第69話 まさかバレるとは……

「話……一体何だ?」


 これからの怪獣対策なのかなと最初は思っていた。

 ただ俺が尋ねて返ってきたのは、


「悠二さん、あなた1回死んだ事ありませんか?」


「えっ?」


 周りの時が止まったような感覚に陥ってしまった。

 

 何故彼女がそんな事を知っている?

 俺は確かに前世でタラスクに殺されて、ソドムとして転生を果たした。誰にも話していないのだが……。


「……何でそう思って」


「魂です」


「魂?」


「舞さんの生み出す怪獣を何度か見てきたのですが、生物にはあるべき魂が感じられない。つまり生きているようで生きていない存在なんだと思われます。しかし同じく生み出された怪獣である悠二さんには、魂らしきものが見える」


 フェーミナが一呼吸入れて、


「それとある異世界に、この世界に現れた怪獣の存在が投影されるという事象が発生した事があります。そこで怪獣に襲われて死亡した人間がいたらしいのですが……もしかすればその人間、あなただったのではないのですか? そうして殺された後、その姿に転生したと考えれば合点がてんが点く」


「……そこまで言われたら隠し事できんな……うん、その通りだよ」


 俺はこの日まで、自分が就活難の大学生という事を明かさない事に決めていた。


 舞さん達は、俺を1人の男の子として扱ってくれている。

 そんな彼女達の想いを踏みにじるのはよくないと思い、この秘密を墓場まで持っていくつもりだった。


「やっぱりフェーミナにはお見通しなんだ、そういうの」


「……申し訳ありません、さすがに尋ねるのはやめようとも思ったのですが。もちろんこの事は……」


「うん、舞さん達には言わないで。それとさ、やっぱり幻滅したじゃない? 俺がただの大学生だってのを」


 何せ、今の可愛い男の子とは程遠い姿だ。

 幻滅してもおかしくない。


「いえ、全く」


「えっ?」


「あなたの魂から、前世のお姿が微かに感じられます。別に容姿は悪くないと思いますよ」


「……ほんとかよ?」


「嘘を言ってどうするのですか?」


「……マジか」


 まさか前世の容姿が悪くないとは……。

 いや、それよりも元いた世界はどうなったのだろうか。


「俺を襲った怪獣って、あれからどうなったんだ?」


「普通に消えました。特に街に被害をもたらしていないので安心して下さい」


「そっか。よかったよ」


「元の世界に未練あります?」


「さて、どうだかな」


 もう死んだ身なのであれこれ考えていなかったが、被害が出ていない事にはさすがにホッとした。

 もう俺はあの世界での悠二ではなく、この世界での悠二だ。ここで悔いのない人生を送っていきたい。


 ……あと最近言われてないから、苗字を忘れかけているような。

 東麻でいいよな? 間違えていないよな?


「それともう一つ話が」


「えっ、まだあんの?」


「舞さんのアシストもさることながら、あなたはあらゆる戦局への対応力が高く、人間の状態でも怪獣の力を扱える。敵の怪獣以上のポテンシャルを秘めているのは間違いありません」


「その心は?」


「私は期待しているのです。あなたなら、どんな怪獣が現れようとも必ず勝つ事が出来るはずです」


「…………」


「どうしました?」


「いや、さっきの前世の事もそうだけど、やけに褒めてくるなぁって」


 これが舞さんとかなら納得はする。

 しかし相手は、なじる事に定評のあるフェーミナだ。


 そんな彼女が微かに「んぐっ……」と、図星をさされたような顔をした。


「あ、ありのままの事を伝えただけです! 悠二さん、あなたは自意識過剰にほどがあります!」


「えー……」


 まさか自意識過剰と言われるとは。


「とにかく遊ぶのは結構ですが、警戒は緩めないで下さい。奴がどう動くのか私でさえ分からないのですから」


「お、おお……分かった」


 フェーミナって変な奴……。


 そう思った途端、誰かが来たのか砂浜を踏む音がしてきた。

 タブレットを持った舞さんだ。


「あれ舞さん、もうマッサージいいの?」


「うん、結構よかった。ちなみに光ちゃん達はまだやっているよ」


 光さん達の方を見てみると、全員が気持ちよさそうに眠っている。

 完全にマッサージの影響だ。


 一方で舞さんが俺の隣に座った後、タブレットを起動し始めた。

 そこからイラストアプリを開いて、ある怪獣の絵を表示させる。


「アメミット……何すんの?」


「この子を強化するつもり。とにかく色んな能力付けてみるよ」

 

 アメミットは以前、カブトムシ型怪獣タイタンの戦いで実体化した奴だ。


 持っている能力はというと『突風が起きるほどの吸引力で敵を呑み込む』。

 アメミットが超巨大なので、数体を呑み込む事が可能なのだ。


「牙をミサイルのように放つ。あとは……悠二君、この子に適した能力って何だと思う?」


「そうだなぁ。周囲に光学バリアを形成するとか?」


「バリアね……。分かった」


 ブツブツ呟きながら、プロフィールに文章を追加していった。

 まるで次の戦いに備えているかのように。


「アイツに向けて調整しているのか?」


「じゃなかったらこんな事しないよ。それに私、どうしてもあの怪獣だけは放っておけないって思っている」

 

 舞さんがこちらに向く。


「前に悠二君、波留ちゃんを捕まえて生体検査してたとか言っていたよね? アイツは悪だよ……ここで仕留めないと、また波留ちゃんのような被害者が出る。絶対にああいうのは倒さないといけないんだよ」


「……舞さん」


「アイツを倒す為なら、私も出来る限りの事をやってみる。この能力はその為に発現したんだから」


 強い覚悟の現れだった。


 波留ちゃんを弄んだ怒りがそうさせたのだろうか。

 こうなったら俺から言う事は1つ。


「舞さん、一緒に奴を倒そう」

 

「うん」


 彼女は俺の言葉にうなずいてくれた。

 こうして出来上がったアメミットのプロフィールは、以下の通りになった。 



 巨顎怪獣 アメミット

 全長:200メートル

 体重:1050トン


 まるで山のような巨体を誇る超大型怪獣。

 突風が起きるほどの吸引力で敵を呑み込み、捕食をする。さらに牙をミサイルをのように発射するほか、自身の周囲に光学バリアを形成する事が可能。

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