48.順調すぎるトーナメント戦です

 大会中も昼食は友人たちといつも通り食堂で食べる。

 待ち合わせ場所で合流したら、挨拶の前に初戦突破を祝われた。


「あの距離で見えてたのか?」


「黒髪のチビっ子って案外目立つぞ」


 だそうだ。ヘリーより小さいチビっ子な低身長も意外な役立ち方をする。


 俺の試合中以外は他の試合会場も一通り観察したそうで、授業中に見られる実力や前評判から大体の決勝進出者予想はできているという。学院側としても、決勝トーナメントに注目カードが配置できるようにグループ分けしているらしく、優勝候補は分散しているのだそうだ。

 で、俺の組み込まれたグループだが。注目選手がいないグループなんだそうだ。それならなおさら、勝ち進まなくちゃな。彼らの仲間として文句がつけられないように、目立つことが目的なんだから。


 今日の残り試合は後1戦。順調に勝ち進めば、明日3戦を勝って決勝トーナメント行きだ。つまり、予選は5回勝てば良い。

 まぁ、みんな必死だしな。油断なく1戦を大事に戦っていこうか。


 トーナメントは予選も決勝も組み合わせが公表されている。俺は持ち合わせていなかったが、エリアスがちゃんと俺が入っているグループのトーナメント表を控えていて、俺が次に当たる相手の前情報を教えてくれた。

 ちなみに、俺以外で第2試合に進んだのは全員3年生だ。中学院最後の年で気合いが入る、という事情は日本と変わらないらしいから、どこのグループも同じ傾向だそうだ。

 まぁ、十代のうちは1年の差が大違いだしな。順当か。


「でな。エリアスくんから頼みがあるんだよ、リツくん」


「何、改まって」


 自分を名前で呼ぶとか、エリアスらしくないんだが。ニマッと笑った顔から、何やら良からぬ企みがあるのは察せられるし、俺に対する難題なのも何となく予想はつく。あんまり難しいのはやめて欲しいけどな。できることなら期待に沿っても良いけど。


「相手が強化魔術かけ終わるまで待ってみない?」


「わざわざ俺の有利を捨てろと?」


「強化できてれば負けないとか負け惜しみ言われそうじゃね?」


「あー。わかるけど……」


 文句が出ないように、とは最初から言われているから、言いたいことはわかるんだけどな。強化されると、叩いても意識落としてくれないんだよな。戦闘訓練の実習でイヤと言うほど実感してる。未だに、どのくらい力を入れたら命を奪わずに戦闘不能に追い込めるのか見極めきれていないんだ。

 全力を出してみたら、とは提案されているが、それは即行で却下した。実戦を重ねた今では仲間たちもみんな納得してる。俺はスピードファイターだからな。殺傷能力のない木製でも、刃先はだいぶ薄く作られているこの世界の木剣なら余裕で斬れる。ペーパーナイフもスピードを乗せれば十分な武器だってことだ。


「怪我人が出たら戻すぞ? それと、キャレ先生に待機してもらう」


「急所は狙わない方向で」


「だな」


 じゃあ、キャレ先生に事情を説明しておこう。

 この場で携帯端末で繋いで説明すれば当然のように渋られたので、説明はエリアスに任せた。

 結論、エリアス案採用となった。


 さて、では午後の試合だが。

 本来14時までかかるはずだった1回戦が午前中で全て消化できてしまったので、午後一から2回戦目が始まる。俺は1回戦目が4番目だったから、2回戦目は2番目だ。

 ひとり勝ち抜いてきた者同士の対戦なので試合時間は少し長引いた。といっても時間いっぱいはかからずに出番の声がかかる。


 試合場に一礼して、開始位置へ。初戦の俺の試合を見ていたことで警戒されているようで、構えろと言われる前からピリピリしているのがわかる。

 そんなに構えなくても開始の合図が来るまでは攻撃しないよ。


「では、両者構え」


 促されるまま正眼に構える。

 ちなみに当然の事ながら、発動語を発してくれないと俺には魔術を使ったかどうかなんて分からないわけで。先手を譲る。これしか相手に強化魔術を使わせる術はない。

 まぁ、剣術には後の先という常道がありますので。


 降りかかってくる剣を払って胴へ叩きつけ、相手の身体がくの字に屈むところで首筋に切っ先を添える。

 審判さん、いかがですか。


「それまで! 勝者リツ!」


 なるほど、わかりやすい急所に寸止めならありなのな。理解がひとつ深まった。

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