魔王討伐から半世紀、今度は名もなき旅をします。

じゃがバター

極まる直前

 夜の帷のような黒い空間に、煙るような黒い水晶が連なる。六角柱、カテドラル、周囲に浮かぶ大小の両錘。


 新月の晩のような空間で、薄く、淡く、浮かび上がる水晶の道を行く友。


「シャト……」

煙る水晶の先、ほかより一段明るく輝く透明な水晶、それに触れようとする友に声を掛ける。水晶の中心には周囲の黒い水晶と同じ、煙る影。


 思わず踏み出した足元が、薄氷のように崩れた。


「スイ、また」

笑って、今はまだかろうじて白い水晶に飲まれてゆく友。


 時間がもうない。

 魔王は討伐できない。


 世界に時間を与えるため、自身を捧げることに決めた友。俺が代わることはできない――俺は剣だから。


「また」


 見送ったのは俺一人、約束したのも俺。

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