狐の二段階変化(巻第四「狐二たびばくる事」)

 何某に仕えるある男が、妻に先立たれた。

 それから幾日もしないうち、夜な夜な、男のもとへ死んだはずの妻が通ってくる。

 男も空しい心持ちであったのだろう、化生のものとも知れないのに、通ってくる妻を生前の頃のように思い、妻の方も男の傍から離れず、二人は睦まじく語り合った。


 この件を聞きつけた男の同僚たちは、

「こんな不審な話はない。いざ持仏堂を見てやろう」

 というわけで男の家に行き、中を覗けば、話に違わず、男と死んだはずの妻が向かい合って座っているので、唖然とした。

「とにかく中へ押し入って、二人とも取り押さえましょう」

 朋輩たちは家の中へ押し入り、二人とも取り押さえてしまった。

 するうち、燈火がふっと消えた。

「女を取り逃がすな!」

と声々に云って、取り押さえた女を外に連れ出し、松明で照らせば、男が仕えている主の飼っている唐猫であった。

「無礼をするな! 殿が大切にされている唐猫だぞ」

 別の者が叫ぶと、抱いていた者の腕の力が緩んだので、その隙に、

「かい、かい」

と鳴いて、唐猫は藪の中へ逃げてしまった。

「さてはあの唐猫も狐であったか」

 一同、頭を掻いたということだ。

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