第29話 思い込み

ある時、母が鯖に当たった。

ひどい腹痛・下痢・嘔吐と、悪寒の症状。

夜中に、救急車を呼んだ。


母は震えながら、蚊の鳴くような小さな声で


「さむい・・・・さむい・・・・」


と繰り返していた。

毛布を何枚か、母の肩や膝に掛けた。

それでも母は、


「さむい・・・・」


と言うので、ありったけの毛布を母に掛けた。

救急車が来るまでの間が、えらく長く感じた。



すっかり回復した母が、わたしに言った。


「私、途中から、『重い』って言ってたのよね・・・・ほんと、重かったわ」


それはどうも、すまんかったですな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る