第9話 神様 犠牲の対価

 人数限定のスペシャルワン・ニャンメイドの萌え萌えデラックス・オムライスセットさんきゅっぱ(3,980円) を待っている間、メイドさんが水とおしぼりを持って来た。

 

 いつもであれば、メニューと一緒にもっと早い段階で持ってきてくれるのだか、今日は少し騒ぎがあったので仕方がない。

 

 メイドさんから手渡しでいただいた温かいおしぼりで、先ほどかいたばかりの汗を拭う。顔を拭いたおしぼりをテーブルの使用済み返却ボックスにいれて水を飲む。ふぅ、ようやく人心地がついた。


伊勢くん、やっとゆっくりできるな。


私は伊勢くんに話しかけ、異常に気が付く。


 伊勢くん、君が飲んでいるのは酒、カクテルではないかね。ほう、サービスで頂いたと?


そうか、そうか・・・私は何も頂ていませんが!


 それはそうと伊勢くん、それはカクテルだ。美味しいからといって、そんなに飲んだら。


 伊勢くんが、飲みきったタイミングでメイドさんがおかわりを持って来る。


彼は頼んでいませんが?お店にから?


カクテルを?


 私がメイドさんと話をしている間に伊勢くんはおかわりを頂いていた。


 だからそれは、カクテルでグビグビと飲む物ではない。しかも、それはレディーキラーだ。名はキッス・イン・ザ・ダーク。ドライジン、ドライ・ベルモット、チェリーブランデーをミキシンググラスで混ぜた、甘くて豊かな薫りで飲みやすい酒。だが、アルコール度数は34度と高い。そんな物を空きっ腹にグビグビ飲んだら。


・・・ハッ!おかしいと思っていた、なぜメイド喫茶でキッス・イン・ザ・ダークなんかが有るのかを!なぜイケメンだけに振る舞われるのかを。


 このメイド喫茶の店名を!


 伊勢くん君は狙われている!狙われているぞ伊勢くん。

 

 カクテルはその名の通り、暗闇のキッス。これは、ヤバい、ヤバいよヤバいよ。


 私が伊勢くんに真実を伝えるべきか悩んでいる間にも彼はどんどん酒を飲み、ダークなキッスのメイドさん達の術中にハマっていく。



「お待たせ致しました。ご主人様方」


 悩ましい。私が悩んでいると御飯が届く。


 テーブルに運ばれる人数限定のスペシャルワン・ニャンメイドの萌え萌えデラックス・オムライスセットさんきゅっぱ(3,980円) 。

 値段に見合った中々のボリュームで美味しいそうだ。一番はプレートとの上で戯れるワンニャン達。いい仕事だ。


 ん、なんだこのスパゲッティーとステーキは?


 すいません、この2皿は頼んでいませんが?


 え?サービス?ああ、伊勢くんにですか。


 え、ちがう?私に?


 これまでに無い展開に私は戸惑う。


 戸惑う私にリーダーメイドが声をかけてきる。イケメン様を1日貸して貰えないか、このまま目をつぶってはくれないかと。


 ふざけるな!私が友をスパゲティーやステーキで売ると思うな・・・・・・友?


そう言えば、私の友達にイケメンはいないな。


 私が沈黙すると、リーダーはスッとランチの無料券10日分をテーブルへ差し出してくる。

 私はそれを確認した後、リーダーの目を真っ直ぐ見つめ真意を探る。

 数秒のアイコンタクトの後に、リーダーはさらに輝く何かを差し出した。

 それはプレミアム・チェキ券。メイドさん達との夢の時間を記録する魔法のチケット(回数制限無し)。


ふぅ、もはやこれ以上言うことはあるまい。


 私は最後に伊勢くんを見た。彼は何杯目かのカクテルを飲み終え、気持ち良さそうに眠っている。その姿をしっかりと目に焼きつける。


 生まれの不幸を呪うがいい!あなたのイケメンがいけないのだよ。

 

 私はそう呟き、ランチの無料券とプレミアム・チェキ券を財布にしまう。


 伊勢くんを起こさないように、静かに人数限定のスペシャルワン・ニャンメイドの萌え萌えデラックス・オムライスセットさんきゅっぱ(3,980円) サービス付きを美味しく頂く。


 ご馳走さまでした。さてと、帰るか。


「行ってらっしゃいませ。ご主人様」


 

 私は店内を振り返ることなく店の外にでる。長い一日だった。色々あったお店をもう一度だけ確認する。


メイド喫茶「イケメ・ンラ・ブリン」。


看板は準備中。どうりで他の客がいない訳だ。




ここは狩り場、伊勢くん・・・君は始めから・・・。



 私は蒼く澄んだ空を見る。


 良い天気だ。


 

 今年の夏は、熱くなりそうだ。








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