第32話 完全にデートです、本当にありがとうございました

「ふぅ……堪能した。とっても楽しかったよ悠二君!」


「……は、はい」


「じゃあ、私は時間を押してるからこの辺で。2人ともまたな!」


 肌ツヤツヤで清々しい表情を浮かべた勇美さん。

 彼女は俺と撮影していたスマホを見ながら、この場を後にした。スマホ歩きは感心できないが、今言っても耳に届くかどうか。


「…………」


 そんな事よりも、俺は一日分の疲れが出たのかとくらいにゲッソリしていた。

 勇美さんに振り回されるように撮影されるわぎゅっと抱き締められるわ、とても舞さんや光さんみたく温もりを感じる暇がなかった。


「悠二君、大丈夫……じゃなさそうだね……」


「死ぬかと思った……」


「すごかったもんね。まさかああなるなんて私も思ってもみなかった……」


 いつの日か彼女に食われてしまうのだろうか。

 ふとそんな事が頭によぎって苦く感じる俺だった。


「でもあの子も優しいからさ、あまり嫌わないでほしいな」


「うん、分かってる。早いとこ店に行こうよ」


 もちろん勇美さんを嫌な人だと思っていないし、それを伝えてからアパレルショップへと向かった。

 俺がそこに行くのは前世を含めて2回目だ。基本服はデパートの服屋で済ませている事が多い。


 アパレルショップに入ってみると、デパートでは見ないようなオシャレな服装がたくさん並んでいた。

 すぐに水着コーナーに向かった途端、舞さんが並んでいる品物を見て唸り出す。


「どれにしよう……あまり派手なものは好ましくないけど」


「そうなんだ。まぁそうだよなぁ……」


 派手な水着を着ていたら悪い虫ナンパが寄り付くだろう。恐らく舞さんはそれを嫌がっている。


 俺の前に広がっている女性用水着はどれも扇情的で、舞さんが着たら絶対に様になるのではと思うほどのクオリティを誇っている。

 特に端っこにあるフリル水着の数々。それを舞さんが着て、砂浜で誘うかのように寝そべって……。


 駄目だ……これ以上想像したら噴死してしまう……。


 ただでさえ魅力的なのに、そこにフリル水着を着たらもっとヤバくなる。

 溢れんばかりの煩悩をかき消そうとした時、突然舞さんが手をパンと叩いた。


「なかなか決まらない。先に悠二君の水着見ようか」


「ああ、俺が先?」


 ちょうど男用水着が近くにある。

 舞さんはその中にあるトランクスタイプに向かい、1つを手にした。


「悠二君は黒いトランクスが似合いそうだね。『カイザー』も黒い体色だし」


「それ関係ある?」


 ちなみにカイザーとは『怪獣皇帝モンスター・オブ・カイザー』に出てくる主役怪獣で、前世においての怪獣王に相当する。

 黒いトランクスを俺の下半身に添える舞さん。


「うんうんいい感じ。これを悠二君が着て、海辺で…………」


「……舞さん?」


「……ごめん。水着姿の悠二君を妄そ……考えてたら熱くなっちゃった……」

 

「…………」


 俺が舞さんの水着姿に悶々としていたように、舞さんも同じ事をしていたようだ。

 すると、そこにオシャレな格好をした女性店員がやって来る。


「お客様、いかがなさいましたか?」


「あっ、ちょうどよかった。水着の試着、この子にやらせたいですけどよろしいですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。そのトランクスならお連れ様にピッタリの……はず…………」


「?」


「……ショタの水着姿……色白の裸……生足……ハッ、申し訳ございません!! お客様のお連れ様があまりにも可愛すぎてつい……!!」


 すごい駄々もれを聞いてしまった……。

 さっきのバスの件といい、勇美さんといい、この世界の女性はショタコンがデフォなのだろうか?


 この後サイズが合っているかどうか試着したところ、これがなかなか合っていた。

 また「お互い楽しみにとっておこう」という舞さんの案によって、俺も彼女も試着している時はカーテンを開けない事にした。


 そこから自分達の水着を購入した後、いよいよメインイベントへと場所を変えた。

 待ちに待ったゲームセンターだ。


 中に入ると特有のゲーム音や雑音が耳をつんざく。

 UFOキャッチャー、レースカー、太鼓ゲームなどありふれた筐体が並んでいる様子だ。


「何やる、悠二君?」


「うーんと……UFOキャッチャーはどう? あそこに怪獣のぬいぐるみがあるんだけど」


「えっ、あっ本当だ! やるやる!」


 怪獣と聞いて目を輝かせる。そんなブレない舞さんが可愛い。


 舞さんはすかさず100円を入れ、ドラゴンに似た怪獣へとキャッチャーを降ろした。

 キャッチャーが怪獣を掴む……が、するりと抜けて失敗する。


「やっぱりこうなるかぁ……もう1回」


 落胆するものの、舞さんはめげずに再チャレンジ。

 俺がその様子を見守っていたところ、話し声が耳に入ってきた。


「おっ、怪獣のUFOキャッチャーか。やらない?」


「えー、怪獣なんてガキくさーい。それにリアルに怪獣現れて印象最悪じゃん」


「それもそうだな。じゃあ別のやつを……」


 どうもカップルが俺達のとは別のUFOキャッチャーを見ていたが、それが怪獣のぬいぐるみだと分かった途端行ってしまった。

 

 今のはかなり刺さる。

 俺自身怪獣好きだし、舞さんも言わずもがな。もし舞さんがそれを聞いていたら……。


「また失敗……! 難しいなぁ……」


 俺が目を離していた間、また舞さんがぬいぐるみを落としたらしい。

 カップルの話は聞いていないようなので、少し安堵する。


「舞さん、ちょっと貸して」


「えっ?」


 次に俺がやってみた。舞さんからお金を負担するのは心苦しいがやむを得ない。

 俺が操作したキャッチャーがゆっくりと降りる。そのままぬいぐるみ……のラベルに引っかかり、見事取り出し口へと落下した。


「すごい! 悠二君上手い!」


「まぁ、うん」


 前世において友人とUFOキャッチャーを何度もやっていたし、さらに取り方のコツも教わっていた。その甲斐がここに来たという訳だ。

 俺は取り出し口からぬいぐるみを手にして、舞さんに渡した。


「はい、よかったら」


「いいの? これ悠二君が取ったのに」


「そもそも舞さんの為にやったもんだから。どうぞ遠慮なく」


「うわぁ……ありがとう! 一生大事にするね!」


 ぬいぐるみを抱き締めてニッコリ笑顔。

 こういう姿を見られるだけでも、俺は幸せ者だ。

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