63.魔素って産廃副産物みたいです

 時間も昼食時。一休みしよう、ということになった。

 せっかく使える台所があるので、温められるものは温めなおしができる。気持ちのよい庭もあるのなら、外でピクニック気分も良いだろう。


 昼食の準備を引き受けてくれたヘリーとドイトに台所から追い出され、庭にシートを広げてテーブルを用意し始めたエリアスとエイダに手は足りていると追いやられ、いつの間にかレイン教授の姿は見えず。


 伏せて小屋から顔を出して気持ちよさそうに目を閉じているドラさんの方に、足を進めることになった。やることがなくて手持ち無沙汰で、話し相手が欲しかったんだ。


「ドラさん、って呼んで良いですか?」


『ふ。リョーと同じ呼び方であるの』


 のそりと小屋から出てきたドラさんが、出てきたところで寝そべって、前足で地面をぺたぺたと叩いた。椅子になってやるから座れ、だそうだ。

 指示通りぷっくり盛り上がった手の甲に座ると、俺の頭が腕の付け根にジャストフィットした。そこから見上げるとドラさんの顔が半分しか見えないんだけど。俺の顔と同じくらいの目玉がひとつ、見下ろしている。目尻に笑い皺ができてるなぁ。


「ドラさんは神様だとリョー兄ちゃんの遺言にありました。本当ですか?」


『む? ふむ。ある意味で本当であるが、正しくは微妙よな。創造主ではなく、信仰の対象でもない。ただ、この世界の見守りを任された者ではあるが、唯一の存在ではないし、おそらくは役目を放棄したとて問題もなかろうな』


「そういう種族のうちのひとり?」


『うむ。で、あるな。神のごとき力は備えておる故、神と呼ばれることに否定もせぬ。が、この大陸だけでもあと2頭はおるし、この星に住まうもので確か15頭ほどだったか。我こそは神であるなぞと自称する愚を犯す気も起こらぬな』


 なるほど。日本のように八百万の神々という考え方があれば神様のうちの一柱だし、複数の神様が認識されているとしてもエジプト神話とかみたいに特別な存在のみ神様と認識するなら神様のうちには入らないと。

 少なくとも、ドラさんの認識に唯一神という考えは無さそうな回答だな。


「他のドラゴンさんと一緒に暮らしたりはしないんですか?」


『ふむ。考えたこともないのぅ。元々同種となれ合う習性はない』


「そのわりに、リョー兄ちゃんには義理堅いみたいですけど」


『ふ。アレは特別よ。長い我が生涯でもあれほど面白い生き物はおらなんだ。あれの好んだ空気を我もまた好んだことも大きい。心地の良い住処であろう?』


「そうですね。周囲の環境から考えたら、よくこんな穏やかな環境が作れたなぁと思うくらいに」


『この結界の力よの。アレほど魔素の扱いに長けた者もなかなかおらぬな』


「友人たちがここに入れなかった原因ですか?」


『うむ。魔法師リョーテエイデルアンデリアの最高傑作よ。体内蓄積魔素を持つ者を幻影空間に放り込み、大気魔素は吸収して自らの動力に変換し、結界内全体に空調と劣化阻止を与え、かつ受け入れた生き物の育成を保護する。塔の地下に設置されておる魔法陣を解析してみよ。意外と簡潔にできておるぞ』


「ドラさんも魔法陣を使うんです?」


『読めはするが、儂には不要であるな。竜種が振るう能力は魔素なぞ使わぬゆえ。もう充満してしもうて排除もできぬが、魔素なるものは元々この世界の構成物では無いゆえに』


 へ?

 なんかもの凄い重要情報が出てきたけど。

 びっくり顔をしている自覚があるのだけど、その俺の顔を見るドラさんの目許が目尻の笑い皺を深くして細まった。これは、ニンマリ笑った顔のようだ。


『この世界にはびこっておる魔物どもは、元々は他の世界より廃棄されたゴミなのだ。まったく迷惑な話よの。もちろん投棄犯への報復はしておる。が、世界に散ってしまった魔物の祖は死して魔素に分解されてしまっておってな、回収することは事実上不可能よ。魔物というのは、その魔物の肉を喰んだ生き物が産み落とした子。最初は他世界からの異物であるが、今いる魔物はこの世界に育まれておるのだ。もはや排除もできぬ。ゆえに、共存を許しておるのが現状よ』


「あー。人間も魔物食いますね。人間も魔物の仲間ですか、やっぱり」


『そうよな。とはいえ、知恵持つ種であるが故、魔物の本能である凶暴性もいくらか抑えられておる。野生に近い社会性を持つ民族なぞは魔物に近かろうな』


「この大陸の入植者がせっかく発展してた魔法文化を破壊したのは、魔物化が原因ですか」


『おそらくはの。ヒトの歴史にモノを申すつもりもないが、残念なことであった。この地には魔物は入れぬ故、侵食を免れ得ることが救いよな』


「友人たちのように入ってくることも可能ですが」


『口止めしておくようにの。他者の好きに荒らされるは本意でない。アレらに侵入を許すつもりであるなら、魔法陣にアレらの固有魔素波紋を登録しておくことよ』


 登録しないと、俺が一緒でないと出入りできないようです。


「登録した人と別の人が一緒だったらどうなります?」


『共に侵入を拒むまでよな』


 なるほど。悪用防止も完璧でした。

 まぁ、教授も友人たちも信頼してるけどね。

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