No.1 蟻が示唆を与えてくれます 作者:遊句 さん
いつも私に示唆を与えてくれる蟻がいます。それは晩ごはんのおかずをどうするかとかいった日常的なことへの助言のときもありますが、周囲の人が私の命を狙っているといった重要な知らせであることもあります。
蟻は私にそれとなく気づくようにシグナルを送ってくれます。シグナルは様々ですが、例えば、私の頭の一部が痒くなるような信号を送ってきたり、必要なところに不意に目がいくようにしてくれたり、といった感じです。
このような信号は示唆ではなく、単に日常でよくあることのように思われるかもしれませんが、状況から見て、これは蟻によって意図的に引き起こされた示唆であると考えて間違いありません。頭が痒くなったときの例でいうと、その痒みに伴って「今日はバナナを買うべき」という考えが浮かんだりします。目がいくほうも、偶然とは思えないほどそのときの状況に適したところに目がいくのです。
また、示唆が蟻からのものだと考える理由もあります。私はその蟻を持ち歩くようにしているのですが、蟻を持ち歩いていないときには示唆がなかったり、あったとしてもシグナルが弱く、示唆に根拠が感じられなかったりします。蟻を持ち歩いていないときの示唆は、それこそ偶然かなと思う程度のものにしかなりません。しかし、シグナルが強いときには、必ずそばに蟻がいるのです。
もちろん、私もこれが蟻からの示唆だと初めから思ったわけではありません。でも、そうとしか思えないことが何度も起こるので、この結論に至りました。
経緯を簡単にお伝えしたいと思います。
最初に蟻からの示唆を感じたのは、コンビニにいるときでした。寒くなってきたので、そろそろおでんの時季かなと思って買いに行ったのです。(私は毎年1回はコンビニのおでんを食べます)
入店してからレジに向かう前に、なんとなく店内を回ったのですが、(今にしてみると、店内を回ったのも示唆によるものだったのかもしれません)そのときに蟻が床を歩いていました。店内に虫がいるなんて嫌だなぁと思ったのですが、ふと「今日はおでんを買うべきではない」という考えが頭をよぎりました。おでんを買いに来たのに、明らかにおかしいですよね。でも、その日はおでんではなくからあげクンを買うことにしてみたんです。それで、レジに行くと、おでんが見当たらなかったんです。からあげクンはありました。
家に帰った後も気になっていつからおでんが始まるか調べてみると、その次の週からだったんです。それ自体は大した示唆でないことはもちろん分かっています。おでんの気分になって、おでんの気分のままレジに行っておでんがなかったらがっかりするところを、その落胆が少なく済んだというだけのことです。でも、そういった示唆があったこと自体が重要だと思います。
しかも、示唆はそれからもたまにありました。実はその時点では、示唆があの蟻からのものだと気がついていなかったのですが、何回目だったか、示唆を感じたときに近くを見渡すと、あのコンビニのときの蟻と同じとしか思えない蟻がいたんです。私は蟻に触るのは気持ち悪かったのですが、蟻をつまんで、飲み終わったペットボトルに入れて持ち帰りました。
家に帰る途中にも、普段は使わない道を選んで帰る気になったり、歩幅を普段より大きくしてみたりなど、いつもは考えもしないようなことが頭に浮かんで、その通りに実行しました。はっきりと示唆が強まっていたのです。
あまりにも示唆がうるさいので、可哀相だと思ったのですが、蟻にボンドを垂らしてコハクのように固め、中に閉じ込めてしまいました。しかし、示唆は止みませんでした。それどころか、以前よりも重大なことを知らせてくれるようになりました。
蟻を閉じ込めたことで、示唆が強まってわかったことがあります。実は、帰ってくる途中に違う道を選ぶことにしたのは、誰かにあとをつけられていたからでした。歩幅を大きくしたのは、尾行の犯人を巻くためでした。でも、走って逃げると、私が尾行に気づいたと犯人に思われて危険なので、歩幅を大きくする程度に留めるように示唆されていたのです。
たとえ示唆がうるさくても蟻を手放すべきではないと思いました。ボンドが固まったあと、蟻をアルミホイルで巻いて、小さなアルミ球のようにしました。財布に入れて持ち歩いています。
蟻からの示唆はどんどん強まっています。私を狙う人の存在を教えてくれるし、最近ははっきりと声で知らせてくれる場合もあります。隣に住んでいる人は私を亡き者にしようと思っているようです。蟻はその思考を私に飛ばして教えてくれました。ことが起こる前にこちらから対処しなければならないかもしれません。
私は蟻からの示唆に気がついたので大丈夫ですが、みなさんがまだそのことに気がついていないのが心配です。少し注意すれば、頭の一部が痒くなっていることが分かると思います。そのときに示唆が浮かびませんか? 近くに蟻がいると思います。蟻はみなさんに伝えたいことがありますが、表に出すことができません。みなさんから気がついてください。うるさくてもそばに置いてください。ボンドとアルミホイルも必要だと思います。
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