第55話 これもうアイドルだよね?(なお中身は怪獣)
前世もそうだったが、学校は夏休み冬休み前になると時間短縮になったりする。
大戸学院も例外ではなく、昼前には授業が終わる予定となっていた。
俺は午前授業が終わるまで警備員の待機室で待つ事にした。
最初の数分はそうでもなかったが、次第に時間が経つにつれて暇になってきた。
そんな俺に気遣ってか、警備員の人が「もし暇だったら学院を回ってもいい」と言ってくれた。
それに乗った俺は早速、学院の中を回ってみた。
もちろん迷子にならないよう、警備員の人も同行してくれる事に。
「大きい! これが屋内プールとかすごい!」
俺が張り付いたガラスの奥には、巨大なプールが広がっていた。
その規模はもはや学校というか、そういう娯楽施設の方にしか見えない。
奥には飛び込み競技用と思われる別のプールと高台も設置されていて、どちらも多くの生徒が優雅に泳いでいた。
「びっくりするだろ坊主? といってもまだまだ色んなのがあるけどな」
「へぇ!」
警備員と一緒に別の場所へ移動した。そこから驚きの連続だ。
次に現れたのは、映画館もかくやというシアター室。
いわゆる高校の視聴覚室のようなものだが、それとは全く比べ物にならない。
さらに多くの馬が住んでいる乗馬場。
何でも『馬術部』というのがあるらしく、実際に馬に乗る生徒もいるとか。
そして大画面のモニターがでかでか設置されたハイテクなルーム。
何とeスポーツ専用の部屋で、その名もズバリ『eスポーツルーム』だというのだ。
「eスポーツもなんですか!? こんなの設置してあるなんて!」
「『eスポーツ部』の専用部屋らしいんだ。おじさんもこっちに異動された時はびっくりしたよ。さすが名門って感じだわ」
「ですよね! 初めて見ましたよ俺!」
「……お、おう……」
俺が目を輝かせながら警備員に振り向いた。たじろく警備員さん。
何を思っているのか分からなくもないが、あまり入り込まないようにしておいた。
「なぁ、ちょっといいか?」
ルームを覗いていた俺に突然来客が来た。
さっき外にいた男子生徒達だ。
「どうしました?」
「いや、さっき宝田さん達と仲良さそうに話してただろ? もしかしたら君、噂になっている宝田さんの弟か?」
「まぁ……そうと言えばそうですけど……」
「やっぱりな! いやぁ、お姉さんにそっくりで可愛いなぁ!」
「俺達、eスポーツ部員なんだ。もしよかったら一緒にゲームやらねぇか?」
……あーはいはい、そういう事な。
彼らは俺を懐柔して、舞さんに近付こうとする魂胆だ。
それほど舞さんがモテる証だろうが、しかし残念。見え透いた誘いには乗らないつもりだ。
「えっとすいません……ゲームにはあまり興味なくて……」
「「そっか……」」
どんよりした空気が出るくらい落胆してしまった。
本当に申し訳ない……でも舞さんを守る為にはこうしなければいけなかったのだ。
「ちくしょう……俺も宝田さんの弟に生まれたかったな……。そんで頭をよしよし撫でられたい……」
「俺は萩山さんの胸に抱かれながらバブりたい! あと結川さんの膝枕とかも!」
「分かるー! そんでさ、3人が着替えている時に堂々と入ってさ、『女の子の裸見たいの?』とか言われたい!」
キメェ……。
俺が白い目で見ているのに気付かず、男子生徒達が「でも現実はこうだよなぁ……」とトボトボ離れていった。
その数十分後、いよいよ生徒達の下校時間となった。
ただ憩いの場として食堂は開いているらしく、授業帰りの生徒が寄ったりもするという。
舞さんが俺を食堂に招待したのはその為。
待機室で待っていたところ舞さんが迎えてきてくれて、一緒に食堂へと向かった。
――そこからが大問題だ。
「はい、悠二君」
「ど、どうも……」
食堂はレストランよりもかなり広かった。
さらにプロのシェフが作っているだけあって、料理のレパートリーや美味しさは舞さんのお墨付きだ。
彼女が注文してくれたものはイチゴベースのパフェ。
あまりにも常識外すぎて、メニュー表で見た時は二度見したものだ。
普通、学校の食堂でパフェが食べられるなんてないし、しかも見た目からしてかなりゴージャスで気合い入れすぎだ。
「美味そうだ。いただき……」
パフェを口にしようとした瞬間だった。俺の言葉を阻むような多くの視線。
実は舞さんら3人組(+変身アイテムになった1人)だけではなく、さっきから数人の女子生徒が集まっている。
しかもこちらをじっと見たり、中にはスマホを掲げている人もいた。
……正直食べづらいんですが……。
気になって仕方ない状況なのだが、でも舞さんが奢ってくれた以上は完食しなければ。
なるべく周りに惑わされないままパフェを一口すると、
「ふわぁ……男の子の食べる姿っていい……」
「すごい可愛いね……」
「あーんしてあげたいなぁ……」
やっぱりだった……。
何でこう……俺の周りはショタコンが出来てしまうの……?
「ほらっ、悠二クンが集中して食べられないでしょ! なるべく撮影はなし!!」
「そうだぞ! 気持ちは分かるが少し落ち着け!!」
なお女子生徒達は光さんと勇美さんが封じ込めている。
まるでアイドルを守ろうとするスタッフみたいだ。
ただ勇美さんはこちらを見てよだれを垂らしているので、言葉に説得力がない。
「もう酷いなぁ! でも、宝田さんにこんな可愛い親戚の弟がいるなんて思わなかったぁ!」
「やっぱり家では素直なの!?」
不満をこぼしながらも尋ねてくる女子生徒達。
舞さんはそれはもうニコニコ顔をして、
「うん、素直だよ。家の手伝いもしてくれるし、一緒に遊んでくれたり。もう本当の弟じゃないかなって思うの」
「偉いなー。うちの弟は生意気でさぁ、よく家政婦さんをこき使っているんだよねぇ」
「弟って神経図太いイメージあるもんね。悠二君は宝田さんが好きなんだなぁ」
「……!!」
一瞬イチゴで喉を詰まらせそうになった。
今まで心の中で思っていた事を、こうも言われると仰天してしまう。
確かに……俺は舞さんの事が好きなのかもしれない。
舞さんは間違いなく魅力的で心優しい。怪獣がらみになるとテンションがおかしくなるのも愛嬌の一つだ。
俺も怪獣好きだから話のタネを作りやすいし、彼女と一緒に料理しているところなんかも楽しい。そして俺に向けてくる笑顔が……何よりも好きだ。
ただ問題は、俺が元人間とは言えあくまで怪獣という事だ。
怪獣が人間と本気で交際できるのかという根本的な疑問が渦巻くのだ。
舞さんはその辺気にしないだろうが、俺としては将来的にどうなのかという気持ちになる。まさか人間に戻れる術がある訳でもないし。
まぁ、考えるのはやめておこう……。
まずパフェが溶けない内に食べておく事にした。
「……悠二君のモグモグ食べてる姿……ハァ……」
あろうことか、清楚な舞さんが口元を歪めつつ赤らめていた。
大丈夫っすかね、舞さんや……。
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