83.獲物持参で凱旋します

 さすがに首を落とされれば生きていられないヘカトンケイルの死骸を見上げて、改めてその大きさに圧倒されていた。

 身長は10メートルくらいあったと思うが、その首の幅はせいぜい1メートルくらいで、だからこそ首を切り落とすことができたわけだが。

 四肢を投げ出して倒れている人型に近い形の獣は、倒れているにも関わらずそれでも見上げる高さなのだ。


「ドラさん。丸ごと吊り下げて持てます?」


『丸ごとはちと厳しいかのぅ』


「ですよねぇ」


 大きさを比べてもドラさんの方が小さい。変な形に崩おれているその背中に乗っているからかえってわかりやすかった。

 調査の結果を報告しなければならないのだけど、コイツを見つけた時はビックリが過ぎていて、証拠写真を撮り忘れたのだ。となれば、死骸を撮影するか、実物を持ち込むかするしかない。

 どうせ頭は取れてるんだし、頭だけ持ち帰るって手もあるんだけど、首から下は無傷だから捨てていくのはもったいないし、といって俺にはこんな物解体できる技量もないからインベントリに入れておいても肥やしになるだけだし、だったら金に変えたいよな。


『いんべんとりに入れて持ってゆけば良いではないか』


「うーん。このインベントリは公開したくないんですよね。俺には再現できないからこの世にたったひとつしかない貴重品だし、無限になんでも入るなんて兵站の革命になりそうなもの、個人資産だって言い張っても通用するかどうか。知られなければ狙われようもないでしょう?」


『ヒトの世は相も変わらず同種族で殺し合いを企むか。面倒なことよ』


「下手に知恵があるせいでしょうね。性悪説を前提として、やられる前にやれ、というのは、どこの世も同じだと思うんですよ」


 なので、インベントリという危険物を公開する方法は却下で。

 何か良いもの、リョー兄ちゃんが遺してないかな。インベントリのリストを開いてスクロールしていく。


 途中、目に引っかかるものがあった。

 いや、リョー兄ちゃんのネーミングセンスの問題ってヤツですが。

 ホイ○イカプセル、ってさ。もろアニメのパクりじゃないか。小1の子守してた影響だろうか。

 出てきたのは魔石がひとつ。使い方もアニメと同じと考えて良いかな。


 足元に放り出してあったエアスケボーにコツリとカプセルの魔石を当て、ブレスレットを当ててやる。と、エアスケボーが消えた。足元に置いていた大太刀も同じようにしても大太刀は消えないので、入れられるのはひとつだけらしい。

 そのままカプセルを地面にポイと投げて、何も起こらずコロコロ転がっていくのを拾い。一度ブレスレットに当ててから同じように投げてみたら、エアスケボーが出てきた。魔石も横に転がっている。

 うん。使い方もアニメと同じだった。


 では、本番。

 この巨体も入りますか?


 ドラさんが死骸から離れてくれたので、そこに投げ出されている指先にカプセルを当てた。

 さすがに大きすぎたようで、吸引力のある何かが吸い取っているかのようなアニメ的なエフェクトが一瞬見えた。そして、俺の目の前を埋め尽くしていた巨体が、消えた。あるのは、向こうに離れて転がっている頭と、登り勾配で広がった岩のゴロゴロしている荒れ地だけだ。


 飛び上がっていてくれたドラさんが降りてきて、目的達成だな、と笑った。

 カプセルには、今まで俺が作ってきた魔道具と同じように表面に彫られた魔法陣が装飾のように貼りついているだけなので、確かに俺が再現することは可能で、希少性はググッと下がった。兵站の大革命なのは変わらないけど、ひとつしか入らないという制約は十分なブレーキだと思う。


「これも特許に申請します」


『それがよい。さて、そろそろ参ろうか』


「少し休憩しても良いと思うんですが」


『ヘカトンケイルの死骸より溢れた魔素でこのあたりはだいぶ汚れはじめておる。休むなら安全な場所に移動してからが良いぞ』


 うわ、そうなのか。俺じゃ見えないし感じないしでよくわからないが、ドラさんがそう言うなら従った方が良さそうだ。

 出しっぱなしのエアスケボーと大太刀をインベントリにしまって、反対に俺がこっちの世界の鍛冶屋で作ってもらった刀もどきを腰に差して、身をかがめてくれたドラさんによじ登った。

 陛下の御前に出るには非武装の方が良いだろうけど、獲物を持ち帰るんだから武装してないと不自然だしね。


 飛び上がってヘカトンケイルの頭をガッシリ掴んだドラさんは、ゆったりした速度で斜面から離れる方向へ飛んでくれた。

 その間に俺は王城へ、お土産持参で戻りますよ、と報告を入れる。通信の向こうで、今回のスタンピードの原因が来ると聞いて途端に慌ただしくなったのが聞こえた。


 それにしても、この携帯端末。圏外ってないんだな。電波塔も立ってないんだから当たり前なんだろうけど、不思議だ。

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