第38話 ソドム・フェーミナVSタイタン 1
それはどう見ても有名なヘラクレスオオカブトに酷似していた。
青黒い外骨格と赤く光る複眼をして、2本脚で立っているヘラクレスといった趣きだ。
ただカブトムシ特有のブラシ状口は、針のような無数の牙を生やしたものに変わっている。
そこから爪でひっかくような耳障りな咆哮を出していた。
――ギイイイイイイイイイイ!!
怪獣は倉庫や建物を四本腕(あるいは脚か)で荒々しく叩き潰している。
既に襲撃してからそれなりに経ったのか、辺りに瓦礫と黒煙が見受けられた。
しかしそれに黙っている防衛軍ではないらしい。
基地に配備されたらしい数台の戦車が怪獣へと砲撃している。空間をつんざくような音は、俺も舞さん達も咄嗟に耳を塞ぐほどだ。
しかし怪獣には全く効果なし。そればかりか建物から戦車に標的を変え、棘を生やした腕を振り下ろしていた。
戦車から軍人達が逃げていった直後、それを破壊。さらに2台目を掴んだと思えば、口に運んで
「怪獣って建物じゃなくて戦車も食べるんだな」
「怪獣1号が車を食べたなんて話は聞いた事があるけど……」
俺の独り言に光さんが答えた。どうも建物だけ狙っている訳ではないらしい。
いずれにしてもこのまま怪獣を放っておく訳にはいかない。
奴には
「舞さん行ってくる。光さん」
「うん。ようやく一緒に戦えるね、悠二クン」
そう、光さんと共闘するのはこれで初めて。怪獣と巨人のコンビだ。
俺はソドムへと変身。光さんは「フェーミナ!!」と叫びながらアルマライザーを掲げ、フェーミナ・アルマへと変身。
この壊滅した防衛軍基地にソドムとフェーミナが立ち上がった。
『これがフェーミナさんの姿……ぐんぐんカットも見えた……』
「あっ、やっぱり舞さんも?」
あのカットが錯覚ではない事が地味に発覚した。
俺達の存在に気付いた怪獣が振り向き、喰いかけの戦車を乱暴に投げ捨てている。
敵意マシマシだ。
「聞こえますか舞さん? そのタブレットで彼と通話できるようなので、私の声も届くように仕掛けておきました。何かありましたらタブレットを通じて下さい」
『フェーミナさんの声が聞こえる……!? あっ、えっと、その怪獣は今から「タイタン」と名付けるね! 頑張って2人とも……じゃない3人とも!』
「ああ」
『りょーかい!』
返事する俺と光さん。
ちなみにタイタンというと怪獣王を思い出すがそれは置いとく。
先にフェーミナが走り、タイタンと呼ばれた怪獣へと貫手を繰り出す。
タイタンは背中からカブトムシらしい
――ギイイイイ!!
ひと鳴き上げた時、立派な2本角から電流がほとばしった。
次の瞬間に落雷が放出され、俺達めがけて降り注ぐ。
俺達は反射神経がいい方なので、気付いた時には回避できた。
しかし惜しい。少年姿では尻尾が生えていないせいで、尻尾の先端に落雷がかするというミスをしでかしてしまった。
「……っ!」
『悠二クン!?』
「先端が当たっただけだ!」
すぐさまマンティコア戦で取得した棘飛ばしを繰り出し、宙を飛ぶタイタンを向かわせる。
ちなみにこの技はまだ悩んでいるので未名称だ。
1本目はかわされた。
しかし操作は出来るので、Uターンしてタイタンの背中を貫いた。続けて腹部にも。
二段攻撃を受けてふらふらと落下するタイタン。
「グオオオオオオオ!!」
俺は咆哮を上げながら全力接近した。
タイタンがもう一回飛ぼうとしていたが、そこをフェーミナが光刃≪アルマスラッシュ≫を放って、羽根を斬り落としてくれた。
パタリと落ちる翅を見下ろすタイタン。よそ見は戦場においては禁物――隙を突いて四本腕のうち1本を掴んだ。
――ブチイイ!!
1本を強引に引きちぎる。吹き出る黒い血。
次にタイタンの身体を掴み、首元を噛み付いた。固く筋張った感触だが、それでもやめない!
――ギアアアアアアアアアアア!! ギイイイイ!!
悲鳴を上げるタイタン。しかし角から電撃が走っていた。
このままでは電撃が伝わってしまうと察し、噛み付きをやめて蹴り飛ばす。奴の身体はまだ無事だった倉庫の上に落下、倒壊してしまった。
……倉庫内に人間らしき反応がなかったので大丈夫のはずだ。
俺は人間を赤い点として見つけやすくなっているので巻き込む心配はない。……建物の弁償は出来ないが。
『悠二君、さっき尻尾に落雷当たったけど大丈夫!?』
「ああ、ちょっと痺れたかなってくらいだよ。……ていうか舞さん、スマホで撮影してる?」
『えっ!? 何で分かったの!?』
「微かに撮影の音してるから」
『ほんと!? ご、ごめん! 嫌だったらやめるけど……』
「いやいやとんでもないよ! むしろそのまま続行していいから!」
『そ、そう……それじゃ……ハアアア!! 悠二君カッコイイよぉ!!』
嬉しそうな声と共にカシャカシャと音が鳴っている。
うん、いつもの舞さんだ。
「ユニークですね、舞さん」
『でも何かこういうの新鮮だなぁ。ユニーク可愛い』
舞さんの性癖でドン引きするかと思ったが、フェーミナと光さんには好評だったようだ。
もっともそれを入り浸っている場合ではないが。
――ギイイイ!!
タイタンが血を滴らせながら立ち上がってくる。
次なる攻撃に向けて警戒を強める俺らに対し、奴が尻を向けてきた。
オナラでもするのかと場違いな感想をしてしまった時、尻からボールのような玉が次々と出てくる。
あれは卵か……?
その卵らしき物体が俺達の前に転がった後、すぐに中から弾けた。
――キシャアア!!
現れたのはタイタンを小さくして丸みを帯びた怪物の群れだ。
どうやら奴の幼体のようで、数え切れないほどに多い。
『うげぇ! うじゃうじゃキモい!!』
「落ち着いて下さい光。それとも一旦休眠しますか?」
『それじゃあフェーミナのスピード落ちるじゃん! わたしも戦うって決めたんだから!』
「助かります。≪アルマスラッシュ≫!」
フェーミナが腕を振るって≪アルマスラッシュ≫を放つ。
群れに着弾して数体は破裂した。しかし残りが散開してこちらに向かってくる上、数が減っている気がしない。
しかも何体かが急速に大きくなっていき、身体中から半透明の殻をボトボト落としていった。
外殻が白いのを除けば、親とほとんど同じ見た目に成長してしまった。亜成体と言うべきか。
「ならば……」
「悠二さん、行って下さい!」
これはマズいと≪サルファーブレス≫を吐こうとした時、フェーミナが叫んだ。
「フェーミナ……!?」
「この群れは私達が相手します! あなたはタイタンを!」
『頑張って! 何とか持ちこたえるから!』
「……ごめん、分かった!」
群れをフェーミナと光さんに任せ、俺はタイタンへと直進する。
また卵を産む前に仕留めるべきだ。
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