美少女侵入者?
雪が降り積もり厳しい寒さに身が凍える12月の末、新年まで数日を残したある日のこと。
サクヤは大社で新年の神事の準備や町の行事の報告などを受けて朝から忙しく過ごしていた。
「やっと、ひと段落。休憩だー」
遅い昼食を食べ、大社にある屋敷の私室でソファーに座りウトウトとしていると、
「失礼、お邪魔するの。サクヤ・シラサキさん」
誰もいないはずの大社の執務室で突然声を掛けられた。サクヤは反射的に立ち上がって身構え声がした方を見る。するとそこには薄い青のワンピースを着た金髪の少女が立っていた。
「誰!」
サクヤは侵入者の様子を観察する。
(何?この子はどうやってここまで入って来たの?)
「あなたは誰?何処から入って来たの?」
(武器の類は持っていない。と言うか何も持っていないように見えるけど)
年齢は12、3歳くらいか?純情可憐をいう言葉はこの子の為にあるのではと思わせる。
兎に角可愛く、少し幼さが残る顔立ちは眉目秀麗。神秘に輝く金の瞳は人を強く引き付ける力を持っていて、彼女の持つ神秘的な可愛さを、一段上のものへと上げている。そして瞳と同じ金色の艶のある髪をお団子ケアにしている姿はとても良く似合っていて、年齢ながらの成長をみせる健康的な身体と相まって可憐な少女の魅力を高めている。このまま成長すれば間違いなく傾国の美女とうたわれるほどの女性へと成長するだろう。
サクヤは少女が持つ力を本能で感じていた。
(可愛い少女に見えるけど、中身は別。相当の実力者。もしかしたら私以上かも・・・)
サクヤは侵入者の力を探るが、全く分からない。普通の人間生きている者であれば誰からでも感じることができる
可憐な少女はサクヤを相手に完全に自分の力を隠し通せているという事になる。それに生命の樹を祀る大社には、許可なき侵入者を防ぐための強い結界が張ってある。その結界をものともせず、術士のサクヤや武闘派のメイド達に気付かれることなく大社の屋敷の執務室まで侵入をしてきた時点で、彼女はかなりの実力を持っているはずだ。
(でも、この子からは悪意は感じない)
金に輝く瞳を持つ可憐な少女の姿を見た瞬間から、何故かは分からないが不思議と気持ちが高揚感し、安心感や幸福感に包まれている。その上思わず頭を下げて服従いたくなるような衝動も覚える。
(これは明らかな異常。精神支配系の魔法でも受けたのかな?でも、魔力の発動した気配は無かったし?)
「そんなに警戒しなくても大丈夫なの。私の名前はフォルトゥーナ。貴方にお願いしたいことがあって来たの」
フォルトゥーナと名乗る可憐な少女は、サクヤの対面にあるソファーに腰かけると黙ったまま静かに警戒を続けるサクヤに話しかける。
「ある男性が還ってくるの」
(お願い?還ってくる?)
「彼はとても優しい人。色々と背負って、抗って、戦って、傷ついて、失って・・・」
フォルトゥーナは、上目使いで悲しそうな表情で話を続ける。
「彼は大勢の人を守る為に戦って、時の牢獄に閉じ込められたの」
(一体何を言っているの?)
「閉じ込められてから千年、彼は間もなく解放されるの」
一度言葉を止めてサクヤの顔を見つめる。
「でも彼は知らないの、あれから千年もの時間が過ぎていることも・・・」
「愛する家族や仲間がもういないことも・・・」
「私が迎えてあげたい。出来ることならば私が彼と一緒に居たい」
「でも駄目なの。あなたに・・あなたが彼を迎えてあげて欲しいの」
金の瞳に涙が溜まり一筋の雫となりこぼれ落ちる。涙に濡れた愛らしい顔でサクヤを見上げる。
(・・・)
「伝えて欲しいの。ありがとうって」
「彼に教えて欲しいの。貴方のおかげで救われた。貴方のおかげで今の世界には、楽しいことや嬉しいことも、沢山、沢山あるって」
一呼吸の後、フォルトゥーナはサクヤの眼を見て告げる。
「彼を支えてあげて欲しい。彼は世界を守って全部を失った」
瞳から流れる涙をそのままに、上目使いで顔を赤くして話す可憐な美少女侵入者フォルトゥーナの姿に、サクヤの心蔵はグッと掴まれる、鼓動が高まる。
可愛い物(者)が好きなサクヤのど真ん中を貫いた可憐な少女侵入者フォルトゥーナ。サクヤは心を一瞬で心を奪われてしまった。
(待て、待って私。彼女は侵入者だから、正体不明の侵入者なのだから。解放されるとか世界に迎えるとか怪しいことを言うすぎる侵入者!)
「あなたにどんな事情があるかは分からない。けど、突然部屋に忍びこんできて、よく理解ができないお願いをされても、聞いてあげる訳にはいきませんって、泣かないで、泣かないでね」
サクヤの言葉を悲しそうな表情で聞くフォトテゥーナの姿を見ると、次第に言葉も声も内容も力を失い弱くなっていく。
「ごめんなさい」
フォルトゥーナの悲しそうにウルウルと潤んだ瞳での謝罪を受けた瞬間、さっきまでの意気込みは跡形も無く見事に消え去り、かわりに猛烈な罪悪感に襲われる。
(あれ、私が悪いのだっけ?)
「分かってくれればいいの。ごめんね、意地悪をしている訳ではないの。困って人がいるのであれば助けてあげたいと思うけど、千年の牢獄とか解放とか言われてもちょっと困ってしまうの」
おろおろと額に汗をかきながら話すサクヤを見て、フォルトゥーナは金色に輝く瞳に浮かぶ涙をぬぐってほほ笑む。その金に輝く眼差しに、サクヤは心の奥深くまで入り込まれて、自分のすべてを見透かされているかのような感覚を受けた。
「彼を支えられるは貴方しかいないの」
「私だけ?」
「んッ」と、フォルトゥーナは頷き話を続ける。
「貴方と彼の出会いは決まっているの」
フォルトゥーナは眼を閉じ両手を胸の前で交差させ言葉を紡ぐ。
「二人は因果で引かれあい出会う。叶わなかった過去世での約束。共に誓い、歩み、刻んで天の御柱の元に辿り着く」
サクヤはフォルトゥーナの話の中に凄まじい言霊の力を感じて傾聴する。力を持った言霊が魂に響き、フォルトゥーナの周囲にわずかな神気が漂い始める。
「貴方達はこの時代でまた出会う。どんなに離れていても必ず出会う運命」
真剣な眼差しで話すフォルトゥーナを見てサクヤは思う。分からないことだらけだけど、言葉がスッと入ってくる。きっとフォルトゥーナが話すことには嘘はないのだろうと。
(この子は一体何なのだろう。因果とか運命とか・・・預言者様なの?)
預言者とは神の言葉を告げる代弁者。過去現在未来、世界に訪れる吉兆凶兆を神の名の基に人々に告げ導く。歴史上にもそれらしい人物が幾人か登場する。確かに神の代弁者たる預言者の能力があれば、この場に侵入することも簡単に出来るかもしれない。
「あなたは・・・預言者様なのですか?」
と、サクヤはおそるおそる尋ねた。
「違うの」
フォルトゥーナは、はっきりと否定し目を開きゆっくりと息を吐く。
「改めて名乗るの。私はフォルトゥーナ。運命を司る、女神フォルトゥーナなの」
開かれた瞳は黄金の様に煌々と輝いていた。
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