第7話 神様 司令になる

「お帰りなさいませ、ご主人様」


 

 私が店内に入ると、いつものように元気に挨拶をしてくれるメイドさん。


 

「ああ」と


  本日の私はいつもと違う私を装う。


  イメージは影のある大人の男性。


  店内を見ると私達以外のお客はまだいない。今日は運が良い。


  私に続いて、伊勢君が入店。


 「お帰りなさいま・・・」


  メイドさんが言葉を詰まらせる。


  一体どうしたというのだろう。接客のプロフェナショナルの彼女達が言葉を詰まらせるとは?


 私は振り返り彼女達の視線の先を見る。


 

 くっ、逆光か、太陽が眩しい。私は手をかざして光から目を守る。次第に目が慣れてくると、そこには美形のイケメンが立っていた。


  分かっていたさ、伊勢くん。でもイケメンは太陽すら味方にするのか?


  もう、言わずにはいられなかった。


  イケメン、ムカつく!




 

 皆、少し落ち着いたのか、私は席に案内される。


 

「こちらにどうぞ、イケメン様」


 

 私は驚きメイドさんを2度見、いや3度見する。彼女はリーダーメイドさん。私の聞き間違えだろう。リーダーがそんなことを言う訳がない。


 

「指令はこちらへ。」


「ああ」


 私は思わずニヤついてしまう。やはり、彼女は分かっている。入店してからの短い時間で今日の私を見抜くとは!


 

リーダー、恐ろしい奴!


 

 無愛想な表情の裏で、彼女の洞察力に脱帽し絶賛する。


 

 あれ、伊勢くんがいない?


  私が案内され通されたのは、二人掛け用のテーブル席。私のお向かいの椅子に居るはずの伊勢くんの姿がない。


 

・・・そうか!読みきった!



 私はテーブルに両の肘をのせて、顔の前で両手を組む。組んだ手に顔を近づけ、そっと口元へ。


 先ほどのリーダーの発言で彼は気が付いたのだろう。


  そう、私は司令官であると。


 と、言うことは


 彼は副司令。


 彼も少し分かってきたようだ。きっと彼は私の後ろに控えて、立っているのだ。


「伊勢副司令、座りたまえ」


・・・・・・ん?


「伊勢副司令、座りたまえ」


・・・・・・ん?


 返事がない?私は振り返り彼の姿を探す。が、そこに彼はいない。私は立ち上がり、まだ客のいない店内を見渡す。


 

彼はすぐに見つかった。


 店の上座の高級ソファーのボックス席。


 そのセンターで!


 メイドさんを数人はべらせている!


 

 私は彼をきつく問いただす。



「伊勢くん。なんなんだチミは!」


 

動揺からなのか、私は司令ではなく、ちょっと変なおじさんになってしまう。


 

静かな店内にながれるBGMと響く私のツッコミ。ああ、昨夜見た、おじさんTVのせいだろう。


 店内に深い静寂が訪れる。


 

 エアコンの効きも強いようだ。


 

 少しだけ・・・さむい。


 


 ・・・伊勢くん、私は君のせいで、事故にあってしまったよ。


 ・・・伊勢くん、私は君のせいで、大勢のメイドさんの前でスベってしまったよ。


 


  ・・・伊勢くん。私はやっぱり・・・







 イケメンは、大嫌いだ!(`Δ´)!


 


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