英雄復活とイメージチェンジ

 後に「マリー事変」と呼ばれる日から二日が過ぎた。直也の精神状態は完全にとは言えないが、時折笑顔を見せ、ご飯を食べれる位には回復していた。直也はサクヤに迷惑を掛けましたと謝罪し、お礼と改めての自己紹介を済ませた。

 直也はイズナともちゃんと話をしようと屋敷中探してみたが、どこに消えたのか見つけることが出来ないまま1日が過ぎた。


 

 3日目の早朝、剣が空を切り裂く音と服の擦れる音が大社の庭から聞こえる。

規則正しく、時には激しく、静かな朝にビートを刻んでいる。音の主は高杉直也。光り輝く剣を振り、トレーニングをしていた。持っている光剣は4尺(120㎝)ほどの光の刀身を持ち、1尺(30㎝)程の柄の先には緑色の宝玉がついている。剣を片手に持ちながら、まるで舞踏の様に軽やかに演武をしている。剣技と体術を組み合わせた戦闘スタイルの様だ。30分程のトレーニングが終わると、息を整え軽く柔軟体操として体をほぐしていく。

 直也は、体の不具合が無いかを曲げ伸ばしをしながら一つ一つ確認していく。


 「まだまだ、本調子ではないけれど、まあまあ、いい感じだな」


  何かを確認するかのように手を開いたり閉じたりしながら、


 「それにしても、前よりも大分強くなっている気がするな?」


  そう感じた直也は自分の力を確認するために、その場で数秒ほど目を瞑り「ふっ」と掛け声をだすと、直也の持つ霊気が体から放出された。霊気を体に纏うように意識しながら、霊気の霊圧を上ていく。すると、アスモデウスとの魔王戦の時の力よりも、かなり余力があるように感じられる。                                                                     

「やっぱり量も質もかなり上がっているな。魔王戦が原因かな?」                                                                     

 記憶が定かではないが、あの時確かに魔王にダメージを与えることが出来ていたはずだ。  

  もしかしたらその時に経験を得て、魂の位階が上がったのかもしれない。この上昇率はただのレベルアップではない気がする。相手は大罪の魔王。倒せなくても、ダメージを入れること出来ただけでもかなりの経験値が入ったのではないか?

 

 そんなことを考えていると自分を見ている強い視線を感じた。その数は3つ。サクヤとマリーとイズナだ。                                                                

 (きっと心配してくれているんだな )                                                                   

 気が付かない振りをして、高めていた霊気を鎮めて、かいた汗を服の袖で拭っていると、1人目の動きがあった。                                                                     

 背中にこちらに走って近づいてくるサクヤの存在を感じつつ衣服の乱れを整えていると、


 「直也さん、はい、このタオルを使って下さい、どうぞ」

 

 と、サクヤは大事そうに胸に抱えたタオルを渡して直也に渡してきた。                                                                     

「ありがとうございます。サクヤさん、助かります」


「朝早くから、お疲れ様です。さっきの剣捌きはとても凄かったです。まるでダンスをしている様でした」


「そうですか?少し恥ずかしいです」


「それにその剣のようなものは何ですか?さっきは光る刃が出ていたと思いましたけど?」


  直也が持っている剣の柄を指さしながら、不思議そうに昨夜は尋ねた。


 「これですか?これは草薙の剣とか言うそうで、昔のバイト先の、ああ働いていた先の先輩からもらった物なんですよ」


  直也はそう言うと神気を草薙の剣に流す。すると柄の宝玉が緑色に輝くと、蒼い綺麗な刀身が現れる。

 

「何これ、凄い!直也さん、この剣とっても強い力を感じます。これってもしかして神気?」


 「うん、そうです。何で先輩がこんな物を持っていたのかはわかりませんが、この生命の樹の里に逃げこんだ後に突然現れて、これを僕にくれたんです。持っていて損はないからって」


 「こんな、超レアの武器をくれるって一体何者なんですか?」


 「伊勢さんっていう人で、確か実家は超が付くお金持ちだったような・・・」


  直也の持つ草薙の剣に強く興味を惹かれたサクヤは直也の体に自然と近づいた。


 と、その時2人目が動いた。


 「危なーーーい!」


  そう言いながら直也とサクヤの間に割り込み、サクヤを遠ざける。 直也は彼女達が怪我をしないように、あわてて光の刃を消した。


 「お嬢様危なかったですね。危うく真っ白なお嬢様の身が男の汁で穢れてしまうところでした。まさに間一髪でした」


 「何が危ないよ!何が穢れるよ!貴方が1番危ないわよ!大体マリー貴方ね、今は、私が、直也さんと話をしているでしょうが!邪魔しないでくれる!」


 「邪魔なんて、とんでもない。私はただお嬢様のためを思って」


 「嘘、今だって私と直也さんの仲を狙って邪魔したじゃない!」


 「ははは、何を言っているのか良く分かりません。それより直也、朝食の準備が出来たから迎えに来てやったぞ。すぐに食堂に行こう」


 「はぁ」


 「今朝の朝食はなかなかの出来だ。旨いぞ、私の手料理は!」


 手料理の部分をやたらと強調するマリー。


 「マリー、貴方私の話を聞きなさいよー!」


  二人が、ギャーギャー騒いでいる姿を見ながら直也がどうしようか考えていると、


 最後の3人目に動きがあった。


  最後はイズナ。彼女は素早く、目にも止まらねスピードで直也に近づくと、


「おはようございます。直也様」


 と、以外にも普通の挨拶をしてきたので、直也は「おはようございます」と返事をかえしてイズナを見た。

 

 見て、目を擦る。直也は、深呼吸して、もう一度、イズナを見る。見間違えではない。息を大きく吸い込み、直也は大興奮して叫んだ。


 



「ケモ耳!もふもふシッポだー!」


  そう、恥ずかそうにモジモジしているイズナの頭には可愛いケモ耳が、お尻にはもふもふシッポが生えていた。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る