第10話 動画鑑賞①

 ダイブルームを出て携帯電話を確認すると新着メールが3件入っていた。


 3件ともお父さんからで「校門前で待ってるよ」という内容だった。


「もうお父さんったら、帰りの迎えはいいって言ったのに……」


 そう呟いて足早にお父さんの待つ校門前へ向かった。

 ちょっと早足で歩いただけて息が切れてしまい、何度か休憩してなんとか校門まで行って送ってもらった。


 帰りの車でお父さんに友達ができたと伝えたら、とっても喜んでくれた。

 喜びすぎてお父さんが泣き出しそうだったので、運転に支障をきたさないように車での話はそこまでにして、夕飯の時におじいちゃんおばあちゃんお母さんを含めて話をした。


 家族のみんなは嬉しそうに私の話を聞いてくれた。

 ついつい話が長くなって、夕飯が遅くなってしまった。


 遅くなってしまったので片付けを手伝おうとしたのだけど、お母さんに身体を心配されて、先にお風呂を勧められた。


 お風呂に入って部屋に戻り、明日の予習をしようと端末を起動する。


 すると



『新着メッセージが1件あります』


 端末の骨伝導イヤホンから通知のメッセージが流れた。


 なんだろう、とバイザーを展開してメッセージを表示させると、「BBOについて」という件名で美月ちゃんからメッセージが届いていた。


 家族以外からの初めてのメッセージだったので、すこし緊張しながらメッセージを開く。


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From: 大鍬美月

To: 柊木真雪

Cc: 榎崎朱音

Subject: BBOについて


 真雪ちゃんこんばんは。


 今日は真雪ちゃんと友達になれてよかったです。


 ブレバトに興味持ってくれたみたいなので、参考になるURLを送るね。


 スキル選びの参考にしてね。


<紹介動画~トライアル版との違い~>

https://m.youtube.com/watch?v=XXXXXXXXXXXXXX


<第7回・全国高校生ブレバトグランプリ決勝戦>

https://m.youtube.com/watch?v=ZZZZZZZZZZZZZ


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 内容はブレバトについてのものだった。


 私はすぐに「参考情報ありがとう。見てみるねー」と返信して、まずは紹介動画を再生してみた。



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「ヘイ!ヘイ!ヘーイ! パリピ代表、左右田さゆうだ兄弟の次男、右近うこんでーす」


「はい。長男、兄の左近さこんです」


「「2人合わせて『えるあーる。』です」」


「よろしくぅー!


 とこれで兄貴。俺ら国の偉い機関からさぁ、Brave Battle Onlineってゲームの広報大使に任命されたんだけと、Brave Battle Onlineってどんなゲームだっけ?」


「国が推進している国内初のフルダイブ型の格闘ゲームだね」


「ヒュー! マジ超すげぇゲームってことだね」


「お前、分かってないだろ。馬鹿だし」


「オー、兄貴。俺を舐めてもらっちゃ困るぜ。ちゃんと分かってるし、それに最後の一言、いる? ネセサリィ?」


「無駄に英語使うな。逆に馬鹿に見える。


 で、どれだけ分かってるんだ?」


「イエー、よく聞いてくれた兄貴。


 Brave Battle Onlineの前身であるトライアル版が各種プラットフォームで無料でプレイ可能なんだぜ。


 プラットフォームによってはフルダイブじゃないけど、それでも超パネェんでマジよろしくーって感じ?」


「なん、だと…… 右近がちゃんと宣伝してる。


 けど、右近。お前、ゲームやるためのハード持ってたっけ?」


「おいおい、兄貴。俺がちゃんと宣伝しただけでドン引きするなYO!


 ハードなんかは兄貴の部屋に忍び込めば幾らでもプレイ可能だし、ノープロブレムってやつぅ?


 って、痛っ!


 殴んなよ、兄貴ぃ」


「お前、勝手に他人ひとの部屋に入るな!」


「大丈夫だ兄貴。


 他人じゃなくて、兄弟だからセーフ?


 それに俺は現実のグラマーなパリピ姉ちゃんにしか興味ないから、兄貴の部屋に飾ってあるロリっ娘フィギュアには指一本――


 ごふっ!


 オゥ、兄貴。ツッコミでも鳩尾は勘弁。ノーセンキューだze……


 てことで、兄貴。


 トライアル版経験済みの俺っちに、通常リリース版との違いをテル ミーしちゃってYoYoYoよーい」


「華麗に性癖暴露の話題をすり替えたな。


 広報大使として、ここはバシっと説明するぜ」


「ヘーイ、教えて教えてHere We Go!」


「まずは体格制限と行動制限な。


 トライアル版は自由だったけど、キャラメイクや行動が現実世界の情報をもとにしたものになるってことだ。


 フルダイブすると感覚がほぼ現実世界と同一になるから、脳が混乱するのを避けるための措置だな」


「なんだってー

 ちょっと待って、ちょっと待って、兄貴。

 それじゃあ、俺が作った筋力極振りの『超絶ちょうぜつ筋肉きんにく 盛男もりお』はどうなるんだー!」


「トライアルから引き継げは見た目はそのまま移行できるけど、性能はお察し下さいの、見た目だけ厳ついキャラに成り下がるな(笑)

 ってかキャラ名のセンス無いな……」


「ぐおおおおおおお!! 盛男もりおぉぉぉ!!!」


「まぁ、どんまいだな。


 さてまずは先にデメリットを話したけど、逆に新たな要素も増えているんだ。


 まずは属性の追加。


 トライアル版では火・水・風・地の四つの属性だったのだが、正規版だとそこに氷と雷の属性が追加されたんだ。


 また、行動のエフェクトも追加されているので、属性によって高速移動した時や攻撃の軌跡に属性ごとのエフェクトが出るようになったんだ。

 綺麗になったゲームビジュアルはまさに圧巻というやつだな。


 そして職業も剣士・拳闘士・戦士・射手に加え侍・騎士・投擲士・魔術士の4つが追加になる。


 侍と騎士は剣士の派生職の様なものだな、剣士の主武器が『剣』で『バランス型』なのに対して、侍が主武器『刀』となり『攻撃特化』、騎士は主武器が『槍』となって『防御特化』な感じだ。


 投擲士は射手の派生だな。使用できる武器が弓と矢でなく、直接武器を投げるタイプの鉄球やブーメランとなる職業だな。

 こちらは弓の番えるという予備動作が不要で一撃のダメージが大きいが、武器そのものを投擲するという特性上、連射が出来ずリロードの遅さがデメリットだな。


 そして、魔術師は遂に実装された待望の遠距離攻撃職だな」


「ちょっと待って兄貴。


 Brave Battle Onlineって対戦格闘ゲームだよね。


 近距離で殴り合うゲームに遠距離職って必要? ネセサリィ?」


「そうだな、トライアル版では近距離に近づいた相手との1対1のタイマンバトルしか無かったのだが、正式版だと申請式で大フィールドを使ってでの多対多の団体バトルが可能になったんだ。

 その団体バトルで活躍すること間違いなし。戦略の幅もぐぐぐんと広がることとなるな。

 更に言うと、制作社様はビジュアルにこだわっているので、魔術師が使用する魔法のエフェクトには期待してもらっていい、とのことだ!」


「おぉ、マジか。超期待値爆上げだな!」


「さらに、スキルの数が何と1,000以上に増えて、スキルスロット数も2つから5つにまで拡張されている。


 スキルはアップデートで随時追加される予定なので自分好みのスキル構成でバトルが楽しめるようになるわけだ。


 ってことで、俺らも正式版Brave Battle Onlineのキャラメイクとスキル登録をやってこうと思います」


「おう! 俺もトライアル版で作った超絶筋肉盛男をハイパーウルトラ強ぇーキャラに仕上げるZei!


 Just Nowジャスナウ、丁度時間になったので『えるあーる。のBrave Battle Online紹介チャンネル』第一回はここまでダゼ⭐︎」


「次回はスキル選びについてやっていこうと思っています」



「俺ら兄弟がどんなアバターを作るか気になるぅ~とか、Brave Battle Onlineに興味を持った方はチャンネル登録よろしく!」


「ヲタとパリピの凸凹兄弟、えるあーる。でしたー」


--------


 なんだかんだで、見入ってしまった。


 そっか、意外と私のやっていたトライアル版と正式版だと違いがあるんだな……


 テキストエディタを開いて、擬似キーボードで今覚えたことのメモを残す。


 すると、ピコンと新規メッセージの通知が来る。


「あ、今度は朱音ちゃんからだ」


 私は新着のアイコンをクリックしてメッセージを開く。



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From: 榎崎朱音

To: 大鍬美月; 柊木真雪

Subject: Re: BBOについて


やっほー

こんばんは

朱音です


普段メールしないから出遅れた

真雪へはメール初めてだからドキドキだよ。


チャットツールの連絡先交換してなかったね。明日、交換しよ。


美月>

グッジョブだよ!


真雪>

紹介動画はいつまでも見続けられちゃうから、寝不足注意だよ


あと、2つ目のリンクの去年のブレバトグランプリだけど、決勝第3試合の『女王クイーン』vs『鳳凰の騎士フェニックスナイト』が神対戦なのでお勧めだよー


また、明日ねー

--------


 メッセージの内容を見て自然と笑みが溢れた。


「夢じゃなくて、本当に友達ができたんだ」


 軽く自分の頬を抓って痛みを確かめて、また笑う。


「あ、とりあえず返信……」


 我に戻って、「今日は遅いからお勧めの試合だけ見たら寝るね。また、明日」と文章をしたためて返信する。


「明日の授業の予習できなくなっちゃうけど、もう一つだけ動画を見なくちゃな」


 美月ちゃんのメールまで戻って、二つ目のリンクをクリックした。

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