先に生まれた僕だから
麻木 若葉
第1問 幸せとは何か答えなさい
「先生はなんで先生になったんですか?」
「急にどうしたんだ?」
「いや、進路調査を夏休み前に出さないといけないじゃないですか」
「そうだな。結構重要な書類だからちゃんと提出してよ?しかも来週だし」
「いや、まあ出しますけど」
「で、何だっけ?僕が先生になった理由だっけ?」
「はい、なんで先生は先生という職業になったんですか」
「そこまで面白い理由じゃないよただの約束だから」
「約束…ですか」
「そうただの約束参考にならなくて申し訳ないね」
「良いんです。でも、それが先生になろうとしたきっかけなんですよね?だったら、聞きたいです。」
「聞いてもつまらないよ?」
「聞きたいと願ったのは私ですよ」
「それならいいけど結構長くなるぞ」
「時間なら沢山ありますから、平気です」
「その前に、まず一つ問題を出そう」
「早く話してくださいよ」
「まあ、前座と思ってね?」
「しょうがないですね。で、どんな問題なんです?」
「問題っていうほど、答えは出てるものじゃないけどね。[幸せとは何か]これが問題」
「問題っていうか、哲学じゃないですか」
「そうだね。だけど、自分の考えを持つことが大事だから」
「それはそうですけど..幸せ、ですか」
「そう、幸せ」
「私は、生きていることが幸せだと思います」
「何でそう思うの?」
「毎日友達と出会えて、おいしいご飯を食べて、安心して寝られる場所があって。そんな日常が普通であることが、幸せだと思うんです。」
「それが、君の答えだね?」
「はい」
「いい考えだと思うよ。それじゃあ、話をさせてもらおうかな」
「はーい」
あれは、僕が君と同じ様な学生だった頃かな。いや、もっと下小学生ぐらいかな?
:先生にも学生だった時があったんですね。
:もちろん。僕も教師の前に人間だからね、続けるよ。
僕はね、学校が嫌いだった。理由は簡単でさ、俗に言うイジメって奴に遭っていたんだ。そこまで酷くなかったけどね。
僕の両親は早くして旅立ってしまって、親戚の家に引き取ってもらったんだけど、そこの家が凄く忙しくてね。
叔父さん、叔母さん共に働いていたんだよ。だから迷惑をかけないように過ごしていたんだ。
そんな風に過ごしていたら、授業参観ってあるじゃない。一年に何回かあるんだけど、忙しくて来れなかったんだよ。
その時だったかな、クラスメイトに‘お前の家族って来ないの?‘って聞かれちゃってさ、その時に両親がいないってこと言ったら、可哀想な子って。
不幸な子、そんな感じで学年中に広まっちゃって。心配してくれる人や気を使ってくれる人もいた。でも、両親がいないのはかなり異質なことで、からかってくる人が多かったな。
:先生にそんな過去があったんですね..なんか、すみません。
:良いんだよ。もう過去の話だし。今はもう吹っ切れているから。
そんなこんなで、イジメってほどじゃないけど嫌がらせが続いてね。学校が嫌いになっていたんだ。でも、叔父さん達に心配させまいと友達と遊ぶって言って、一人で公園にいたんだよ。
公園のベンチで遊んでいるクラスメイトを見ていたら、後ろからお姉さんが喋りかけてきたんだよ。
「君はみんなと遊ばないのかい」って
急に話しかけられたからびっくりしてさ、周りを見渡しても人がいないから僕に喋りかけてるって思ったんだよ。そっから暫く話してね。
「遊ばなくていいんです。だって不幸な子だから、みんなに迷惑かけちゃうから」
「ありま..それはいったいどうして?」
「話したくないです。だってお姉さんも可哀想な子って思ってしまうんでしょ?」
「それは、聞いてみないと分からないかな。分からないのに決めつけるのはよくないよ」
「でも、お姉さんのような人はいっぱい見てきました。でも、話したらみんな僕を可哀そうな目で見てきたから」
「それじゃあ、こうしてみようか。私が可哀そうな目で見てしまったら、話しかけないようにするよ。どうだい?」
「そんなことする必要あるんです?」
「無いと言えば無いかな。でも、私を信用してくれるならやってみる価値はあると思うよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「あの..僕には親がいないんです。それがダメらしくて、不幸な子って..疫病神って言われてたんです」
「そうかい..」
「やっぱり、変なんですかね。親がいないって」
「よく頑張ったね。良いんだよ。辛かったら、苦しかったら泣いていいんだよ」
:先生、今と全然違いますね。
:まあ、子供時代の話だからね。
その後からずっと、そのお姉さんが一緒にいてくれたよ。授業参観も、運動会も。でもね、誰も話しかけなくなったんだ。
同時にね、ある噂が学校を駆け巡ったんだ。{私が見えない何かと会話している}って。
:えっと、どういうことですか?
:直ぐにわかるよ。
その噂は、直ぐに叔父さん達にも伝わったよ。すごく心配させてしまってね。すぐに病院に行って、何かしらの病名を言い渡されたよ。
お姉さんはずっと付いてきてくれたね。でも、不思議なことに誰にも見えていなかったんだ。
:えっ..つまり、そういうことですか?
:どうなんだろうね。でも、そういう存在はいると思うよ。
「ごめんね。きっと、もっと早く言うべきだったのかな?」
初めて会った公園で、急に言われたね。勿論すぐに反論したさ。
「そんなことないよ。お姉さんがいなかったら、これからもつらい思いで一人だったから」
「そう言ってくれたら、嬉しいよ」
「でも、お姉さんって誰なの?」
「私?そうだね……私はね、先生だよ」
「学校の?」
「そう。学校の先生。先生ってどう書くか知ってるかい?」
「先と生きるでしょ?」
「そうだね。先に生きる人だから先生。」
「僕も先生になりたい」
「先生って大変なんだよ?」
「絶対なるから。頑張るよ」
「そしたら、約束しようか。君が先生になったら私は何かプレゼントするよ」
「分かった。約束」
「そうだね。約束だよ。そうだ、先生になる君に一つ問題を出そう」
「どんな問題?」
「そう。たった一つの問題。[幸せって何だと思う?]」
「幸せ?分からないよ。楽しい事?」
「この問題を出すのは、少し早かったかな?そしたらこれは宿題にしようか」
「宿題?」
「そう。自分がこれだって見つける宿題」
「幸せを見つけるのが宿題?」
「見つけるんじゃなくて、幸せを助けること」
「助ける?」
「それが、宿題ね。出来そうかい?」
「うん。できる。そういや先生の名前って何?」
「ん?私の名前かい?言ってなかったね。私の名前はーーーだよ。君の名前は?」
「僕の名前は、呼春っていうの。よろしくね。ーーー先生」
その後に、私は先生と会うことはなかった。
「これが僕が先生になると思った理由と約束」
「先生の名前って呼春って言うんですね」
「あれ?言ってなかったっけ。自己紹介はちゃんとしたはずなんだけどな。」
「まあいいです。先生の宿題だった、先生が思う幸せってなんですか?」
「ああ、僕が思う幸せかい?僕はね、幸せって星みたいなものだと思っているんだ」
「星ですか?」
「そう。星だよ」
「なんでですか?」
「君は、泣くときってどんな感情?」
「悲しい時です」
「そうだね。笑いながら本気で泣くことってないと思うんだよ」
「喜怒哀楽ってやつですね」
「そうだね。でも、幸せって色々あるんだ。君が言ったように、生きていることが幸せっていう人もいる。逆に涙を流す程の幸せもある。人の数だけ、星のように様々な光がある。幸せがある。これが僕が思う[幸せ]だよ」
「幸せは星のようですか..確かにそうかもしれないですね」
「でも、これは僕の考えだから。他にいろんな考えがあると思うんだけど僕の宿題の答えがこんな感じかな?」
「有難うございます。何となく自分の進路が掴めた気がします。」
「なら良かったよ。これなら期限内に出せそう?」
「はい。ここまで話してくれたので、ちゃんと出す努力はしますよ」
「ちゃんと出してくれると助かるんだけどね」
「先生」
「どうした?」
「先生っていう職業は大変ですか?」
「大変か大変じゃないかって聞かれたら大変だよ」
「それだけ聞けたら良かったです」
「ほかに聞きたいことはある?そろそろ下校時間だけど」
「もうないですよ。有難うございます。」
「あれ?この教室って、窓空いてましたっけ?」
「流石にこんな暑い中、窓は開けないよ。」
「でも、さっきなんか風が通りませんでしたか?」
「そうか?気のせいじゃない?それかエアコンの風か。」
「ならいいんですけど。あ、先生、教卓になんかありますけど?」
「え?そんな事は..これは....桜の花?」
「それ、結構綺麗な状態じゃないですか」
:そういや先生の名前って何?
:ん?私の名前かい?言ってなかったね。私の名前は
「..さくら先生」
「ん?なんですか、先生。」
「君の名前は佐々倉さんでしょ。」
「でも、さっき先生が私の名前言ってませんでした?」
「気のせいだから。ほら、さっさと帰った」
「え~。まあいいです。先生?」
「ん?なんだ。」
「また、明日。さようなら」
「さようなら、気をつけて帰れよ。」
「先生」
「なんだ、はよ帰れ」
「私、先生になります。先生のような先生に」
「そうか」
「はい!」
[後書き]~見たくない人は飛ばして下さい~
初めましての方は初めまして。
別の作品を読んでくれていた方はお久しぶりです。
長編の息抜きとして作りまして、個人的にはこちらの方が作りやすいのでこっちの方が更新されやすいかも知れないです。
もう一つの奴はちゃんと完結させる予定ですので、そちらもよろしくお願いします。
それでは、読者様の幸せが訪れますように。
先に生まれた僕だから 麻木 若葉 @AsAgIWaKaBa
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