第2話

ここではないどこかの世界。

そこにある異世界の大海に面した列島の国【日本】。

ここが私の生まれ変わった第二の人生の出身地であり故郷だ。


この国は基本的には、前世の日本と似通った世界である。

地球という星で、人間たちが文明を築き、電気やパソコン、スマホもある。

しかし、こんなごく普通の日本が同時に前世とは違う異世界であると明確にわかる部分がある。


『ジェァ!!!!!』


『グルオオォォォ!!!!!』


『あああっと!

 突如街中に現れた巨大怪獣、それと謎の巨人が退治しております!!

 これは一大事です!!

 現地住民の皆さんは急いで避難してください!』


テレビからそんなニュースが流れてきた。

そう、この世界には無数の化け元や怪獣がおり、それに対抗するためのヒーローやら正義の味方が存在しているという事だ。

怪獣や化け物は巨大なのものから人型のものまで。

ヒーローも巨大な銀色の巨人から、コスプレ魔法少女まで。

千差万別で日夜この世界に脅威が現れたり、退治されたり、そんな感じ出来事が頻発しているのがこの世界の日本であり、地球であった。


(どうせ、こんな世界に生まれかわるなら、かっこいい系の変身ヒーローがよかった……)


ヤメロ―!邪神~!ぶっ飛ばすぞー!!

そんな冗談はさておき、こんな世界に生まれ変わった元成人男性現魔法少女としては思うのだ。

これ、別に自分が魔法少女に生まれ変わらなくても、問題なかったよね、と

どうせなら、イケメンなヒーローに生まれ変わってモテモテ第二の人生を歩みたかったなと。

が、それでもすでに自分はこの世界に生まれかわり、十年以上女子として過ごしてきたのだ。

すでにこの状態で生きてきた以上、この辺は適合しなければならないのだろう。


「ごちそうさま、お母さん」


「は~い、お粗末様♪」


かくして、元成人男性の自分は、現在は普通の女学生として、ごく普通の家庭に生まれとして、ここまで成長してきたのであった。

……前世持ちで色々と怪しさ満点の自分をここまで育ててくれた母親には、畏敬と感謝の念が堪えない。だからこそ件の邪神には苛立つし、同時にこんな自分をここまで育ててくれた母親のためにも、平時はごく普通の女学生として生きていこう、そう誓ったのだ。


(……でも、そもそもあの邪神が、俺を男に、普通のベルト系変身ヒーローに生まれ変わらせてくれれば、こんなことに悩まなかったのになぁ……)


元男を女の子に生まれ変わらせるな!

そんな正当な怒りを抱きつつ、私は玄関へと向かう。


『じぇ、ジャア、ジャァァァァン♥♪♥!!』


『ぐるああぉぉぉぉん!!!』


『ああぁぁぁ!!これはいけませんいけません!!

 正義の巨人が、怪獣に押し倒されてこれはいけません!!

 どうやらこれ以上は皆さんにお見せできない状態になってしまったようです!!

 ああ!撮影はおやめください!SNSへの拡散はおやめください!!』


訂正、どうやらこの世界ではたとえイケメン変身ヒーローになったとしても、相応に悩んでいただろう。

そう確信を得つつ、家を出るのであった。





「サイちゃん、おはよ~!」


「ええ、こちらこそ、おはようございます」


「あ!サイちゃん!おはよ~~!

 今日って、小テストあったっけ?」


「ええ、黒子さんも、おはようございます。

 小テストに関しては、3時間目ですね。

 国語の小テストがあったかと」


かくして、家を出て電車に揺られて十数分、『私立聖ヒロ=ピン女学園』へとやってきた。

ここが現在私が通う学校であり、つい先日入学したばかりのピカピカの一年生だ。

え?学校の名前が変だって?

どうやらこの世界特有の偉人の名前に由来しているらしいから、この世界では別に変な名前でも何でもないらしい。

世界レベルでの悪意を感じる……!!


「相変わらずサイさんは皆さんの人気者ですね。

 ちょっとうらやましいです」


「別に、ただ少し他の人よりも話しかけやすい位置にいるだけですよ」


先ほどから呼ばれているのが『渚沙なぎささい』、すなわち自分の事である。

なお、なぜ自分がこんなにみんなにあいさつされているかと聞かれれば、これは自分の第二の生の小さな努力によるものだ。

すなわち、元男だけど最低限親から心配されない程度に、女の子コミュニティの維持、あいさつや最低限のつながりは保とうとした結果である。

……そのせいで、自然と小学生時代から学級委員長やらの先生からの連絡係とかのめんどくさいポジションを積極的にやる羽目になちゃったがな!

しかも、この学校でも入学1年目からそのポジションに入る羽目になっちゃったけどな!


「それも彩さんの人望のなせる業ですよ。

 美しい髪にすらりとした瞳。

 何より頼りがいのある人格に皆さん惹きつけられるから、そういうわけですよ」


「……ありがとうございます」


素直にほめられてうれしいが、それでもそこまでべた褒めされると気恥ずかしい。

そんな学友の言葉を受けつつ、私は授業開始まで友人達と談笑するのであった。

……冷静に考えて、元男に女子校は本当にハードルが高すぎるだろ。



◆◆


かくして、午前午後の授業も終わり、あっという間に放課後。

当然元社会人ではあるが現在は女学生の身分、ここは健全の学生として放課後は部活動にいそしむ……。


「……はい、できました」


「うむ、ありがとう。

 ……うん、ミスらしいミスもなし。

 内容の修正もばっちり、素晴らしい出来と言えるだろう」


と言うわけではなく、現在はとある一室で渡された資料の訂正と加筆をしていた。

そこはいわゆる生徒会室と呼ばれる場所であり、そこで【生徒会】と呼ばれる各学の代表の生徒たちが生徒主催の学校自治組織として働いている。

生徒会の役割は、学校生活をより良いものとすることであり、生徒たちの要望や意見を聞き、議案を出し、実行する。

それが生徒会の役割であり、現在私はその仕事の一部として、とある活動書類を整理、加筆修正しているところであった。

……いや、これどう考えても入学早々の1年がやる仕事ではないな?


「ふふふ、そこは君をスカウトした私の眼を信用してくれると嬉しい。

 それに、今のところ一つの不満も出ていないんだ。

 存分にその手腕を発揮してくれると助かる」


元男の自分でも、思わず赤面になりそうなほどの微笑を浮かべながら我らが生徒会長はそういった。

なお、この生徒会及び生徒会長は漫画や本にありがちのやけに権限の強い生徒会及び生徒会長であり、当然それに抜擢されるこの生徒会長も、思わず元成人男性の自分でも平伏したくなるほどの後光が見える人物だとは言っておこう。

で、そんな人物に褒められるとなると……まぁ、悪い気はしないというものだ。


「で、どうする?

 一仕事終わったわけだからそろそろ休もうか。

 丁度いい、茶葉を分けてもらえたんだ」


「ああ、それはいいですね。

 ……そういえば、調理部からクッキーの差し入れがあったはずです」


かくして、私の放課後は生徒会で和やかに過ぎていく……。


「大変です!会長!!!

 通学路で、怪人、もしくは魔獣が発生しました!」


……なんて和やか平穏、この世界にはなかったのであった。


「……ふぅ、またか。

 それで、被害と場所?」


「はい!場所はここから100メートル先の住宅街。

 幸い、下校時間と部活時終わりの間の時間であったためか、おそらくは巻き込まれた生徒はいないと思われます。

 が、正確な情報はいまだ不明ですし、そもそもそろそろ部活の終了時間です。

 ですので、早急の対応が必要だと思われます」


「すまない、彩君。

 どうやら休憩はここまでのようだ。

 早速、避難誘導の準備と、それと君自身も、たとえほかの生徒が巻き込まれたてないか不安だからと言って、不用意に現場に近寄らないように気を付けてくれたまえ。

 いいね?」


「……はい、了解です会長」


ごめんなさい、でも自分、魔法少女なんです。

かくして私は心の中で会長に謝りつつ、生徒会の仕事をほどほどに、学校を後にするのであった。



◆◆



「いや、やめ……あああぁん♥」


「だめ……だめなのにぃ……♪♪」


かくして、急いで変身し走る事十数分。

そこには、元気に捕食活動にいそしむ人外こと【淫魔】と、それにとらわれた魔法少女の姿があった。

なお、現在捕食されている途中の魔法少女【マキシム♥ハート】と【ラッキー♣クラブ】は、いわゆる色違いというか、私の同期にあたる魔法少女であり、どちらもそれなりの強さと正義感を持つ人物ではあるはずだが……どうやら今回は相手が悪かったんだろう。

きっと、多分、メイビー。


「ギュッギュッギュ!

 オじょがったなぁ!3人目の魔法ショジョヨ!

 オデザマの名は【ソウ=カーン】!今からお前をおいしくだべちゃうおドゴダ!!」


なお、目の前にいる人外はまぁシンプルに身持ち悪い系人外と言ったビジュアルだ。

無数の腸や触手をかき集めて、無理やり人型にして、それに七色の粘液を浴びせれば完成と言ったどう見てもニチアサよりもホラー映画クリーチャーの見た目をしていた。

でも、そんなビジュアルなのに普通に日本語で話してくれたから、怖さ的にはマイナス評価点。

つまりはいろいろと中途半端な淫魔というわけだ。

そんなビジュアルで大丈夫?そんなんじゃ特撮物でも出禁にされちゃうよ?


「……ま、御託はいいから、さっさとやりましょう。

 そこまでやったなら、もう警告は十分でしょう」


「ゲッヘッヘ、ゾのずマシガオ、ベトベトにじでやるよ!」


「き、気を付けてダイアちゃん!

 そいつは……んううぅぅぅぅ♥♥♥」


敵との交戦を開始しようとすると、マキシムハートがこちらに何か言おうとするが、それは彼女が座らされている触手椅子によって、妨害されてしまった。

ああまでなって、こちらに警告しようとしてくれるってことは何か初見殺しでもあるのかな?

もっとも、それもイソギンチャクに潜むクマノミ状態になってるハートからは何も聞けそうにないけど。


「ぞりゃぁ!ぐりゃぁ!」


「……っと、おっ」


そんな推測を立てていると、件のグロ淫魔はこちらに向かって突っ込んできた。

無数の触手腕による素早い連撃、巨体ながらも軽やかなフットワーク。

ついでとばかりに飛ばしてくる毒と媚薬粘液と、シンプルに格闘戦が強いようだ。

【マジカル♪ダイア♦ステッキ】も、雑に振るった程度ではうまく触手ではじかれるし、この間に鬼ゴリラとは一味も二味も違う。

シンプルに強敵だ、2話目に出るタイプの敵じゃねぇ。

王道に戦うならば、それなりの苦戦を強いられるだろう。


「……なら、外道に行くだけだよなぁ!

 おらぁ!!」


「ぐぴゃ!!」


というわけで、ちょっとずる技として、戦闘中に氷を蹴り上げることにした。

魔力で足元に氷を作り、それを思いっきり蹴り上げ、相手の顔面にぶつける。

一瞬人型触手に頭部攻撃は有効か?と不安に思ったが、それなりに効果はあったようだ。

おかげで一瞬のスキを生み出すことはできた。


「それゃぁ、死ねぇ!!!!

 ……げ」


「「バガべ!!

 ゾれを待っデダワぁ!!!!」」


そうして、とどめに脳天からダイア♦ステッキで、両断しようとしたときにそれは起こった。

なんと目の前の淫魔【ソウ=カーン】こちらが切断する前に自らに綺麗に自切し、分身したのであった。

そして、万力を込めて振り下ろしたすきをついて、一匹はこちらのダイアステッキを踏みつけ、こちらの動きを封じる。

その隙をついてもう一匹がこちらの背後へと回り……


「ざぁ!じべぇ!!!」


その背後に分かれた一匹と正面に立つ一匹どちらもが、その手の触手を巨大な注射器へと変え、ピンク色の液を滴らせながらこちらの柔肌にその針を突き立ててきた。

どうやら、これがこの淫魔の必殺攻撃パターンなのだろう。

強い肉弾戦に、こちらの隙を突けるほどの高速の分裂能力、それにおそらくは麻痺と発情効果のある毒針注射もあるとくれば、一般人はもちろん、自分より前に来ていた二人の魔法少女が勝てないのも納得と言ったところだ。


「……、ま、でも私には効かないんですけどね」


「「ば、バビィ!!」」


そう、その強敵淫魔による毒注射前後双撃は、こちらに微塵の効果もなかった。

なぜなら、その注射針は一ミリもこちらの皮膚を傷つけることはできないからだ。

ともすれば、当然毒液を注入することはできず、こちらへと効果を及ぼさない。


「な、ナニガおぎで……」

「い゛イ゛ッダンギョリを離して……」


必殺の非殺攻撃に失敗した件の淫魔が、一旦距離をおこうとするがそれもすでに手遅れだ。

なぜなら、すでにこいつは長いこと自分と【接触】してしまったからだ。


「そう、私の魔法は【氷】の魔法、すべてを【凍結】さて、【凝固】し、【静止】させる。

 それは自身も敵も、有機物無機物魔力全てを区別せず。

 すでにあなたの体は凍結済み……覚悟はよろしいかしら?」


【マジカル♪ダイア♦ステッキ】を、【凍結】し動けなくなった淫魔たちへと向ける。

もちろん、凍った相手を切ることはできるが、それでは少々消失させるのが面倒くさいため、その穂先を【刃】から【槌】へと変化させた。


「「ま、ばで!ご、ゴウザンズ……ッッッ!!!」


そうして容赦なく、動けなくなった淫魔に向けて【マジカル♪ダイア♦ステッキ】を振り下ろした。

一振り、二振り、三振り。

この手の淫魔はとても生命力が強いのが大半なため、念入りに砕き潰す。

幸いにも、細胞一個一個から復活のような頓智気な再生力はなかったのだろう。

無事にこのそこそこ強大であった淫魔を討伐できた……と思う。


「ほれ、さっさと起きろ」


「んぎゃぴ!!」

「ひゃぁぁん♥♥♥」


もっとも、自分はその手の広範囲探知は得意でないため、捕まっていた味方の魔法少女を解放させる。

どうやら、淫魔の毒が強かったが故か、どちらもそれなりに意識を取り戻すまでに時間はかかったが、それでも探知魔法自体はやってくれたから大丈夫……だとは思う。


「……で、お前は何をやってるんだ?」


「はぁ♪はぁ♪……ねぇ、いいでしょう?」


「はわ!はわわわわわわ……!!」


なお、どうやら、ある程度意識は取り戻せても、正気ではなかったようだ。

衣服はボロボロのまま、【マキシム♥ハート】こちらの背後に回りつつ、こちらの胸部やら太ももをまさぐってきている。

一方のハートよりはましに見える【ラッキー♣クラブ】も、この状況でこちらに助け舟を出さずに、顔を赤くしながらはわはわとわめいているだけなので、多分正気ではないのだろう。


「げっへっへ♥相変わらずダイアちゃんのお肌すべすべひんやりで気持ちいいな~~♪

 ねぇねぇ、ダイアちゃん、その冷たさで私の肌のほてりも冷ましてよぉ♥

 いい加減、そのイチゴ付き雪見大福をわたしにも味わわせて?

 大丈夫大丈夫、初めてでも痛くは……あれ?」


というわけで、非常事態の対処として、ハートもそのまま凍らせることにした。

見事な氷像であり、常人なら当然命を落とすかもしれんが、一応は魔法の氷だし、相手は魔法少女だ。

以前完全凍結させた時も、次の登場時も元気につかまって喘いでいたので、きっと問題はないのだろう。

なお、クラブはそんな自分たちの様子を見て、小さな悲鳴を上げていた。

なら止めろや。


「……というわけで、仕事はおわったから、とっとと出てこい。

 仕事でしょ?」


「はいは~い。

 色々とお疲れ様!

 本当にすまなかったね」


なお、声を上げると出てきたのは一つの小柄のナマモノが現れる。

こいつは【ドラポ】。

【マキシム♥ハート】専属の使い魔、いわゆる魔法少女のマスコット的存在である。

見た目は小型のドラゴンであり、場合によっては大型化や人型にも変化できるナイスガイな使い魔だ。

正直ちょっとうらやましい。


「……うん!この周囲に淫魔の気配はないね!

 お疲れさまでした!

 それじゃぁこの後だけど……」


「お互いそれぞれテレポートに帰る。

 で、いいでしょ?」


「……僕が言うのは何だけど。

 この後は反省会とか、交流会とか、お疲れさまの会とか。

 そういうのをやるのが普通じゃない?

 それに、強い友情や連携が必要になる時が……」


「いや、そういうのはいいでしょ。

 【お互いにプライベートは干渉しない】そういう約束だったでしょ?」


何た言いたげなドラポ君を無視して、こちらはこちらで自分の使い魔を呼び出す。

なお、自分の使い魔は【和魂ニギミタマ】。

見た目はマジでただの人魂であり、多機能ではあるが無言で無自我という、何ともまぁ面白みに欠けた使い魔だ。

それでも、こういう時に文句や助言をしないのはいろんな意味で助かっている。

かくして私は背後からの何かを訴えるかのような視線を無視しつつ、自宅へとワープ帰宅するのでしたとさ。


これがごく普通の私【魔法少女】の日常である。




なお、翌日


『っく!きょ、今日こそは私一人で……んああぁぁぁぁ♥♥』


『ぼ、わ、わたしだって成長してるんだ!

 今日こそはボクも……ひぃぃぃん♪♪♪』


『あああっと!

 朝のさわやかな通学路で、怪人による魔法少女♣敗北見せつけ♥ショーが開催されてしまいました!

 これはいけません!みなさん、スマホでの撮影はお控えください!

 魔法少女の敗北シーンを待ち受けにしてはいけません!!』


こうして、その日は無事に私の登校時間が遅れることとなってしまいましたとさ。

ふぁっきん、魔法少女稼業。



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