はじめての依頼
歓迎会の翌日、早速冒険者としての初仕事の依頼を受けるために、直也は張り切って朝早くからギルドにやって来ていた。
本日のメンバーは直也にリーシェにアスにレーヴァの4人。
サクヤとマリーは町の仕事で、イズナはガーディアンズの会議出席のため本日は別行動となった。3人は一緒に行くと言ってきかなかったが、町の行政や安全に関わる重要な仕事であるし、
「責任ある立場働く女性は素敵だ」
との直也の発言もあって、冒険者ギルドへの同行は涙をのんで諦めたのであった。
「混んでて中に入れないんですけど」
冒険者ギルドの中は依頼を求めてやってきた冒険者達で溢れ返り、直也は依頼を掲示している掲示板の前に行くことが出来ない。
皆少しでも良い条件の依頼を受けるため、冒険者同士で奪い合いを繰り広げている。直也はその迫力に負けてしまいギルドの外で立ち尽くしていた。
「これは俺たちが先に目を付けた依頼だ!」
「私たちの方が先に依頼書を取ったわ。大体貴方達の実力ではこの依頼はまだ無理でしょうが!」
「なんだとコラー!」
「今日は依頼が少ないな。もう良いのは無さそうだし、この食用オークの討伐依頼当たりでどうかな?」
「この街道沿いの村からの依頼のゴブリンの良くないか?」
「何々ゴブリン集落が出来たと思われる森の西側の調査?」
「この薬草収集の依頼の依頼にしようかな? それとの町の下水道の清掃依頼がいいかな?」
依頼はランクごとに掲示場所がすみ分けがされていて、分かりやすく見やすくなってはいるが、営業開始時間は一日で一番の混雑となるので、どうしてもギルド内は依頼を求める冒険者で溢れてしまう。
また、ギルドの受付カウンターには5人の受付嬢がいて仕事をしているが、基本的に上位のランカーから受付処理をすることが暗黙の了解をされているため下位の冒険者達は自分達の順番が来るのをただ待っていて混雑に拍車をかけている。
「直也さん、空く迄にはまだ時間がかかりそうですね」
「主様よ、待っている間あっちでお茶してようよ」
「旦那様、お腹が空いたので朝食セットにステーキセットをライス大盛で食べてもいいか?」
「レーヴァあんなに朝ごはん食べたのにまだ食べるのか?」
「待っていたらお腹が空いてしまって。旦那様は良く食べる女は嫌いか?」
「どちらかと言うと、美味しそうに沢山ご飯を食べる女の子は好きかな?」
「私はこの朝食セットのフルーツ、サラダ付にします」
「私はパンケーキにミルクティーがいいな、主様」
「えっ、リーシェとアスも食べるの?食べるのはいいけど度大丈夫?朝ごはんもお替りして食べてなかったっけ?」
「大丈夫です」「大丈夫だよ」
他の冒険者達の奇異の視線に晒される中、直也達はギルドの混雑が空く迄の間に2度目の朝食を食べながら待つことになった。
「やっと空いてきたかな、先に行って依頼を見ているから」
「主様わたしも一緒に見に行きます」
「ふぁい、少し休んでお腹が落ち着いてから行きます」
「うまうま肉うま」
お腹が一杯になってテーブルの突っ伏しているリーシェに、さらにご飯をお替りしてモリモリ食べているレーヴァを席に残して直也はアスと掲示板へと向かった。
「さて、どんな依頼が残っているかな?」
高鳴る鼓動を抑えて初依頼を受けるためにまずはCランクの掲示板の前に立って依頼を選ぶ直也の耳に他の冒険者達の会話が聞こえてきた。
「あいつ噂になっているシラサキ代表のヒモ野郎じゃないか」
「何、あいつが例のヒモ野郎なのか?」
「あの男が複数の女を言葉で騙して貢がせている噂の鬼畜野郎なの?」
「ああ、シラサキ代表にメイド、エルフ、少女、赤毛や銀髪の美女達が何人か犠牲になったらしい」
「そう言えは友達が、ヒモが足に縋りついている赤毛の女を蹴っている所を見たって言っていた」
「マジで、本当に最低だな。俺ちょっと言ってやろうかな」
「あいつそういえばさっきまであのテーブルにいたよね?・・・一緒にいる少女にエルフに赤毛の女か」
「あいつで間違いないな」
「ああ、あいつが鬼畜ヒモ野郎で間違いないだろうな」
冒険者たちの会話があちらこちらに連鎖して広がっていく。直也は掲示板を見ながら固まってしまった。
「主様って鬼畜ヒモ野郎なんですか?」
とてもニコニコした笑顔でアスが面白しろそうに聞いてくる。
「僕はヒモでもないし、誰も騙したりしていません!」
「やはり貴方は婦女子を騙す鬼畜な方だったのですね、高杉さん」
直也とアスが会話に割り込む女性の声がした方を見ると、受付の奥にあるギルドマスターの私室からシャロンが出てきたところであった。
現在ギルドマスターのジョニーは、未だ意識を取り戻すことなく生死の境を紙一重で行き来している状態で、ジョニーが復帰するまでの間はシャロンが臨時でギルドマスターを務めることになったようだ。
昨日の飲み会でベロベロに酔っぱらい、直也とアスに蛇のごとく絡み付いたシャロンは自分の体を直也に擦りつける様に密着させて直也を質問攻めにし、少女のアスを可愛いがっていた。
始めは苦笑していたサクヤ達も、直也に大胆に抱き付き密着してアスとの関係をエキサイティングにかつ細部まで聴取するシャロンの姿を見て、このままでは間違いが起きてしまいそうな雰囲気を感じて、慌てて直也からシャロンを引き離したのだった。
「アスちゃんおはようございます。今日も可愛いですね」
「おはようございます。シャロンさん」
「昨日の約束覚えているかしら、高杉さん」
「約束?」
「はい、あなた達が受けた依頼に私を同行させてくれる約束です」
「主様、シャロンさんに抱きつかれた時に、何でもしますから離れて下さいって言っていましたよ」
「まさか、覚えていないとは言わせませんわよ。私があれほどの身を削って、」
「・・・・・・」
「シャロンさんに抱きつかれて、嫌がる口調に反して、凄く嬉しそうな顔していましたよ」
まさか表情に出ていたなんて。直也は冷静にシャロンに離れるようにお願いしたつもりだったのだが、本音は顔に出ていたらしい。
「あんなに酔っていたのに良く覚えていましたね」
「全部覚えていますよ、エロ杉さん。貴方が酔った女の体を弄る変態だと言う事も」
「弄んでないでしょうが!人聞き悪い言い方は止めて下さい!」
「そうです。直也さんはて最近少しエッチですが、変態さんではありません」
「旦那様はまたあたいを放置して、他の女と楽しそうに!もっとあたいを構っておくれよう!」
直也は声を張り自分の潔白をギルド中に聞こえるように訴える。しかし世間は無常である。いつの間に側に来ていたアスとレーヴァが新しい燃料を投下する。
「あいつあんな綺麗な女性も毒牙にかけたのか!」
「殺す!あいつは言葉だけじゃ駄目だ。手遅れになる前に殺してしまわないと」
非難の声が広がり、男性冒険者達が眼を飛ばしてメンチを切り、女性達は軽蔑の眼差しで直也を汚物でも見るかのように冷たい視線を送ってくる。
このままではまずい。社会的に死んでしまう。いやもう既に死んでいるのか?
直也がそう思い肩を落とした時にシャロンは言ってきた。
「高杉さん、今日の貴方達アマテラスのお仕事だけれども、私が良い依頼を取って置いてあげたわ」
ギルドの職員がそんな贔屓をしていいのか。一体どうなっているんだ。俺にも仕事くれよ。良い話なら俺も噛ませろ。等々罵詈雑言飛び交う中でシャロンは言葉を続けた。
「依頼の内容は北の森に住みつている地竜の討伐です」
炎上を続けていた冒険者達は討伐目標が地竜を聞いて一気に沈下した。
俺にも噛ませろと騒いでいた者はいつの間にかギルドから退散している。
「ありがとうございます。依頼本当にありがとうございます。とても助かります」
あいつは大物なのか?それとも馬鹿なのか?おそらく馬鹿の方であろう。
冒険者達はまさかの地竜の討伐依頼をもろ手を挙げて喜びながら、依頼を受ける直也の姿に戸惑いを隠すことが出来なかった。
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