魔王の目覚め

 ナニナニ?


 私まだ、眠いんですけど


 まだ、主様に分けた魂の力が回復していないから、もう少し寝たいんですけど、


 静かにしてもらえません?


・・・・・・!


 だから、ドンドンうるさいんですけど?


 一体ナニナニ?ナンなのよ!


 心地良い主様の魂に包まれて眠る私の至福の時間を邪魔するなんて!


 いい度胸じゃない!


 私のことを舐めてるようね!


 確かに今の私は、全盛期には遠く及びませんけど、それでも私は魔王の名を冠するものよ!


 主様との魂の逢瀬を邪魔するなんて、お仕置きが必要ね!


 それは、目覚めとともに2つの魂が宿る深いエーテルの海の底から浮上を始めた。


 


 

訓練所にいる者が、固唾を飲んで見守る中、


「直也様の裏切り者ー!」


  イズナは拳に神炎の力を付与して、大地を蹴って直也に一直線に殴りかった。


「消えた?」


 サクヤは、イズナの姿を捕らえることが出来なかった。まるで消えてしまったようにしか映らない。


「お嬢様、あちらです」


 マリーが指を差した方を見ると、


 直也が立っていた場所からかなり後ろにさがった場所で、イズナが繰り出した拳を直也が両手で受け止めている。直也が踏み締める地面は、ひび割れ陥没しており衝撃の強さをものがたっていた。


「痛てて!イズナさん今のは少しやりすぎです。かなり痛いですって!」


 直也は両手首をブンブンと振りながら、抗議の声をあげるが、ケモ耳シッポをピンと伸ばしてうつ向いたままのイズナは


「私はもっと痛かった。私の心はもっと痛かったです」


と、握り締めた拳に再度力を込める。


「痛かったですわー!」と


 腰をぐっと落として、超近距離での拳打と蹴りのラッシュを仕掛けてきた。あまりの手数、あまりの威力に直也は必死に捌こうと試みるが、次第に押され始める。

 イズナの一撃は本気でヤバく、受け流す度に、かする度にヒヤヒヤと冷や汗をかいてしまう。


 「私、全部聞こえていました。他の皆さんをパーティに誘ったくせに、私を誘わないなんて!」


  イズナの興奮とともに、攻撃のギアがまた一段上がりスピードも威力も先ほどまでとは比べられないほど強くなる。一撃一撃の拳や蹴りが衝撃波を伴い、霊気を纏っていなければ一発カスっただけでアウトだろう。


「ヤバい、この威力は爵位持ち悪魔クラスじゃないか!」


 これは自分も本気にならなければと、直也は自分の力を高めようとするが、その僅かなチャンスすら掴めない。


「このままだと、周囲にも被害が」


 そう思った時に直也は異変に気が付いた。


 直也とイズナの周りを強力な魔力結界が覆っていた。更に結界の外はまるで、時間が止まっているかのように全てが静止して見える。


(一体誰が、いつの間に、こんな時間にまで干渉する強力な結界を)


「私のこと放って置いて、今度は何の考え事ですか!」


「ヤバ、・・・グハッ」


 結界に意識を持っていかれて、イズナから注意をそらしてしまった直也は、とうとうイズナ印の殺人ボディーブローをもらってしまった。


 直也は衝撃で吹っ飛ばされつつも、空中で体制で整えて足からの着地に成功した。だが、それが精一杯だった。受けたダメージは大きく、足が言うこと聞いてくず立ち上がることも出来ない。


「私が直也様のパートナーです。私は今も昔も直也様の傍にいたいだけなんです!直也様、私をもっと良く見て下さい!私をもっと感じてください」


「イ、イズナさん」

 直也は、イズナの気持ちをしっかりと考えることがなかった自分に不甲斐なさを感じてしまうがもう遅かった。


ああー!と雄叫びを上げながら、キッと涙目で直也を睨むと、全力の突撃を、何のひねりもないただの両手を広げた抱き付きを、直也の胸を目掛けて、地面を爆発させるほどの踏み込みをもって仕掛けてきた。


「私をもっと、貴方にとっての特別にしてください!」


 (ヤバい、受け止められない。あれ食らったら死んでしまう)


 直也が本気で命の危機を感じた時だった。


 


「主様、止めてよね。なんで私が目覚めた瞬間にいきなり死にそうになっているのよ」


 何処からか幼い女の子の声が聞こえた。すると直也の時間が加速し、周囲の景色が止まって見える。イズナの抱き付きもまだ直也に全然届いていない。


 直也が声がした方を見ると、まだ幼さが残る12、13歳位の黒髪の美しい妖艶な雰囲気を持った美少女が腕を組んで立っていた。


「主様、約束の時間よ」


 美少女は戸惑う直也を、とても嬉しそうな顔で見つめていた。


 


 


 


 


 


 


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