第37話 どんな遠いところも彼女がいれば安心
「愛知県?」
「ああ、愛知」
「……愛知……」
舞さんが聞き返したので返事したところ、すぐに彼女の表情が固まった。
「今まで関東圏内だったのに……愛知なんて1日2日で行ける距離じゃないよ……」
「まぁ……さすがの俺でも無理だよな」
例え身体能力が高い俺でも、愛知県となると数分で行ける距離ではない。
もし行けたとしても怪獣に襲われているだろう防衛軍基地は壊滅。怪獣もどこかに去ってしまうのがオチだ。
「まずいよ……。このままじゃあ防衛軍の基地が壊滅してしまうし……それに新技を取得した悠二君の怪獣プロレスが見れなくなる……!!」
「前者の心配と後者の心配の方向性が全然違うような」
「ああどうしよう……!! いつ怪獣が出てもいいように服とか準備しておいたのに……!!」
どうもオシャレな服から着替えたのはそういう為だったらしい。手際良いというか何というか……。
すると嘆いていた舞さんに見かねてか、光さんがわざとらしく咳払いをした。
「あーほん、悠二クン、舞。わたしとフェーミナの事はお忘れかな」
「光さん……そうか、瞬間移動か!」
「ご名答。その距離なら数分もかからずに着けると思うな。ね、フェーミナ?」
「確かにそうです。アルマライザーを移動手段にするのは好ましくないですが、怪獣が現れた以上そうも言ってられません」
不本意だと言いたげな顔をしたフェーミナだが、すぐにアルマライザーに戻った。
「外に行こ。舞も一緒に来て」
『あなたの能力がどういうものなのか確認したいですしね。ご同行願います』
「私もいいの!? 行きます行きます!」
普通、怪獣と遭遇するとしたら遠慮するところなのに、逆に行きたがるのが実に舞さんクオリティ。
しかし俺としてはこれでいい。先ほどの暗かった姿よりも、こちらの方が彼女らしく感じる。
俺達は広い庭に出て、光さんに密集するような形をとる。
その影響で舞さんと光さんの甘い香りが鼻をくすぐって悶々してしまうも、それがバレないよう平常心を保った。
「怪獣の場所には、アルマライザーが勝手に連れてってくれるから。じゃあ行くよ!」
光さんがアルマライザーを掲げると閃光が発する。
閃光が周囲を包みだした後、身体が浮くような感覚に陥る。
おそらく宙を飛行しているが、周りがバリアのようなものに包まれているので何も見えない。
「へぇ、こんな感じなんだ。……あっ、そうだ」
バリアを眺めていた舞さんがタブレットとタッチペンを取り出し、スラスラとペンを走らせた。
「もしかして今朝の怪獣イラストの続き?」
「うんそう。だんだんデザインのインスピレーションが出てきたんだ」
「そうか……じゃあ今の実戦で実体化できる?」
「能力を思い浮かべれば何とか。それまでちゃんと仕上げるよ」
『なるほど、タブレットで怪獣を作成するのですね。何とも斬新』
俺達が話していると、アルマライザーからフェーミナの感心そうな声が出る。
光さんも「ほぉ~」とタブレットの画面を覗いていた。
「舞、なかなかやんじゃん」
「そ、そう? でもごめん、覗かれると集中できなくて……」
「あっと、邪魔しちゃったね! でもチラリと見たけど、怪獣の絵上手かったと思うよ! イラストレーターになれるんじゃない!?」
「まぁ、大学卒業したらお父さんの仕事を手伝いながらイラストレーターの副業しようかなって」
「そこは本業じゃないの?」
「さすがにイラストレーターだけじゃ生活できないからね。あくまで仕事の合間にって感じで」
実に現実的で効率のいい将来計画。
俺が感心していると周りのバリアが徐々に消えていく。風景も露わになってきた。
『到着しました、目的地の愛知県です』
「本当に数分も経ってない……」
初めてではないとはいえ、まさか東京から愛知まで一瞬で移動するとは思ってもみなかった。
どうも町外れにあるらしく、辺りは森だらけで地面には雑草がぼうぼう生えている。
そして俺達の目の前には、フェンスに囲まれた物々しい建物と倉庫が存在する。これが防衛軍の基地なのだろう。
――ドオオオオンン!! ドオオン!!
ただ防衛軍基地には既に怪獣の姿があって、奴によって破壊の限りを尽くされていた。
まるで狂ったように腕を振るい、建物を瓦礫にする怪獣を、俺はこの目で確かめた。
「……ヘラクレスオオカブトか?」
怪獣を確認した時、そんな言葉が自然と出た。
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