62.塔の天辺でお墓参りです
ドラゴンさんことドラグマレイストがのっしのっしとゆっくり歩いて小屋に向かうのを見送り、深いため息が出た。
相変わらず名前が長い。リョー兄ちゃんよりはマシだけど、俺には長く感じる。ドラさんで良いかな、後で許可もらおう。
俺がため息を吐くのと前後して、他のみんなからも息を吐くのが聞こえてきた。なんとか命の危機を脱した感がスゴい。いや、多分それは人間側の勝手な思い込みで、命の危機なんてなかったんだろうけど。
「いや、びっくりしたな」
「びっくりなんてもんじゃないですよ、先生。死んだと思いました」
「それよりリツだよ。ドラゴンと普通に会話するし!」
「ドラゴンって、話せるんだね」
「それな」
上から順に、レイン教授、エリアス、エイダ、ヘリー、ドイトの感想だ。それぞれに俺は全部同意。
まぁ、良いか。
「家主の許可も出たし、中に入ってみよう」
改めまして。オープンザドアー。
中は三重構造に出来ていた。中心は四角い部屋がドンとあって、その周りを二重螺旋に階段が囲んでいる。その外側にまた部屋が区切られていて、2階より上は外周の部屋が狭くなるかわりにテラスが巡っている。
塔の内部は10階建て。外周の一部にはエレベーターが置かれているし、階段にはエスカレーターもどきが設置されていた。各所に窓が設けられていて、中央の部屋まで太陽光が及ぶ仕組みになっている。ガラス窓はなくて全部開きっぱなしの吹き抜けだ。風通しも良すぎるくらいに良い。
下層は居住空間で、上層は研究所として使われていたようだ。上にいくほど家具も無くなっていった。
一人暮らしの研究所にこの規模はいらないと思うんだが、どの部屋にも別々に使われていた痕跡があるのに驚いた。研究に使っていたような記録用紙がまとめて置かれていたり、鉄屑が転がっていたりする。
一番上は中央に四阿が置かれた空中庭園になっていた。
空中庭園から見渡す周囲の景色は、絶景だった。
そして、四阿の脇には、墓が建てられていた。
「リョー兄ちゃんのお墓、かな」
墓碑には、稀代の魔法師ここに眠る、とだけ刻まれていた。見つけてくれたガレ氏が建ててくれたのだろうか。普通は地面に建てるだろうに。
供えられるものは何も持ち合わせていないけど。武装を下ろして膝をつき、手を合わせる。
だいぶ遅くなっちゃったけど。来たよ、リョー兄ちゃん。
塔の天辺のわりに、優しい風が吹き抜けていく。
真夏でこれでは、冬は寒さも厳しいだろうな。
顔を上げると、塔を見て周りながら上っているうちにはぐれた友人たちがいつの間にか俺の周りに集まっていて、同じように手を合わせていた。
「1階のリビングに手紙があった。師匠殿からリツ宛てだ」
レイン教授にそう言って手渡されたのは、なんの飾りもない白い封筒だった。少なくとも何百年も経っているはずなのに、新品のようだ。経年劣化防止魔法の威力をこんなところで実感する。
封筒の中には日本語で書かれた手紙が入っていた。一目で泣かせてくるの止めて欲しいんだけど、リョー兄ちゃんや。まぁ、良いや。涙が邪魔だけど、読み進めよう。
愛しい異世界の弟 リツくんへ、と始まった手紙は複数枚に渡っていた。
約束を守れなかったこと、召喚の魔法陣をこの世に遺してしまうことを詫び、この手紙は万が一のために遺したことを説明し、子どもの俺にくれたブレスレットが遺産継承者の証になるから冒険者ギルドで手続きするように促され、この塔を丸々譲るから好きに使えと。
それから、魔素のない俺のために作ってくれたという魔法の教科書の存在が書かれてあった。そして、拠点が別にあるなら、転移魔法陣を設置すると便利だよ、と。この書きぶりは、教科書で学べば設置できるのだろう。
そして、この場所をまもっているドラゴンの存在について。
「あのドラゴンさん。神様の一柱だそうですよ」
寂しがりの神様だから、よかったら友だちになってあげてね、だそうだ。本人は使い魔だと自己紹介していたけれど、リョー兄ちゃんとしては友人のつもりだったようだ。
そして最後に、地球への帰り方。ドラグマレイストに聞け、とのこと。
さすが神様。むしろ、リョー兄ちゃんが地球に来たときもドラさんに送ってもらったのかな、もしかして。
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