第19話 因縁の対決②
『──開始ッ!!』
実況アナウンスのその合図で、戦いの幕が切って落とされる。
このPOKでの戦闘のセオリーは、一人が石像を守り、他の二人が相手の石像を壊しに行く。
三組はこれまでの試合通り、レイが石像を守り、アリシアとルードルが攻撃役だ。
対する一組は、第一位の男子生徒が石像の前にあくびをしながら突っ立っており、ルイドともう一人──特待生第十位の男子生徒が攻撃役になっている。
レイの目の前で、激しい魔法戦が繰り広げられている────
「アリシア王女殿下……申し訳ありませんが、後ろのレイに用事があるので、よろしければ通していただけないでしょうか?」
ルイドのその言葉に、アリシアは微かに微笑みを浮かべて、手に持った杖の先端をルイドに向けて答える。
「申し訳ありませんがそれは出来ない相談です。貴方とレイとの関係は何となく察しておりますが……貴方がここを通ってレイに辿り着くことはありません」
「それは残念です……では、殿下を倒して通るとしましょう。第三位といえども、それは入学時点での話……今の俺の力、見せて差し上げましょう!」
ルイドはそう言って、杖を大きく振りかぶる。
そして────
「炎魔【ファイヤー・ボール】!!」
アリシアはそれを冷静に見据えて杖を一振りする。
「風魔【エアロ・シールド】!」
アリシアの眼前にまるで壁を形成しているかのように突風が吹く。
飛来した五つの火球は【エアロ・シールド】に阻まれ、火の粉を撒き散らして四散する。
アリシアは続けざまに杖を向けて────
「風魔【ウィンド・ショット】ッ!」
杖の先端から、空気を圧縮して作られた弾が射出される。
「ちぃ……!」
ルイドはその射線を見切ってかわすが、アリシアも逃がすまいと連続で【ウィンド・ショット】を撃ち込んでいく。
「流石は第三位……しかし──ッ!」
ルイドはフィールドを走りながら、杖をアリシア──ではなく、レイが守っている石像に向ける。
「しまっ……」
「遅い! 炎魔【ファイヤー・アロー】ッ!!」
ルイドの杖の先から矢の形を作る炎が射出される。
【ファイヤー・ボール】より弾速が速く、貫通力も高い。
宙に一条の赤い軌跡を描いて石像に──いや、レイに目掛けて飛んでいく。
「ざまぁねぇーな! れぇえええい!?」
「まったく、相変わらずだな……」
レイは自身に飛来する炎の矢を横目でチラリと一別したあと、ため息混じりに小さく呟く。
「《右に曲がれ》」
レイの
自身を中心とした半径約十メートル圏内──完璧にレイがマナを支配している領域の魔法に神聖語で介入し、その魔法の支配権を奪う技術。
レイの言葉に従った【ファイヤー・アロー】は、突如として起動を変え、レイから離れたところの地面に突き刺さり、やがて消沈した。
「なに……ッ!?」
「ルイド……お前は確かに魔法の才に恵まれていたよ。だがな、才能に頼るばかりでまともに練習もせず、ひたすら俺を見下すことしか考えてなかったお前に、今の俺が負けることはない」
「な……意味のわかんねぇこと言ってんじゃねぇーぞ!?」
ルイドは杖を振り上げる。
そして、今度は
「れ、レイ……!?」
「アリス、問題ない」
アリシアの心配そうな声を、レイは片手で制止し、ルイドに正面から向き直る。
「さあ、来いよルイド。そんなに俺を馬鹿にしたいなら、魔法師らしく力で示せ!」
「っ……!? 調子のってんじゃねぇぞ! 雑魚がぁあああああッ!」
ルイドはそう叫びながら杖を思い切り振り下ろす。
それと同時にルイドの頭上に浮かんでいた五本の炎の矢が勢いよくレイに向かって飛んでいく。
(魔法の支配が甘い……
「《雷よ、先鋭なる刃となりて我が手に集え》」
その呟きと共に、レイの右手にマナが集束し、紫電となって刃を形成する。
電気が弾ける音を鳴らしながら、レイは飛来してくる五本の矢を見据えて腰を落とし────
「ふっ──」
一本ずつ、迫ってきた炎の矢を右手に纏う紫電の刃で両断。
瞬く間に五本の【ファイヤー・アロー】を打ち落としてみせる。
「そ、そんな……バカな……ッ!?」
レイはそんなルイドの驚愕の音を無視して、アリシアに視線を向ける。
「アリス、やっちゃってくれ」
「え、私で良いの?」
「誰がやっても変わらんだろ」
アリシアは「そういうことなら……」と、もはや戦意喪失しているルイドに杖を向けて風魔を放つ。
何の防御策も講じなかったルイドは呆気なくフィールド外に吹き飛ばされ、脱落となった。
あとはルードルと第十位の生徒との結果だが…………
「これで終わりだ! 水魔【アクア・ショット】!」
「ぐあぁ……!?」
ルードルの杖から放たれた水の弾によってフィールド外に押し出された第十位の男子生徒は脱落。
「やりましたよ、アリシア様!」
「え、ええ……お見事です!」
アリシアは苦笑いを浮かべながらも、一応称賛を送る。
レイも石像の前からサムズアップして…………
「ナイス、ルードル!」
「ああ! あ……いや、お前に感謝されても嬉しくなどないわ! 試合に集中しろ!」
ルードルはふんと鼻を鳴らしてレイから視線を背ける。
(いや……素直に喜べよ……)
レイはそんなルードルを見て曖昧に笑うのだった。
そして、レイ、アリシア、ルードルの三人の視線はたった一人──特待生第一位の男子生徒に向けられる。
「さあ、あと一人……アリシア様! 一気に攻めま──」
──しょう。と、言葉は紡がれなかった。
ルードルの足元の地面が突然隆起し、その腹を思い切り打ったのだ。
そして、吹っ飛ばされたルイドは放物線を描いて宙を舞い、フィールド外の地面に落ちる。
その衝撃で、意識は一瞬で刈り取られてしまっている。
「ルー……ドル……?」
アリシアが目の前で起きた不可解な現象に呆然とする。
理解が追い付かないうちに、アリシアの下の地面にもピキッ……とヒビが入り────
「アリス──ッ!?」
ドォオオオン!!
レイのその叫びの直後、一瞬前までアリシアの立っていた地面が大きく盛り上がっている。
「れ、レイ!?」
「危ない……間一髪だったか……」
レイは本能的にアリシアの危険を感じ、マナを纏って身体能力と肉体強度を高たのだ。
そして、石像の前から一気にアリシアのともとまで駆けつけ、そのまま横抱きに抱えて回避したのだ。
「怪我はないか?」
「あ、あの……えと……だ、大丈夫……」
アリシアは試合中だというのに、レイに抱かれているこの状況に赤面せずにはいられない。
「いや、顔が赤いぞ!? どこか打ったのか!?」
「ち、違うくて……! んんん~~もう! さっさと下ろしなさいこのバカ!」
「いって!? 何すんだよ!?」
アリシアはレイの胸を押して飛び降りる。
体制を崩したレイは尻餅をついてしまう。
「こ、こんな一目のあるところでお……おおお姫様抱っことか! 時と場合をわきまえなさい!」
「いやアリス……俺がお前を抱えてなかったら、お前今頃吹っ飛ばされて昏倒してたぞ?」
「うぅ……」
と、そんないつも通りすぎるレイとアリシアのやり取りに割って入るように、一組側の王の石像の前に立つ第一位の男子生徒から笑い声が聞こえてくる。
「ククク……面白ぇな、お前?」
そんな第一位の男子生徒──クロウの視線は、真っ直ぐとレイに向けられていた────
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