第56話 ショッピングモールでお買い物

「えー、もう帰っちゃうのぉ?」


「はい。あの、ご迷惑をおかけしました」


「いやいやそんな! むしろ私達の養分になれたよ!」


「「確かにねー!」」


 そろそろおいとまするので、俺は昇降口辺りで女子生徒達に別れを告げた。

 目に見えて残念がる子もいれば、ホクホクと満足感を浮かべる子もいる。そもそも養分とは一体……。


「そうだ。実は夏休み中プールが解禁されるんだよ。生徒の身内なら入れるから、悠二君もどう?」


「えっ? えーと……考えておきます。というかお邪魔になりませんか?」


「お邪魔なんてそんなぁ! むしろ来てほしいくらいだよ!」


 1人の女子生徒が手を振った時、


 ――ビューン!!


 急にすごい風が俺達を襲った。

 女子生徒の何人かがスカートを押さえていたが、ある1人が間に合わなかったようで……。


「!!」


 顔をさっとそむいてしまった。

 見てしまった……見てしまったよ! 女子の薄ピンクの……!


 これは怒られるどころか殴られても仕方がない!


「もう、エッチな風~」


「というかあんたのパンティー、悠二君が見てたっぽいよ?」


「えー本当!? ごめんね悠二君、刺激的だったでしょう?」


「えっ?」


 何故か女子が怒らなかった。一体どうしてだ?


 ……いや、それは俺が年下の男の子だからだ。

 これが高校生だったり大学生だったりしたら怒られはしただろうが、男の子なら「見ちゃったら仕方ないかー」と済むのでは?


 ……この姿でよかった。いや、悪い事は悪い事なのだが。


「ご、ごめんなさい……」


「いいよいいよ。それとももう一回見る?」


「い、いいです! じゃあ、俺はこれで……!!」


 殺す気か!! それはもう逃げるように、校門で待っていた舞達へと向かった。

 合流したところで光さんが言う。


「いやぁ、やっぱ悠二クンは人気者だねー」


「確かにな。おかげで人気アイドルを守るスタッフの気分になれたよ。……いや、むしろ王子様を守る女騎士かも……」


「女騎士かー。勇美もたまにはいい事言うじゃん」


「たまにって何だよ、たまにって」


 実に楽しそうで何よりだ。


 それから大戸学院を後にして、帰りの電車に乗っている時。

 ここで光さんがある話を持ちかけてきた。


「買い物?」


「そうなんだよー。化粧品が足りなくってさぁ。だから本多駅じゃなくて若狭わかさ駅で降りてくれない!?」


 舞さんに対して両手を合わせてくる。


 どうも化粧品を買いに行きたくて、若狭駅近くのショッピングモールに行きたいとか。

 光さんはそのデショッピングモールを行きつけとしているらしいが、俺も舞さんも出向いた事がない。


「そういえば私もリップ切れそうだった……うん、付き合うよ」


「ありがとう舞! じゃあ勇美は……」


「あーすまん、ジム行かなきゃならんのだ。最近期末で汗を流してなかったし」


「むー、せっかくだから勇美もオシャレすればいいのにー」


 ふくれっ面をする光さんに勇美さんが「そんな事言われても……」とこぼす。

 確かに勇美さんも化粧はしているが、ほとんどスッピンレベルだ。光さんの言う通り、それなりにやっておけばさらに美人度が増すと思うのだが。


『では私はなるべく喋らないようにします。何かあったら言って下さい』


「うん、分かった。まぁ、そんなタイミングよく怪獣出る訳ないだろうしね」


 アルマライザー状態のフェーミナへと返事する光さん。それがフラグにならない事を祈りたい。

 ともあれ乗っている電車の速度が落ち、ある駅へと停車した。


「という訳で私は降りるわ。悠二君、今日も君に出会えてよかったよ」


「うん、こちらこそ」


「出来ればもうちょっとイチャイチャしたかったけど……」


 小声で言ったつもりだろうがただ漏れである。


 勇美さんと別れた後、俺達の乗る電車がさらに次の『若狭駅』に到着。

 降りてすぐに目的のショッピングモールが見えてきた。


 名前は『若狭グランドタウン』と言い、二つの建物で構成された大型商業施設だ。


 それぞれ建物には『ソヨカゼ』『シンリン』と振り分けられていて、光さん目当ての化粧品売り場は『シンリン』のところにある。

 ちなみに俺達がいるのは『ソヨカゼ』の方だ。


「という訳でここから『シンリン』の方に行くよ」


「それだったら直接外から入ればよかったんじゃない?」


「だって今暑いし、『ソヨカゼ』の中を通りながら向かうのが好きなんだもん」


「なるほど……」


 光さんのごもっともな発言に納得した。


 早速『ソヨカゼ』内を通る事にした俺達。

 中はとても広く、多くのテナントがズラリ並んでいた。レストラン、服売り場、おもちゃ売り場、靴売り場などなど……。


 その全貌に圧巻していた矢先、ふと見知れた人物が歩いているのが見えた。

 あれは確か……彩木兄妹。


「早く早く! もしかしたらもういるかもしれないじゃん!」


「慌てんなよ。まだ予定までたっぷりあるっていうのに」


「アキ君、そんな気でいたら……ってあっ、ユウ君」


「おう……」


 俺に気付いた玲央ちゃんに対し、軽く返事をした。

 それにつられて舞さんや光さんも兄妹に気付いた。


「玲央ちゃん。それに晃さんも」


「おや、知っている人?」


「うん、最近知り合って。どうもご無沙汰しております」


「おお、宝田さん、悠二君。それと……宝田さんのお友達かな?」


 続いて晃さんも気付く。

 兄妹の視線が光さんに注いだのを機に、彼女が元気よく挨拶した。


「どうもこんにちは! わたし萩山光と言います! 舞と悠二クンのフレンドです!」


「こちらこそ。俺は彩木あき……」


「絶対領域……生足……開いた胸元……美人ギャル……! ラノベに例えるなら、陰キャ主人公にぐいぐい迫りながら色仕掛けしてくるヒロイン!!」


「この場でセクハラ言うな!!?」


 妹に対しすかさずツッコミを入れる晃さん。

 相変わらず妹の方は、ラノベのヒロインに例えるのが好きなようだ。

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