第48話 それやっちゃダメなやつ

親戚の家に泊まりに行った時のこと。

確か季節は、秋か冬。

親戚の家の床は基本的にフローリングで、裸足で歩くのは厳しい時期だった。

私はモコモコの温かい靴下を履いていた。私が寝ていた部屋は、家の2階だった。


朝。


飲みかけのお茶が入ったグラスを右手に持ち。

お菓子を入れていた食器を左手に持ち。

私は2階から1階のリビングへ移動しようとしていたのだが。

ツルツルの木材の階段と、モコモコの靴下の相性は、抜群以上の何モノでもなく。

途中の踊り場で、私は見事に足を滑らせた。

多分、手を付くことはできた。

それをしなかったのは、グラスも食器も割りたくなかったから。

そして私は、何とか頭だけを持ち上げた状態で、背中と腰を強かに床に打ち付けたのだった。


ドンッ。


家中に響くものすごい音がした。

同時に。

胴体全体が、燃える様に熱かった。

内臓破裂か?!

と思うほど。

でも、ほどなく熱は冷め、強烈な痛みだけが残った。

お陰で、グラスと食器は、守ることができた。


「どうしたの?」


と問う伯母に、私は言った。


、転んだ」

「何やってんの」

「あはは」


恥ずかしくて、『ビックリするくらい綺麗にすっ転んだ!』なんて、言えたもんじゃない。



その日。

私は伯母と車で出かけた。

そんな日に限って、店の駐車場を出る直前で、エンジントラブルが。


「ちょっと、後ろから車、押してくれない?」


マジか。

まだ、背中と腰、すげー痛いんだけど。


「はーい」


言われた通りに、車を押す。痛みをこらえて、頑張って押す。


「もっと力入れて!」


・・・・これが限界ですって。


なんとかかんとか車も動き、やっと帰宅。


「お風呂熱くしといたよー。早く入っちゃいな」

「・・・・ありがとう」


・・・・これって、温めちゃ、ダメなやつじゃないだろうか。


そう思いながら、熱いお風呂にゆっくりと体を浸す。




「・・・・って訳で。背中と腰が、すごく痛い」

「だろうね」


整骨院の先生は、呆れたように私を見た。


「何やってんの」


・・・・ですよね。

あはは。

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