変革の午後①

 ーそれから更に数分が経過し、そろそろ部署に戻ろうかと思ったその時。タイミング良く『任務完了』と『シンジン』女子の二人からメッセージが来た。…さて、行くか。

 俺は笑うのを堪えながら部署に戻った。そして、期待を込めて出入り口を開ける。…すると、分かり切っていた事だが部署の至るところに『N』が居た。…すげー光景だ。

 俺は感動しながらツールで指示を出した。そして、何気ない風を装い係長の元に向かう。

「ー江口君、ちょっと良いかな?」

 すると、『N』の一人となった係長が声を掛けて来た。

「はいっ!」

 俺は嬉しさの余り少し元気な声で返事をし、彼のデスクに向かった。


「何でしょうか?…あ、新人二人の課題でしたら『問題ない』ですよ?」

「それは何よりだ。…実は、その『課題』の件でちょっと頼みたい事があるんだ」

「…と、言いますと……。ああ、『課題』の回収ですか?」

「察しが良くて助かるよ。…じゃあ、頼んだよ」

「はい」

 俺が返事をすると、ちょうど彼の内線が鳴った。…さあて、『オシゴトオシゴト』。

 俺はウキウキしながら、まずは自分の担当する二人から回収を始めた。…勿論、既に二人は今日の分を終えているのは分かっているので肩を叩いて秒速で回収した。…どっちから行こうかな?

 俺は、二グループの新人女子と担当する『攻略対象』を交互に見た。…決めた。

 標的をロックオンした俺は、表情を引き締めてそこに向かったー。





 ーside『ターゲット』



 ー…さて、どこまで進んだかな?

 私は、担当する新人二人に用意された課題の進捗を確認すべく作業の手を一旦止めた。すると、丁度そのタイミングで後輩の江口君に声を掛けられた。

 何でも、係長が席を外しているので課題は自分の所に持って来て下さいとの事だ。本当に、丁度良いタイミングだ。

 私はそう思いながら、江口君に少し待って貰い二人の新人女子に声を掛けた。すると、二人は心配そうにしながらパソコンのモニターを見せてくれた。…まあ、初日はこんなモノでしょう。

 課題の進捗具合は予想の範疇だったので、私は二人を安心させる為に笑顔で問題ないと告げた。その時ふと、江口君の担当する新人が気になったので聞いてみた。

 すると彼は、『彼女達とだいたい同じくらい』だと言った。それを聞いた彼女達は、すっかり明るい表情になった。…本当、ナイスなフォローの仕方をするわね。一体、どうゆう経験をしてきたらこうも自然なフォローが身に付くのかしら?…って、いけないいけない……。

 素直に感心していた私は、頭を切り替え彼に後程持っていくと伝えた。


 彼は頷き、別の新人担当の所に向かった。…さて、私も続きをー。

 彼に見習い私も作業を再開させようとした矢先、急に『お花を摘みたく』なってきた。…仕方ない、一旦済ませに行こう。

 生理的欲求に従い、私はそのまま出口に向かう。すると、少し遅れて担当する娘達も立ち上がった。…タイミングが良いわね。

 私は面白い偶然に内心微笑みながら、彼女達と共にフロアを出ようとした。

 しかし、その直前で同期の潮田さんと新人二人と出くわした。どうやら、彼女達も『お花摘み』のようだ。…ここまで来ると、笑い転げそうね。

 おかしくなりそうになるがなんとか堪え、そのまま六人で『お花を摘み』に行く。…そのまま何事もなく『お花摘み』を済まそうとしたその時。

 営業部の長瀬さ…長瀬係長と新人二人が反対側からやって来た。…タイミングが良いわね。


 今まで笑いそうになっていた私だが、気まずさのせいで冷静になれた。…そして、向こうもやや緊張した様子で歩いて来てそのまま一緒に化粧室に入った。

 ー…そして、それぞれが『お花を摘み』終えて手を洗おうとするが、そのタイミングでふと長瀬係長がおもむろに『首に着ける健康グッズ』を大量に取り出した。…そういえば、前にそんな話しをしていたっけ。

 けれどまさか、丁度『私達六人』の分を持って来ていたとは彼女は未来予知でも出来るのだろうか?

 そんな事を考えながら、広報部の私達は『それ』を首に装着するのだったー。



 ○



 ー…うわー。まさか、『健康グッズ』に偽装するとはねー。

 ミヒトの報告を読んだ俺は、素直に驚愕していた。そして、新たに増えた彼女達の情報を確認しツールをスリーブにした。…いやはや、それにしても怖いくらい上手く行った。

 俺は震えながら、先程行ったシンプルかつ巧妙なプランを思い出す。

 ー…まず最初に『ターゲット』の周りにいる『N候補』を弱催眠からのオールスルー状態にし、それから『ターゲット』を弱催眠にする。そして、『-オ-チーム(製造班)』特製の『お花摘み促進スプレー』を彼女達に吹き掛ける。

 後は、ミヒト達が『お花を摘み』に行った彼女達に『健康グッズ』に偽装したチョーカーを自ら装着させて、無事『増員』成功…という訳だ。…ホント、頼もしい限りだ。

 俺はニヤニヤしながら、作業に取り組むのだが直後に『彼女達』が戻って来た。…すると、『彼女達』は真っ先に笑顔で小さくお辞儀をしてきたのだ。はあー、満たされる…ー。



 -そして、それから数時間後。

 新人達の課題は問題なく俺の元に届けられた。勿論、それらはまとめてミヒトの同期である『ミスト』と『ミティ』が持って来てくれた。…はあ、こんなに至近距離で二人を拝める日が来ようとはな。

 俺は優越感に浸りながら課題を受け取り、それらを『ニム(N:I.M.)』の机に持っていく。すると、丁度そのタイミング…まあ、指定した時間通りに彼が戻って来た。

「ああ。ありがとう江口君」

「どういたしまして」

 彼はそれを受け取り、速やかに課長の元に届けた。

 そして、自分のデスクに戻ると『人避け』を展開し凄まじい速度で仕事を片付けていった。…うわーすげぇー。

 俺が驚愕するなか彼はみるみる溜まった仕事を消化していくが、数分過ぎた時ふと手を止めた。


 -直後、フロア内部に優雅なメロディーが流れた。

「…皆さん、お疲れ様でした」

『お疲れ様でした』

 彼は立ち上がり終業の挨拶をした。それに合わせて俺を含めた彼の部下達も挨拶を返した。

「さて、皆さんにお知らせがあります。

 今年も例年通り、係単位で新人の歓迎会を行う事になりました。勿論、新人や担当者やそれ以外の人の参加は自由です」

『はい』

「それでは、さようなら」

『さようなら』

 …はあ、いよいよだな。

 俺は感情の昂りを抑えながら、『N』の二人を連れフロアを出てエレベーターに向かう。…そして目前まで迫ったその時、ツールが震えた。


『題名:ミヒトよりマスターへ』

 題名を見た瞬間、またもや叫びそうになるがなんとか堪え内容を読んだ。…なるほど、『良いプラン』だ。

 俺はニヤリとしながら『ありがとう』と返信し、タイミング良く来たエレベーターに乗り込み一階まで降りた。そして、一階に着くと二人は降り俺はそのまま地下駐車場まで降りた。…おお、素晴らしい。

 エレベーターを降りた直後、俺は感動する。何故なら、ミヒトとイオリとミラがエレベーターホールの出入り口で待機していたのだ。そして、三人は揃って深いお辞儀をした。…これが、感動せずにいられようか。

「ありがとう、三人とも」

「「「恐縮です、マスターダイスケ」」」」

 俺は礼を言いながら自然とミヒトにカバンを預けた。彼女も、お辞儀をして自然…いやとても嬉しそうにカバンを受け取った。


「…では、マスターダイスケ。こちらに」

「ああ」

 そして、彼女達に案内されミヒトの個人車の前にたどり着いた。すると、イオリが助手席を開けてくれたので俺は満面の笑みで乗り込んだ。

「ー…マスターダイスケ、『少々お待ち下さい』」

 そして、イオリだけが車に乗り込みツールを操作した。直後、車の中に不思議な光が満ち溢れー。


 ー気が付いた時には、俺は全く違う車…内装にこだわりを感じるワゴン車の中にいた。いやはや、ホントすげぇな。

 そう、俺はミヒトの車からこの車に転送されたのだ。そして、またイオリがドアを開けてくれたので車から降りた。すると、目の前には三階建のビルがあった。

「…此処がー」

「はい」

 俺は、目の前にあるいかにも中小企業や飲食店が入ってそうなこじんまりとした商業ビルを見上げて、ぽつりと呟いた。それに対しイオリはとても嬉しそうに呟いた。

「さあ、マスターダイスケ。どうぞ、お入り下さい」

 そして、手をビルに向け深くお辞儀した。

「ああ」

 俺は、何の迷いもなくそのビルに足を踏み入れた。…へぇ、入り口はいかにもな感じだな

 ビルの一階は、本当に商業ビルと同じ作りになっていた。

 そして、狭い通路を通りエレベーターに向かう。すると、やっぱり良いタイミングでドアが開いた。


「ご機嫌よう、マスターダイスケ」

 そこには、上品な雰囲気を纏い黒い艶のある髪をアップにした美女がいた。

「ああ。…そうか、君…いや『君達』は既に『こちら側』だったんだな?」

「ええ。本日より、凡そ三ヶ月前から。

 ささ、お乗り下さい」

 その美女…営業部の白鳥部長はそう言いながら促した。…っ!

 その瞬間、俺は素早く乗り込み上品なスーツの上着を下から押し上げる巨乳を至近距離でガン見した。

「あらあら、早速夢中ですね。

 ではイオリ。お願い」

『シラトリ』は喜びに満ちた声で反応し、その声でイオリに指示を出した。

「はい」

 イオリも、喜びに満ちた声で応えドアを閉じるのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る