Soul Contractor 未来の世界に帰還した英雄は美女達に誘われ冒険者になる
虹まぐろ
第1章 英雄帰還
英雄VS魔王
戦いが始まってからどの位の時間が過ぎたのか、もう僕には分からない。数時間前までは剣のぶつかり合う音や魔法の爆発、そして仲間達の声が聞こえていた。里を守る為に大勢の仲間が魔族や魔物と戦っていたはずだ。
でも、剣戟や爆発の音どころか、もう立っている者も動く者もいない。
「お前も相当しつこいわね、早く私に跪きなさいな」
僕に早く跪けと声をかけて来るのは、大きく胸元が開き、太ももにスリットが入っている漆黒のドレスを着た若い姿の美しい黒髪の女性。色欲の大罪の王、魔王アスモデウス。
「いえ、遠慮させていただきます。僕が諦めたら、先に逝った仲間に怒られてしまいます」
「そうなの。でも、お前はもう立っているのがやっとでしょう。悪い事は言わないから早く楽になりなさいよ」
「それは貴方もおなじでしょう?今のあなたは消耗して力を失っています。仲間が命を懸けて繋いでくれた貴方を倒すチャンスを、僕は捨てる訳にはいきません。貴方こそ覚悟を決めて下さい」
僕の体はボロボロで怪我がない所などないだろう。今倒れたら起き上がることはもう出来ない。神様から借りた神気の力は、ほとんど使い果たしてしまったし、僕の唯一の装備草薙の剣の使用には、かなりの量の神気を必要とするため、今の僕にはもう使えない。残るは僅かに残った自身の霊力と命だけだ。仲間達が僕を信じて託してくれた力を使って、魔王をここまで追い詰めることが出来た。僕は残った力を、魔王を倒すために振り絞る。
「短い命を無駄に燃やすの?。いいわ、その命、その魂、その身体は私がいただくわ。神の契約者のお前は本当に面白い」
「誰がお前なんかにやるもんか!僕がお前に引導を渡してやる」
僕は気合いを入れた掛け声と共に、残りの力と先に逝った仲間達の想いを燃やす。
(後少しだけでいいからもってくれ)
悲鳴を上げる体にムチを打ち、僕は痛みを無視して力を高める。僕が立っている場所の地面に放射線状の深い亀裂が入り、どんどんと広がっていく。僕は命を削って得た力をすべて身体と霊力の強化にまわす。
「準備は出来たのかしら?」
アスモデウスは僕の眼をしっかりと見据えて油断なく構えている。僕は腰を落として思いっきり地面を踏みしめて蹴った。僕の体は爆音と共に砲弾より早く飛び、さっきまで立っていた場所はまるで爆弾が爆発したかのように飛び散り煙をあげている。
魔王はただ一歩も動かず立ったままだ。僕はかまわずに飛び込んで、力をすべてのせた右のパンチでアスモデウスの顔面を殴ると、僅かによろめかせて隙を作ることが出来た。
(ここからが正念場だ)
右の拳を引きながら左のフックを脇腹へ決め、右の蹴りで空に打ち上げる。表情は分からないが、ダメージは入っていると思いたい。僕は右手の掌に霊力を集めて、弓を絞るよう構えて狙いを定めるとアスモデウスに向けて裂帛の気合を籠めた霊気弾を撃ち込んだ。霊気弾は光の線を描いて魔王へ命中する。
目が眩むような光、この世の終わりを思わせ爆発音と振動、周囲は爆煙に包まれ何も見えない。攻撃はすべて完璧に決まったはずだ。
今の攻撃で僕の力はもうほとんど残っていない。
(これで倒せていなければ、もう)
そう考えていた僕の耳に、声が聞こえた。
「女の顔を思いっきり殴るなんて酷いじゃない。責任をとって貰おうかしら」
振り返ると額や口から血を流し、あちらこちらがドレスが破れた魔王が立っている。
「危なかったわ。もう、あと少し責められたら、私死んじゃうところだったわ」
力が足りなかった。僕は躊躇っていたのか?生き残ろうと考えていたのか?無意識にでも生に執着していたから、全ての命を使わないようにセーブをしたのか?
動揺している僕に、魔王は言った。
「お前達風に言うと、ここからは私のターンよね?」
アスモデウスが話終わるや、僕は殴り飛ばされていた。全然攻撃が見えなかった。僕は飛ばされながらも、魔王の姿を探すがそこにはもう姿はない。
「こっちよ」
魔王は既に僕の後ろに移動して構えている。全身に途轍もない魔力を纏い、僕が間合いに入ると同時に魔王の魔法が放たれた。
「死に誘う魔力の奔流」
アスモデウスが繰り出したのは、純粋な魔力の奔流。天に向かって伸びる魔力に僕は呑み込まれた。この魔力は異物を認めないようだ。魔王の魔力の中に存在する異物たる僕を消滅させようとしている。全身を内側から引き裂かれるような痛みに、僕はたまらず悲鳴をあげた。
「言い声で鳴くわねぇ。やっぱり最高!あぁ、感じてきてしまったわ」
苦しむ僕の前で恍惚の表情を浮かべて身悶えするアスモデウスは言い放つ。
「貴方、私の物になりなさい、そうしたら、お前は助けてあげる」
アスモデウスはそう言うと魔法を解除して僕を解放する。倒れ込んだ僕の首をき掴んで持ち上げると
「さあ、最後のチャンスよ。決めなさい」
アスモデウスは、僕が言うこと聞こうが聞くまいが、里の皆を殺すだろう。従う訳にはいかない。ここで勝負を決めなければ、もう魔王を倒すチャンスは無い。そう思うけれども、体はもう動かない。
「良く考えるなさい。私はお前のことを気に入っているのよ」
アスモデウスが僕の頬を撫でながら、優しい口調で何かを話そうとした時のことだった。
「直也から離れなさい!」
「ナオヤ様から離れろ!」
女性の声とともに凄まじい魔力のこもった光魔法ホーリー・レイがアスモデウスと僕の体の間を通り抜けた。
驚いて僕の体から手を離したアモデウスは、僕がよく知る狐の神獣に体当たりをされて、遠くへ吹き飛んでいく。
「
「ナオヤ様、生きてますか?」
満身創痍の僕を見て、顔を青くしているのは僕の幼馴染みで恋人の
「里は?」
「里はもう大丈夫よ。周りの敵は全部倒してきたわ。それより
「桜、早くして奴が来るわ、私だけでは持たない」
空から声が響く。
「邪魔をするな!下等生物どもが!」
空に浮かぶアスモデウスは、肩を怒らせ震えていた。
「早くナオヤ様を、来るぞ!」
神獣のいずなはアスモデウスに向かって全力で魔法を使う。
「神炎」
アスモデウスを神界の炎が焼き付くそうと襲う。しかし、アスモデウスは魔力を高めて神炎をレジスト、逆に魔法に飛び込んで貫ら抜いてきた。
「私と彼の邪魔をするなー!」
叫びながら狐のいずなの懐に飛び込み、全力の掌底を放つ。まともに攻撃を受けたいずなさんはその場に崩れ落ちる。
「ナオヤ・・・様、ごめんなさい」
アスモデウスは崩れ落ちたいずなさんを蹴り飛ばす。
「よくも、いずなを!・・・コノヤロー」
桜は激情にかられて、魔力で身体を強化して直接殴りかかった。
「桜、ダメだ」
「どけぇ!」
桜の全力の攻撃は片手で受け止められる。アスモデウスは唖然としている桜の全身に、衝撃の魔法を使って遠くへ吹き飛ばす。
アスモデウスは僕にニッコリと笑顔を向ける。
「やっと二人きりになれたわね」
「アスモデウス」
僕は立ち上がると魔王に向かって歩く。桜やいずなのおかげで、少しだけ回復することが出来た。これで最後に、終わりにしよう。
僕に魔王を倒せない。
だが、魔王の核に傷をつけることができれば、もしかしたらみんなが逃げる時間くらいは作ることが出来るかも知れない。
僕の最後の、本当に最後の力を使って。
僕はゆっくりとアスモデウス向かって歩く。僕は魔力に声をのせて最後のメッセージを彼女達に届ける。
「いずなさん、今までありがとう。ずっとパートナーでいてくれて嬉しかったよ。最後にまで悪いけれども、里のみんなを頼んだよ」
「桜、ごめんね。ずっと居るって約束したのに。本当にごめん」
僕はアスモデウスにもうすぐ届く。
僕にアスモデウスがもうすぐ届く。
お互いの視線が、絡み合い最後の瞬間を瞬間を迎える。僕は魔力を右手に一点に集め抜手を作りアスモデウスの核を狙って、胸を貫く。何故か魔王は抵抗しなかった。体を貫いた腕から僕の命の力を送り込む。魔王の魔核やアストラル体を、せめて少しでも傷をつけることが出来るように祈りながら。
「私は貴方が気に入ったは本当よ。だから、今回は特別に貴方の企みに付き合ってあげる」
アスモデウスは腹に刺さった僕の手を掴み言葉を続けた。
「その代わり、貴方にも私と一緒に付き合って貰うわ」
アスモデウスは時空魔法で牢獄を造り出す。
「この牢獄は、捕らえた者を約千年時間を止めて閉じ込めるの。今、私が受けたダメージは、アストラル体や魔核に及んだ。そうね、回復に千年位はかかるわ。その間は私と一緒に眠りましょう。千年も時間が立てば、世界で貴方を知る人間はいなくなるわ。千年後の世界で、私と二人で楽しみましょう」
魔王が時の牢獄の呪文を唱え魔法が発動する。
「
「!」
時の魔法が僕とアスモデウスを包む。魔王の魔法は優しく僕を癒す。そして時空の壁が開き僕達は吸い込まれる。世界が、遠くに離れていき、時空の壁が閉じる。
闇が覆う暗黒の世界で魔王アスモデウスと二人きり。魔王は僕に何かを話かけていたが、その話を理解する間もなく僕は意識を失った。
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