第42話 腕輪をはめたら起こっちゃった(玲央side)

「玲央ちゃん……何描いているの……?」


 私が自室で作業をしていたところ、波留ちゃんが尋ねてきた。


 私の自室……いや、お城と言っていいだろう。そのお城内は数多くのフィギュアやプラモデル、そしてライトノベルなどの本が山積みだ。


 フィギュアは可愛い美少女やゲームのモンスターが中心。プラモデルは主にロボットアニメの機体など。

 ライトノベルは異世界ファンタジーやラブコメなどの種類があるが、どれもまだ完読していない。


「ユウ君と舞さんに因んでおねショタイラスト描いている。目標はいいね100万」


 机にはペンタブレットと大型パソコンを置いてある。これでイラストを描いているのだ。


 私はイラストをツイットに投稿したりしているが、それがまたいいねが10万以上出るほどの人気を誇っている。

 さらに発注依頼もわんさか来るので、それで得た金を作業道具や趣味への軍資金にしていた。


「悠二さんの……じゃあ可愛くてカッコよく描いているの……?」


「ん? まぁ、カッコいいはともかく可愛くしてるつもりだけど」


「……出来ればカッコよく……描いてほしいかな……」


 珍しい。波留ちゃんが私にリクエストするとは。


「分かった。可愛くてカッコよく仕上げるっと」


「うん、そうして……悠二さんがモデルなら……その方がいいから……。うん、その方が……」


 波留ちゃんがポワポワと浮かれたような顔をする。


 そういえば彼女、いつも引っ込み思案なのにユウ君を前にすると嬉しそうにしていた。

 いくらナンパから助けてくれた恩人でも、あそこまでグイグイ行くだろうか。


 言っておくが、波留ちゃんはクラス内で男子に人気だし、よく遊びに行こうとか誘われる事もザラだ。

 波留ちゃんの方は、それに興味ないとばかりにいつも断っているが。


「……何かボケーとしているけど、ユウ君が気になる?」


「……えっ? いや……そんな……」


「好きなんだ、ユウ君の事が」


「……! そ、そんなんじゃないよぉ……!」


 ハイキター!! 大当たりー!!


 ちょっとカマかけてみればすぐこれだ。

 これは波留ちゃん、ユウ君に脈ありという事になる!


 ユウ君は道行く女性が必ず振り返るだろう容姿端麗のショタ。

 さらに、おっぱいが大きくて美人な舞さんをお姉さんにしているというハイスペックの持ち主だ。


 見事に波留ちゃんは彼の沼にハマったという。

 彼女の恋がここから始まるといっても過言ではない!


「そうかそうか。頑張りなさいな」


「違うって……! もうあたし、帰るから……!」


「あい。気を付けてね」


 若干プンプンしながら部屋を出ていった。

 しかし私は知っている……あれは波留ちゃんなりの照れ隠し。きっと頭の中ではユウ君の事でいっぱいだ。


「舞さんに波留ちゃん……ユウ君ハーレムですなぁ」


 ユウ君は女性をイチコロにしてしまうだろう魔性の存在だ。

 このまま行けば、波留ちゃんと舞さんと一緒に愛の交錯(意味深)を……カッーヤバい!! そんなのを見れたら15年生きた甲斐があったというもの!!


 なお私が付け入る隙がないのだが、それでも構わない。そもそも私にそういうのは相応しくない。

 私はユウ君を取り巻くハーレムを体験できればそれで充分。遠くから見て愛でるだけでお腹がいっぱいになるのだ。


 という訳で、波留ちゃんを生温かく見守っていこうと思う。

 彼女の初々しさは私の大好物。彼女がユウ君に対してアワワしているところもぜひ見てみたいものだ。


「さてと、ここで中断っと」


 イラストは描いていると疲れが出る。

 一旦ペンを置いて休憩をはかどったところ、私の目線があるものに向いた。

 

 ゲーセンで見つけた白銀の腕輪。


 綺麗でファンタジー的だからついネコババした訳だが、やはり所有者はいたのだろうか。だとしたらこれがなくなって困っているのかもしれない。

 明日ゲーセンに行って、店員に落とし物として届けるべきか。


「……でもこれ、腕にはめられそう」


 それはそれとして、腕輪には少し興味があった。

 ちょうどサイズが私の腕にピッタリに見える。あと陳腐な発想なのだが……この腕輪からはめてくれと言われているような気がした。


 その腕輪を手に取った後、私は恐る恐るはめてみた。


「……………………まぁ、これを付けてスキルや魔法が付きましたーなんて……」




 独り言ちながら苦笑した、その時だった。

 

 急に腕輪が光り出す。

 驚いて椅子から立ち上がった私だが、さらに身体が何かに包まれる。よく見るとそれは白銀の鎧だ。


 やがて鎧が全身を包み込んでいくと、腕輪から光が消え失せた。


「……あーはいはい、そういう事な」


 この部屋には鏡がないので、どうなっているのかは把握できない。

 ただ全身を覆う白銀の鎧に横に広がったショルダーアーマー、長いスカートアーマー……これらからして、私は『変身ヒーロー』になったのだろう。


 普通なら慌てふためくだろうが、今や怪獣が出現するご時世なのですぐに受け入れられた。

 むしろこれ、かなりカッコいいではないか。少し性能とか試してみるのもよきかと。


「いっちょ行ってみますか」


 まず窓から出ようとした。

 その時にショルダーアーマーが引っかかって、出るのに苦労したが。


 変身ヒーローになったせいか、屋根から屋根へと軽やかに飛び越えられる。闇夜の中を飛び回るヒーロー……といったところか。

 こりゃあすげぇ……思わず口元がニヤケてしまう。なにせ特撮好きなら夢見る展開なのだから。


「おっ、これは……」


 ある違和感に気付いた私は、人気のない路地裏へと着地した。


 ここに何かいるような気がしたのだ。存在を感知したと言うべきか。

 それを確かめるべく前へと進んでいくと……人影らしきものが目の前から現れた。


 ――グルウルル……。


 紛れもなく人間ではない。


 トカゲの頭部に鎧に包まれた青い身体、爪を備えた四肢、長い尻尾。ファンタジーで言うリザードマンにそっくりだ。

 奴はまるで幽霊のような重い足取りをしていたが、やがて私に気付いて両目を向けてくる。

 その目は真っ暗闇でも映えるくらいに赤かった。


「これは倒せって事だよね? 武器は、武器はないのか?」


 変身ヒーローと言えば武器だろうとキョロキョロしていたところ、右手に光が集まる。

 それが形となって、何と棒のように長い武器になった。


 見た目はハルバードに近く、先端に二股に分かれた刃が付いている。カラーは今の私と同じく白銀。

 かなり重そうではあるが、ヒーローになったせいか軽々しく持てる。要はこれで戦えという訳だ。


 ――グオオオオオオ!!


 準備が整った途端、怪物がヨダレを垂らしながら迫り来る。

 奴が爪を振りかぶってくるので、私はそれをハルバードで弾く。相手がよろめいたところでキックをかます。


 吹っ飛ぶ怪物。その隙にジャンプしてハルバードを突き立てようとするも、怪物がそれを回避する。

 しかし私は着地と同時にハルバードを投げつけ、怪物の腹に突き刺した。黒い血のようなものが奴の周りに噴出する。


 私は怪物に向かい、ハルバードを持つ。そのまま上にずらすように袈裟斬り。 


 ――ズバッ!!


 鈍い音を上げながら、ハルバードが怪物の胸から肩にかけて断面を作る。

 事切れるように倒れる怪物。そのまま身体が溶けて黒い染みとなってしまった。


「はぁ、こんな感じか。よく戦えたなぁ自分」


 何か適当にやってしまったら倒してしまった。やべぇ。

 冗談と思うだろうが本当の事だ。特撮のお約束として『腕輪に戦闘データが組み込まれていて~』なんて可能性も捨てきれないが。


 それとこの怪物が何だったのか分からずじまいだ。


 よく出てくる怪獣はほとんどビルのように大きい。

 となるとモンスターか、あるいは特撮のか。


「……アキ君と波留ちゃんに自慢しよーと。ついでに名前考えよーと」


 考えていても答えなんて出る訳がない。

 私はこの姿をアキ君に見せようとアパートに戻った。

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