第35話 後輩

 王都での日々はあっという間に過ぎ去っていった。

 早々訪れられる場所ではないので、レイとソフィリアは色んな場所を巡った。


 歴史的建造物、一流の魔法具を扱う店、飲食店、飲食店、飲食店…………。

 それほどに、王都で食べる料理は美味しかったのだ。


 レイがその味にに目を輝かせているとき、ソフィリアに自分と王都の料理はどちらが美味しいかという、選択肢を間違えれば命の危険さえある究極の二択を迫られたのも思い出の一つだ。

 もちろんレイは自衛のため、ソフィリアの料理を選んだのだが……。


 そして、ついに新年度が始まった────


 王立魔法学院の生徒は皆進級し、レイやアリシアも二年生になった。

 ちなみに、クラス替えといった制度はないので、クラスは同じ三組のままだ。


 そして、ちょうど一年前体験したことを懐かしく思いながら、新入生が入学してくる。


(いやぁ、まさか俺がに立つことになるとは思ってなかったな……)


 と、レイは生徒会の一員として、入学式の舞台上に控えていた。

 去年は今の自分の場所を眺める位置に座っていたことを考えると、少し感慨深いものがある。


 そして、入学式はやはり学院長や生徒会長が永久とも言えるありがた長い話をして、つつがなく終了した。



 □■□■□■



「はぁ……」


「どうしたんだよ、ため息なんか吐いて?」


 二年生になったからといって、特に代わり映えしない下校中。

 レイの隣を歩くアリシアが重苦しくため息を溢した。


「いや、どうして私も生徒会に入ることになったのよ……」


「しょうがないだろ? 卒業していなくなった生徒会員の補充を頼まれて、誰か心当たりはないかって言われて思い浮かんだのお前しかいなかったんだから」


「貴方……友達いなさすぎ……」


「やめろよな、俺がボッチみたいな言い方すんの」


「あら、違ったかしら」


「俺は孤高なんだよ」


「それを世間一般でボッチと言うのよ? 覚えておきなさい?」


 果たして王城育ちのアリシアが語る世間一般を信じて良いものかと迷ったレイではあったが、自分も時々人間の常識外のことをしてしまう自覚はあるので、否定することは出来ない。


 レイはぐうの音も出ずに黙り込んだ。

 脳内でソフィリアが哀れみの言葉を掛けてくるが、それがなお一層レイの心を抉った。


 そんなとき────


「レイさぁ~~ん!」


「ん?」


 背後から二人の人が駆けてくる足音と共に、そんな声が飛んできた。

 レイはどこかで聞いたことのあるその声を記憶の中から検索しながら振り向く。すると、思い出す前に答え合わせとなった。


 王都に到着した日、近衛魔法騎士団本部の場所を教えてもらった赤髪の少女リエラとその従者マキだ。


「お!? もしかして入学してきたのか?」


「はい! まさかレイさん──いや、レイ先輩がこの学院の生徒だとは思いませんでした! それも舞台上立っていましたよね?」


「あはは……これでも生徒会役員らしくてな……」


 レイが困ったように笑っていると、アリシアがその横腹をつつく。


「レイ、この人達は?」


「ああ、王都で知り合ったんだ。道を教えてもらってな」


 アリシアは「なるほど……」とじっと二人を興味深そうに見詰めながら呟く。

 そして、その視線に気が付いたリエラとマキは丁寧にお辞儀してみせる。


「お初にお目に掛かりますアリシア王女殿下。私はマリエール男爵家の一人娘、リエラ・マリエールと申します。

 こっちはマキ。私の家に仕えている者でございます」


「ご丁寧にありがとうございます。ですが学院では私を含めて身分は平等。王女としてではなく、先輩として接していただければ構いませんよ?」


(だ、誰だコイツ……ッ!?)


 レイは隣で優しく微笑みながら、愛想よく振る舞うアリシアの姿を見て、一瞬誰だかわからなくなってしまった。

 だが、アリシアは自分以外にはこうして品格を保って接しているのを思い出すと、新たな疑問として、何で自分にだけ素で接してくるのかというのが浮かんでくる。


(ワケがわからんな……)


『それは……たかだか生まれて数十年の人間だとしても理解出来て当然だと思いますが……。まあ、レイは鈍感ですからねぇ~』


 と、レイの心の呟きを拾ったソフィリアが、ため息混じりに言う。

 もちろんその声が聞こえているのはレイだけだ。


「ところでレイ先輩とアリシア様は仲が良いんですか?」


「どうだろうな……逆に、コイツ以外とあまり話さないからな……」


「こ、コイツ……ッ!?」


 リエラが驚くのも無理はないだろう。隣で無表情のマキでさえ、微かに目を見開いているのだから。


 いくら学院で身分が平等と扱われるとはいえ、王女であるアリシアをコイツ呼ばわりする命知らずはレイくらいなものだ。


「レイ様はボッチですか」


「マキさん? せめて語尾上げてもらっても良いですかね!? 疑問系にしてもらっても良いですかね!?」


 レイは、やはり世間一般自分のような存在はボッチとされるのかと泣きそうになりながら、無表情を貫くマキに懇願する。


「あはは……でも先輩、私達はきちんと絡みに行くつもりですので、ボッチ脱却ですね!」


「リエラさんや……俺がボッチであること前提で話を進めないでおくれ……」


 レイはもはや諦めたように肩を落とす。

 そして、突然はっと思い出したように「そういえば……」と話を続ける。


「今年から学年を越えた交流が増えるって、生徒会で話してたな……。近々遠出して、対魔獣戦の実習があるって……なあ、アリス?」


「そうですね。ですが、それはまだ公開されていない情報ですので、一般生徒……それも今日入学したばかりの新入生の前で言わないでください」


「すみません…………」


 と、生徒会では先輩であるはずのレイは、アリシアに叱られるのだった。

 いつものように砕けた口調ではないから、一層厳しく叱られた気分になる。


 そして、リエラはそんな二人を見て、やはり仲が良いんだなと思うのだった────

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