逆襲のK

K

第1話 東洋の島国

 東洋と呼ばれる海に小さな島国がある。

 一説には建国以来二千年、一度も他国の侵略を許さず、今日まで独立を保ち、長い歴史の中、国内で戦いが繰り返された時代もあるが、国が分断したり、国の名が変わったりしたことは一度も無い。このような国家は世界的に見ても珍しい。

 この島国の人々は勤勉で知られ、一時は世界一の経済発展を成し遂げ、この国で生まれた多くの革新的技術や製品は他国のそれを凌駕し、世界を席巻した。

 また、人々は互いによく助け合い協力した。困っている人を見つけてはそれが他人であろうとも、声をかけ手を差し伸べた。自らの労力や損得に捉われず、人々は困った時はお互い様、といって笑った。

 人を貶める、妬む、騙す、などのことを悪しきこととする道徳を子供の頃から兼ね備え、良き悪きの分別をよく認識し、人々の織り成す暖かい調和は、思いやりの心として根付いている。

 もう少しこの島国の紹介をしようと思う。

 この国には宗教の縛りが無い。人々は信仰の自由を有している。多宗教が入り乱れる中にあって宗教紛争が無い。厳密に言えば、信仰の肯定や否定の論争はあるのだが、それが例えば中東のとある国々のように大きな紛争に発展することは無い。これもある意味この国ならではの特徴と言える。

 人々は新しい年を、神に手を合わせ感謝を伝えることから始める。この国には古来より多くの神々の伝承が伝わり、その神々を祀る社に人々は事ある度に赴く。しかしながら人々は一方でキリストの生誕を祝うクリスマスという行事を聖なる日として過ごす。そして、人が亡くなると仏教の寺院で弔い経を読む。そこに異教徒という概念は存在せず、誰であろうと集い、故人に哀悼を捧げることが出来る。

 何故このような一種の使い分けとも言える実に都合の良い文化が根付いたのであろうか。それには一つの理由がある。

 序盤での簡単な島国の紹介のつもりだったが、これについて触れておく必要がある。申し訳ないがもう少しお付き合いいただければと思う。

 この国は、神話がある。

 二人の神が国を生むというとこから始まる長い物語だ。

 この神の子孫たちの伝承は国の各地に存在し、纏わる場所にはその神々を祀る社があり、それが今の時代においても大切にされている。これを人々は親しみを込めて、お宮と呼ぶ。先に述べた、年の初めに人々が集ったり、事ある度に祈りに赴く社がこのお宮だ。

 さて、この国には、この宮の字を名とする一族がいる。それが古来よりこの国を統べてきた帝の一族のしるしである。神話から始まったこの国の物語は、実はまだ完結していない。この国の帝、それこそがその神々の子孫であると云われており、それはずっと継承され続けているからだ。実際に約八十年ほど遡ると、帝は現人神あらひとがみ、人間の形をした神、として人々から大きな信仰を集めていた歴史がある。

 つまり、人々にとって神教とは、宗教信仰というよりも、国の起源に纏わる神話伝承と、その神の子孫である帝に対する崇敬の念の名残であり、いわば文化なのだと思う。だからこそ、他の宗教行事でも異教という意識はなく、許容する独特の概念があるのだと思う。

 さて、現在、この帝も初代から百二十六代目を数える。

 神話から始まり、今日まで、一度も途絶えたことが無い神の血統である。

 きっとこの先も、未来永劫、継承されていく。

 そう、誰もがそう、信じてきた。


 一つの歌を紹介する。

 この歌は、今から千八百年前、時の帝となった女王が海を越えて外征に赴く際に立ち寄った小島で「この島に打ち寄せる波が絶えるまで伝えよ」として奉納された神楽歌という歌だ。


 

 君が代は 千代に八千代に

 さざれいしの いわおとなりて こけのむすまで

 あれはや あれこそは 我君のみふねかや

 うつろうがせ身骸に命千歳という

 花こそ 咲いたる 沖の御津の汐早に はえたらむ釣尾にくわざらむ

 鯛は沖のむれんだいほや

 志賀の浜 長きを見れば 幾世経らなむ

 香椎路に向いたるあの吹上の浜 千代に八千代まで

 今宵夜半につき給う 御船こそ たが御船ありけるよ

 あれはや あれこそは 阿曇の君のめし給う 御船になりけるよ

 いるかよ いるか 汐早のいるか 磯良が崎に 鯛釣るおきな



〝あなたの命は千年万年に

 小石が成長して大岩となって苔が生えるまで

 あれは あれこそは あなたの御舟ですか

 年取っていく生身のからだに 寿命千年という徴候が見えているよ

 花咲く沖の津の潮の早瀬で 垂らした釣糸の先に食いついてくれないものか

 鯛は、沖の無限大宝だよ

 志賀の島の浜の 長いのを見ていると何年でもこのままであってもらいたいよ

 香椎の土地に向きあっている あの吹上の浜よ 千年も万年までも

 今晩夜中にご到着になる 御船は 誰の御船であったのだろう

 あれは あれこそは 阿曇の君のお乗りになる 御船になったのだよ

 イルカよ イルカ 潮の早瀬のイルカ 磯良の岬で 鯛を釣るお爺さん〝

 

 

 

 

 

 

 



 



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