらい小さかった女の子が言うようになったわね。でも分かるでしょ。言って良い事と悪い事くらいは。勘違いをしちゃったのかな? 背伸びしたい年頃なのかしら。でも駄目よ、直也様の正妻はね、私なんだから」
「いいえイズナ様。いくらイズナ様でもこれだけは譲れません。直也さんの一番のお嫁さんは私です」
「旦那様、あたいも一番が良いよう。旦那様の一番槍はあたいにおくれよう」
「黙っていろ、このエロ火竜。今しているのはそう言う話ではない」
ギャーギャーと騒ぎながら自分が一番と主張をする3人の話し合いは、どんどんとエスカレートして熱いトークバトルが始まる。それをアスが煽り話はどんどんと過熱していき、周りが見えなくなってしまう。
そしてその隙をつく様に、天然美少女エルフが動いた。
「直也さんここは寒いです。早くお風呂に入りましょう」
バスタオルがずれないように胸元を左手で押さえながら、もう片方の手で直也をお風呂場へといざなっていく。
「う、うん」
あまりに自然なリーシェの対応に直也は思わず素直に従った。脱衣場の隅で静かに服を脱ぐ。トークバトルを繰り広げているイズナ達は、脱衣した直也に気が付く様子もない。
直也はイズナ達に気付かれることもなく、タオルで自分の僕を隠したまま、約束をしたマリー以外の違う女性と風呂に入ったのであった。
「お前らは何度言ったら分かるんだ。直也様と私は運命の赤い糸で結ばれている私が一番に直也様の子を産むのがスジと言うものだろうが」
「大丈夫ですか? イズナ様は少し体調が優れないみたいですね。何を言っているのか意味が分かりません」
「旦那様は過激だよ。いくらあたいの体でもついていけないよ。レーヴァ、ここがエエのか? エエのんか! って、旦那様が過激にファイヤー!!」
「黙れと言っているだろうこの変態め。何が過激にファイヤーだ。直也様はどっちかというとシッポリネットリ派だ!」
「そうかな? 主様私の時はガンガン突きまくって命懸けで暴れ尽くしたけどな」
「嘘おっしゃいアス、そんな訳ないでしょうが。私だってまだしてないのに。私の直也さんが貴方みたいな少女に、そんなコトする訳がないわ」
「サクヤ様もまだ主様が分かっていませんね。主様は少女が一番大好きなんですよ。もう好き過ぎて少女を従者と偽って囲ってしまうほどに」
「はっ、直也は。私の主人は何処に行った? お風呂であんなにもイタしたと言うのに」
白熱する話し合いの真っただ中にマリーが目を覚ます。どうやら良い夢を見ることが出来たようだ。
「五月蠅い。お前はまだ寝ていろ。痴女メイド」
「グハ!」
マリーは手刀を構えたイズナによって、また首へ当て身を入れられ、夢の国へと旅立つ。
騒乱が一層の盛り上がりを見せ始めている頃、「かぽーん」と言う擬音が聞こえてきそうな和風の立派なお風呂場の中で、直也は洗い場に座らされて、まるっと丸洗いされていた。
「んんしょ、んんしょっと、直也さん痒い所はないですか? 気になる所はないですか?」
「ないです」
「はーい、じゃあ流しますね、熱くないですか?」
「丁度良いです」
「はーい、終わりました。じゃあ一緒にお湯に入りましょう」
「はい」
直也は言われるがままに三助エルフ・リーシェの言う事を聞いていた。
風呂の外は未だ争いが続いている。きっとこの争いが終わる時、自分も終わり、またキツイ裁きに合うのだろう。もう温情判決など期待できない、過激で熱烈な仕置きが待っているのだろう。だったら、せめて、せめてこの暖かで優しい癒しの時間を堪能するくらいは許されるのでは? て言うか許されるべきでは無いのか?
直也はそんな事を考えながらお湯につかる。
「はーえー、いい湯だな」
「ふふ、直也さんおじさん臭いです」
可愛クスクスと笑いながらリーシェも湯船に入ろうとバスタオルをハラリと脱ぎ捨てた。
もう、全部が見えた。見えてしまった。重力に逆らいツンとした形の良い胸も抱きしめたら折れてしまいそうな腰つき、その先にあるまだ穢れをしらない誰も知らないクレバスも全て。
「リーシェ! 見えてる。タオル、バスタオルが取れているって」
リーシェの素敵な裸体を直視しないようにしている風にして、直也は両手に隙間を開けたまま目を覆い隠した感じの体をとる。
「でもお風呂のお湯にタオルを付けることはマナー違反です」
「そうだけど、確かにそうだけど」
「それにお湯に入っちゃえば大丈夫です」
「いや、全然大丈夫じゃないから! この湯は無職の透明だから! まる見えちゃうから!」
「大丈夫ですよ。直也さんなら私は大丈夫です。ほら、直也さんもタオルは取っちゃって下さい」
ピトっと裸エルフが隣で腕にくっついてくる。
「リーシェ、それは流石に、」
「マナー違反ですよ」
「オーマイゴッド!」
直也は、仕方ないなと覚悟を決めて、腰のタオルに手を掛ける。
「随分とお楽しそうですね、直也様」
時が止まり、世界が一瞬静止した。
いつの間にかイズナ達が裸のリーシェと湯船に浸かっている直也を囲んでいた。中には目を覚ましたマリーの姿もある。
皆一様に表情がなく感情を読むことが出来ないがジトッと刺すような目がこれから起きるであろうことを雄弁に語っていた。
地獄の釜が蓋を開け、ここは死地となってしまった。彼女達はこれから修羅になるのだろう。そして今の僕は丸腰で、応援や弁護をする者すらいないのであろう。
裸なだけに。
幾多の戦場を越えて来た直也ではあったが、もうなる様になれと、この時始めて自暴自棄になってしまったと言う。
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