49.学生会長は文武両道だそうです
予選は制限時間いっぱいまでかかる方が珍しくサクサクと進み、初日に全試合が終了した。
決勝戦はさすがに手強かった。俺のスピードに合わせて強化魔術を捨てて速攻してくるとは。考えの柔軟な人だった。
まぁ、結果として、予選トーナメントは突破させてもらった。試合後握手で挨拶までする先輩は、とても良い人だった。彼の分まで決勝トーナメントも頑張ろう。
というわけで、中1日休みになったので、みんなと一緒にあちこちの試合を見て回った。
大学院の試合はやっぱり見応えがある。実戦経験も豊富な即戦力な人たちなのだろう。
一方、初学院の試合もそれはそれで楽しかった。年下が頑張る姿は可愛いな。微笑ましく見てしまった。
中学院の試合は、決勝戦をハシゴして観戦した。対戦相手になる可能性がある相手だ。戦力分析は必要だろう。隣でエリアスが解説してくれるしな。
どこの試合会場も午前中には予選トーナメント日程の消化を終え、決勝トーナメントの組み合わせが出揃う。
俺の第1回戦はドイトと同じ盾タイプで、むしろ盾を武器にして重量で押しつぶすタイプの戦士だそうだ。
で、彼に勝てれば第2回戦なのだが。
「あちゃー。2戦目ニコルじゃねぇか」
「会長、強いの?」
「おう。優勝候補」
一緒にトーナメントを見ていたエイダがそう教えてくれた。学業は学年主席で、戦闘面でも1、2を争っているそうだ。生まれも恵まれているとはいえ、侯爵令息として日々精進して生きてきた証拠なんだろうな。なかなか難しいんだぞ、文武両道。
「リツくん、勝てそう?」
「まずは初戦突破からな」
心配そうにヘリーがそう言うから、ちょっと混ぜっ返してみた。正直に言えば、自信はない。時の運が味方すれば、だなぁ。
「決勝トーナメントに進んでくれただけで十分だ。見たところ、他は全部3年だし、十分目立ってる」
「これなら、他からとやかく言われても、同じことやってみろって突っ返せるしな」
それはつまり、当初の目標は達成したということか。認められたところで、敗退するまでは全力を尽くすけどな。
「強化魔術待ちは?」
「速攻解禁で」
解禁されました。
ならば、やれるだけやりましょうか。
中日の残り時間は、マイ木剣の加工で潰すことにした。ペーパーナイフ並みには鋭い刃先を削り落として、観光地の土産物屋で売っている木刀くらいを目安に。
予選トーナメントで、怖かったんだよな。斬れそうで。
そして迎えた決勝当日。
グラウンドを2つに分けて、間に観客席が差し込まれた。それぞれに、初学院と中学院の決勝トーナメント試合会場になる。その中を4つに区切られて、初戦と2回戦目は同時進行になる。大学院は屋内だそうだ。
俺の初戦は最初の4試合のうちに入った。
強化魔術を待たない方針に戻ったから、速攻5秒判定勝ちだった。打ち込みすら無し。盾の脇から回り込んで喉元に切っ先を突きつけて終了だ。
そのため、隣で行われているニコル会長の試合をゆっくり観戦できた。感想、厳しい。ニコル会長も軽量スピードファイターだ。
判定に持ち込まれた試合があったので10分丸々かかって第2試合も横一線で始まっていく。予定時間の早回しはなさそうだ。
自分が出ない試合時間は観戦するのだが、勝ち進んでいれば選手の控え場所からの観戦になるため、同じところにニコル会長もいた。向こうからわざわざ近づいて来たんですが。
「次の試合、よろしくね、リツくん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「体内魔素がゼロって聞いてたけど、間違いない?」
「手の内ですけどね」
率直に聞かれるから、苦笑いが出たんだけど。頷いて返せば、だよね、と納得した反応だ。
「強化してる時間はなさそうだね」
「ですから、手の内ですって」
「ふふ」
上品に笑われました。
あー、厄介だ。絶対本気出したら手に負えないタイプだろ。トーナメント運悪っ。
もう、情けなくて言いたく無いんだが。
結果、あっさり負けました。お互いに速攻勝負とか、この大会では珍しいんじゃないかな。
順当に勝ち進んで優勝を飾った会長に負けたなら、仕方ないよな。
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