第8話

「あなた達は無一文で出て行ってもらいます。住む場所? 生活費? ご自身で仕事を見つけ、身の丈に合った住居を買うなり借りればよろしいかと。そんなことまで私は知りませんわ」


 セリーヌはミリィに向き合って告げる。


「それと、ミリィ。私はあなた達二人の新居を建てる用の費用と生活費は出しませんわ。もし、それらが必要ならば私ではなくイアン様に言いなさいな。あなたは結婚して家を出た扱い。結婚式の我が家分の負担は伯爵家の貯蓄から出しました。手切金代わりですわ。これ以上あなたの為にお金を使うことはありません」


 セリーヌは使用人を二人呼びつける。


「三人の部屋から荷物を持ってきてもらえる?」


「かしこまりました」



 日中、結婚式を挙式している間に使用人達が三人の荷物をまとめておいたのである。


 少しして、使用人達が三人の荷物が入った鞄を応接室に持ってくる。


「お持ちしました」


「ありがとう。下がっていいわ」



 セリーヌは使用人を下がらせ、再び三人に向き合う。


「あなた方三人の荷物です。お義母様とミリィは浪費癖が酷かったので、お二人が購入された宝石類・ドレスの類、そしてお父様から贈られたプレゼントの類は全てここに置いて行って頂きます。あと、お父様も二人に必要以上に宝石類・ドレス等を買い与え、ご自身もどこに着て行くのか必要以上に一張羅と言えるような高い外出用の衣装をお持ちなのと高いお酒を買い過ぎておりますので、それらは全て置いて行って頂きます」


「大切な酒のコレクションが……! 揃えるのにいくらかかっていると思うんだ!」


「私のドレスをここに置いて行けですって!?」


「宝石もドレスも全部!?」


「そうですわ。あなた達が今すぐそれらの代金を支払うならば持って行ってもよろしいですわ」


「今すぐ払える訳ないじゃない!」


「お姉様のケチ!」


「お父様がご自身の個人的な私財からあなた達へプレゼントを買い、ご自身の嗜好品を購入したのなら何も言いませんわ。お義母様にしてもミリィにしてもそう。ご自身の私財で、必要以上にお買い物をしたのなら何も言いません。でも調べてみたらお父様もお義母様もミリィも支払いは全て伯爵家の貯蓄から支払われておりましたわ。おかげで、今、この伯爵家は7年前に比べて財政状況は芳しくない。家の貯蓄とは、家の為・家が治める領地の為に使うもの。こんな風に個人の私利私欲を満たす為に使うべきものではございません」


 セリーヌはすっかりぬるくなった紅茶を一口飲む。


「本来我が家の為に使われるべきお金をあなた達は自分達の私利私欲の為に使った。私からすれば不当に財産を使われたのと同じことですわ。時が来ればあなた達は家を出ることになる。だから、その時に回収しようと思いましたの。あなた達に拒否権はありませんわ」

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