第68話 海は広いな大きいな

「よっと……こんなんで大丈夫ですか?」


「上出来だ! まだ小学生なのに手伝ってくれるなんて偉いなぁ」


「はは、どうも……」


 舞さん達が着替えている間、俺と叔父さんはパラソルとシートの準備に取り掛かっていた。


 その場所から見える砂浜と海は、本当に綺麗だ。

 ザザーという波の音、砂浜を歩くカニ、薫る潮風……バカンスにはうってつけだ。


「…………」


「おっ、どうした?」


「いえ、ちょっと考え事を……」


 被害を最小限にする為とはいえ、この無人島を怪獣との戦場にするのは気が引ける。


 一応光さんは「人命が守れるならどうって事ないよ」とは言っていたものの、ここはあくまでも叔父さんのものだ。

 光さんが許しても、叔父さんはどう思うのか。


「あっ、さては少年。女の子達の着替えシーンとか考えただろ!?」


「まぁそうですかね……ってえっ!? いやいや違いますって!!」


「何でぇつまらんなぁ。ちなみにあの中で誰が一番可愛いと思っている? 俺は断然姪の光なんだが」


「えっ、えっ、えーっと……」


 あの中から一番可愛いのを選べ? なんて無理ゲーだ。


 舞さん……は確かに可愛いけど、一番かというと何か違う。

 光さん……違う……勇美さん……波留ちゃん……フェーミナ……それも違う……。


 玲央ちゃん……確かに可愛いは可愛いけど、性格がなぁ……。


「……ぜ、全員……」


「ハッハッハ!! 誰が一番って選べないって感じか! 気に入った! もし高校卒業したらウチの会社に就職しな!! たんと面倒見てやるぞ!」


「えっ、こんな曖昧なのに気に入ったんですか?」


「全員を平等にするのは良い判断だからな。そういう人間がウチの会社に不足気味だから、もし気が向いたら応募でもしてくれ」


「……考えておきます」


 変わった人だな……でも悪い人ではない。

 もし前世の世界で彼と彼の経営する会社があったら、すぐに応募したのに。


 それとこういうフランクな辺りが光さんにそっくりだ。

 血は争えないというべきか。


「ところで社長さん……」


「おっと、叔父さんで構わんよ」


「じゃあ叔父さん。もしこの島が何かの理由で荒れたりしたらどうします? 台風とか人災とか」


「ほぉ、変わった質問するな。俺は別にどうもしないけど」


「えっ?」


「最近怪獣が出て被害こうむっているだろ、この日本。でも奴らが現れても世間はめげずに立ち上がっている。この島も同じで、例え樹木が折れるほどの災害が出ても、時間が経てば元通りになる。そういう強大な力に対しても頑張ろうという姿勢、好きなんだよな俺は」


「……変わった答えですね」


「ああ、よく変わっているって言われている」


 こういう時「島が荒れると面倒だから~」なんて答えが出ると思っていたが。

 もしかしたら叔父さんがこう考えているから、光さんはこの作戦を実行したのかもしれない。


 そう思っていた途端、背後に気配を感じたので振り返ってみた。


「お待たせ、悠二君」


「おっ、来ましたか来ましたか」


 叔父さんの言う通り、舞さん達がやって来た。

 全員が水着を隠す為のパーカーを着ているのはいいとして、何故か光さんが意気消沈した顔をしていた。


「皆パーカーかいなぁ。というか光、どうしたんだ?」


「ああうん……ちょっと拷問に遭いまして」


「拷問?」


「と、とにかく元気はまだあるから! せーの……ドーン!!」


 元気を取り戻した光さんがパーカーを脱いだ。

『光』の名にふさわしく、淡い黄色のフリル水着。これには叔父さんが大喜びだ。


「おお、さすが我が姪!! 可愛いじゃないか!!」


「元から可愛いもーん。どう、悠二クン?」


「……う、うん……似合ってる」


「えへへ、ありがと!」


 スタイルの良い身体を包み込むような水着……これは男子には目の毒だ。

 元から美人ギャルな光さんが、海に似合う水着ギャルになったという。


「ところで『せーの』って言った割には、光さんが先に脱いじゃったね」


「えっ? あー皆!! 何で遅いの!!」


「いや、タイミングがな……なぁ舞?」


「うん、いきなりせーのって言われても」


 どうやら光さんが勢い余って先行した模様。

 彼女らしい。


「まぁ、私達も脱ぐか。ほらっ、玲央ちゃん達も」


「ほーい」


 勇美さんの一言で、全員がパーカーを脱ぎ始めた。

 

 それはまさしく、この無人島で開かれるミスコンテスト。


 まず勇美さんとフェーミナ。偶然なのか不明だが、どちらもスポーツビキニだ。

 それぞれ別の意味で活発な彼女達にはぴったりだ。


 次に玲央ちゃんと波留ちゃん。

 オーソドックスなビキニだが、発展途上な彼女達にすごくマッチしている。


「は、恥ずかしいです……」


「だって。ユウ君どう? このビキニを着て悶える波留ちゃんの姿」


「悪くないと思うよ……波留ちゃん、すごく可愛い」


「本当ですか……よかった……」


 小動物のようにモジモジする。

 そういうところが可愛んだよなぁ。


「でも何だろう。なんか違和感が……」


「それはアレだよ。私がビキニ着ている事だよ」


「あっ」


 言われてみれば、玲央ちゃんはそういう女子力にあまり興味がないはずだ。

 オシャレな水着よりもスク水を着そうなイメージ……と言ったら失礼だが、本当に着そうだから困る。


「実はね、波留ちゃんから『玲央ちゃんは可愛んだからちゃんと着ないと』って言われちゃって、渋々買わされたんだよ。本当はスク水着たかったんだけど」


「本当の事じゃない……! 玲央ちゃんもったいないよ……!」


「いやいや、いやいやいやいや……分かってないな波留ちゃん。可愛い水着は自分が着るよりも波留ちゃんみたいな子が着るもんなんだよ。という訳で全身舐め回したいので撮影させて下さい」


「嫌です……」


 玲央ちゃんの哲学に、確かにと思ってしまった自分が悲しい。


 玲央ちゃんも可愛いからビキニが似合っているが、どうも本人はその事に無頓着なようだ。

 確かに波留ちゃんの言うようにもったいない。


「じゃあ、舞さんの水着姿撮影させて下さい。視姦させて下さい」


「視姦って何、玲央ちゃん?」


「あとでググった方が早いっすね」


 そして舞さん。


 何と舞さんの水着は黒のクロスホルター。黒の水着と色白の肌がいいアクセントになっている。

 ナンパに出くわすのが嫌だと控えめにしていたらしいが、ハッキリ言いたい……全く控えめになっていないのでは?


 寝る時のダサシャツといい、やはり彼女は天然だ。

 もし周りに男がいたらすぐにナンパされてもおかしくないよ。


「舞さん……すごく……」


「ううん、言いたい事は分かるから。やっぱり黒はいいよね! 悠二君と同じくカイザー色!」


 いや違う。どうあがいても違う。


 もっとも、カイザーと同じ色というのは舞さんにとっての賞賛だから、ある意味で「可愛い」とほぼ同義に……なるのかな?


「うん、まるでカイザーの衣を纏っているみたい」


「フフッ、ありがとう。すごく嬉しい!」


 ちょろい。心配になるくらいにちょろい。

 これには波留ちゃんが「それでいいのかな……」と小声で呟いていたが、残念ながら舞さんの耳には届かなかった。


「悠二クンもそのトランクス似合っているよ! 色も舞とお揃いだね!」


「それに悠二君の生足もいいな……舐めたくなる」


「ありがとう、光さん、勇美さん。じゃあ俺達そろそろ」


「おお、たっぷり楽しめ! 荷物は俺が見張っておくから!」


 こうして俺達の海が始まる。

 ちなみに勇美さんの発言は華麗にスルーしておいた。


 もちろんこの瞬間に、あの機械目玉が現れる可能性もある。

 しかしそれまでにバカンスは楽しんでおくつもりだ。

 

 フェーミナがマーキングを行っているので、奴がどう動くかはある程度分かる。


 奴がここに現れるのならそれでよし。 

 もし遠くの方に現れたら瞬間移動で急行。現れなかったら次への対策を練るまで。


「舞、確か水泳教室経験だったよな。私と一緒に勝負しないか?」


「いいよ。悠二君もやる?」


「やるやる」


 俺と舞さんと勇美さんは水泳レースを。

 2人ともなかなか速かったが、俺の方が断然一番だった。ソドム時の遊泳力があってこそだな。


 光さんは玲央ちゃんと波留ちゃんと一緒に、砂のお城を作っていた。

 3人とも夢中になったせいか、お城の大きさが尋常ではなかった。もはやアーティストの類。


 最後にフェーミナ。彼女は砂浜に設置したビーチチェアーでくつろいでいた。

 かけたサングラスの影響で、海水浴にお忍びに来た女優に見えたのは内緒だ。


「おーい、マッサージ師が来たぞ! 揉まれたい子は集まれぇ!!」


 遊んでいる最中、叔父さんが俺達を呼んだ。

 彼の周りには数人の女性マッサージ師が集まっている。どうやらクルーザーが一旦東京に戻ったのは、その為だったようだ。


 これには舞さん達が喜んで参加。

 砂浜の上に並びながらマッサージ師に揉まれていた。


「あっ、そこ……気持ちいい……ん……」


「こんなの……初めて……」


 舞さんと光さん、声がエロいです。


 俺とフェーミナは不参加だ。

 俺は舞さん達を見届けてから、フェーミナの隣へと座った。


「フェーミナはやらないんだ、マッサージ」


「あまり興味はありませんからね。こうやってくつろいだ方がいいです」


「そっか。あんたらしいよ」


 そこから無言になって海を眺めていた。

 途中で俺の前にカニが歩いていたので観察したりもした。そうしていると、

 

「悠二さん」


「ん?」


 フェーミナの顔がやや険しくなっていた。


「舞さん達には聞こえないと思います。少し話があるのですがよろしいですか?」

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