骨みる少女

ぽとりひょん

序章

 白い滑らかな表面を負けじと白く細い指がゆっくりと滑る。

 その指の持ち主の少女は、白い滑らかな物を両手で包むようにして持ち

双丘そうきゅうの谷間に押し当てた。

   「こうして遊びたかったのでしょう?」

   「楽しい?」

少女は、問いかける微笑みながら・・・

 暗い部屋には、淡い月の光がさしこみ、部屋の中にいる全裸の少女を浮き上がらせる。

 少女は頭蓋骨とうがいこつを両手に持ち胸に押し当て、それを愛で続ける。



 数か月前の5月にさかのぼる

 東海市の北西の端に位置する朝宮町は、西側を海に面している。

 しかし、海岸線は、高い護岸で固められ、人々を遠ざけ、海を身近なものとしていなかった。

 その海岸には、一か所砂浜とも呼べないような小さな浜が存在している。

 そして、浜の沖400メートル位には、周囲100メートル位の島と呼べないような陸地が水面から出ている。

 今、その浜には、二人の制服姿の少女がたたずんでいる。

 二人は背の高さが違っているだけで容姿ようしは似ており、姉妹であることは容易に想像できる。

 その二人を見つめる者たちがいる。

 たまたま、やることもなく、ぶらりと海岸へ出た5人組の青年たちである。

 遠目にもグレーのスカートが特徴的な制服は、東海北高校のものとすぐに分かった。

 東海北高校は、市内では一応、進学校であり、生徒は一様に大人しいイメージで通っている。

 少女たちは、青年たちの目に手ごろな暇つぶしのおもちゃと映っている。

 しかし、近づくにつれ青年たちの目の色は変わっていく・・・

少女たちの姿、顔立ちがはっきりなる。

 青年たちのおもちゃは、上等な獲物に代わっていた。


 青年たちは、少女たちにどのような反応をするのか楽しみながら

   「何してんの」

   「暇そうだねー」

   「いいねー」

とからかうように口々に声をかける。

 少女たちは、自分のおちいった状況が解らないように平然として

まず、背の低い方の少女が首をかしげ

   「遊びたいの?」

と質問をする。

 青年たちが答える代わりに、背の高い少女が

   「遊びたいのよ、沙夜さや。」

と少しおかしそうに言う。

 少女たちの反応に青年たちは無言で獲物を逃がさないように取り囲む。

 海を背にして少女たちは逃げ道を無くす。

 沙夜と呼ばれた少女がもう一人の少女に

   「遊ぶのならあの島がいい、紗姫さき。」

と笑顔でいうと二人は服を脱ぎ始める。

 青年たちは、何が起きたかわからないように固まる。

 一人の青年が我に返るとほぼ全裸になった沙姫につかみかかる。

 しかし、するりとかわされてしまう。

 この時になって、他の青年たちも少女たちを捕まえようと動き出す。

 沙姫と沙夜は、青年たちをたくみにかわすと楽しそうに海の中へ走り出す。

 二人を取り逃がしてしまった青年たちは、慌てて服を脱ぎながら、海へと走り出す。


 5月の海は、少し冷たかったが我慢できないほどではなかった。

 青年たちは、二人を追いかけて泳いで行く・・・

少女たちは、揃って真直ぐ沖にある島に向かって泳いでいく。

 しかし、青年たちは、それぞれ泳ぐ力の差もあり、沖に行くにつれ段々と散り散りになる。

 さらに、悪いことに沖へ泳ぐにつれ、海水は冷たくなり、左から右へ流れる潮流に出会う。

凍え疲れてきた青年から、一人また一人と流れに飲み込まれていく。


 沙姫と沙夜は、疲れた様子も凍えた様子も見せず島にたどり着き、青年たちの有様を眺めている。

 ついには、水中に没し姿が見えなくなる者も出てきた。

 二人の表情には慌てた様子もなく、ただ微笑んでいる。

 しばらくすると一人青年が、息も絶え絶えにたどり着いた。

沙姫と沙夜の待つ島へと・・・


 青年は、荒い呼吸をしながら、しぼり出すように言う。

   「何してんだよ」

   「助けてくれ」

   「死じまうだろ」

   「お前たちのせいだろ」

海を指さし、自分たちが彼女らに行おうとしていたことなど関係ないように

自分のおちいった立場も考えず。

 沙姫は、取り乱す青年に向かって

   「遊びたいのでしょ。」

微笑んだ表情のまま、自分が全裸であることや青年たちが海に飲み込まれたことなど

関心がないように言う。

 再度、青年はわめく

   「死んだらどうするんだ」

   「何とかしろー」

表情を変えずに沙姫は、首をかしげながら

   「どうして?」

と返す。

 次第に頭が冷えてきた青年は、思考を取り戻していく、そして、沙姫の言動に違和感を覚え始める。

   なぜこいつは平然としている

   こいつはなんて言った

   なぜ島まで泳いで平気なんだ俺たちは散々なのに

   なぜ服を脱いだ

   俺たちにおびえて何もできないはず

   今頃はみんなでこいつをもてあそんで、楽しんで・・・

さらに体の凍えではない、寒気が襲ってくる。

   遊ぶってなんだ

   俺と遊ぶ、いや遊ぶのか

 沙姫は、微笑みながら青年の前に立っている。

 それは、一人の全裸の少女が青年の前に立っているだけだが、彼には何か恐ろしいものにうつり始めている。

 そして、沙姫に集中するあまり、沙夜が視界から消えていることに気づいていない。

 沙姫は、微笑んで立ったまま何も答えない。

 青年は動けず、自分が狩られる獲物になったことを感じる。

 そして、、後頭部に強い衝撃を感じ、意識を失う。

 沙姫は、青年の後ろにいる沙夜にたいして尋ねる。

   「殺してないでしょうね、沙夜。」

沙夜は、両手に人の頭ほどの大きさの岩を持ちながら

   「骨に傷がつかないように加減したわ、沙姫。」

と答え、倒れている青年を見る。


 顔に海水を打ち付けられ、青年は意識を取り戻す、後頭部がズキズキ痛み、手で触ろうとするが両腕が動かない。

 何度も打ち付けられる海水に彼は

   「いい加減にしろー」

と大声を出し目を開けると同時に口の中に海水が流れ込む

   「がぼ、げほ、ごぼ・・・」

むせると同時に再び海水が流れ込む、パニックにおちいりかけながら、頭だけ出して砂に埋められ、しかもそこは波打ち際ですでに口のあたりまで海水の中にあることを理解する。

 沙姫が彼の前にかがむと

   「どお?」

   「楽しいでしょ。」

次に沙夜がかがむ

   「仲良くしたいなー」

   「素敵な骨になって。」

と続けると彼は殺されると感じて、命乞いを始める海水のためまともに話せない口で

   「た、たすけふぇーがふっ、がぼ」

   「ごぼ・・・わ・・わる・・・か、げふ、ぼご」

   「どう・・・」

   「がふっ・・・」

命乞いは言葉にならないどころか、息をするのが精一杯になってゆく。

 沙姫は、楽しそうに笑い出す

   「いい。いいわ!」

   「最高よ、最高ー」

沙夜は黙ってみていたが、顔はニヤつき、目は何かを期待するように輝いていた。

 そして、次第に潮は満ち、彼の頭は海中に没した。


 再び、沙夜は島へ来ている。

 島は前回と異なり、強い腐臭ふしゅうが漂っている。

 腐臭の中、沙夜は見つける白骨化した頭蓋骨とうがいこつを・・・

まだ骨に腐肉ふにくが付着する頭蓋骨とうがいこつ

   「待っていたよ。」

   「仲良くしようね。」

と話しかけ、沙夜は頭蓋骨とうがいこつを手に入れる。


 沙夜は、青年であった頭蓋骨とうがいこつを両手に持ち胸に押し当て、それをで続ける。













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