25.冒険者の仲間入りをします

 翌日。

 いつものように食堂で昼食を摂っていたのだが、その場にはいつもは無いものが置かれていた。

 俺も持っている、携帯端末だ。


 これこそ、リョー兄ちゃんが残した最高傑作だと俺はしみじみ思う。電気もなく電話もなく、電波の概念もないようなこの世界に一足飛びにスマホがあるんだぞ。知っていて再現したので無い限り生まれない土壌だ。


 そんな携帯端末には、定型フォームに収まった情報がリスト化されて表示されていた。

 携帯端末というのはそんなに安い物ではないそうで、キャレ先生は高給取りだから俺と二人分を用意したが、これは彼らが冒険者パーティーとして活動するために用意した共用物だそうだ。

 表示されているのは、冒険者ギルドに集められた現在の依頼内容一覧だ。個人所有もしくはギルドに設置された携帯端末から、依頼を受注する仕組みになっている。早い者勝ちだそうだ。依頼を受注するためにギルドでカウンター前に並ぶ必要がなく、大変便利な仕組みである。


 現在、友人たちは明後日の週末休みに働くための依頼内容の確認をしていた。日数的な余裕がある依頼なら受注することもあるが、それよりも現在求められている傾向を探って依頼無しで狩りを行い、売却時に消化できる依頼があればその場で受注と同時に納品して依頼料を上乗せする、という活動の仕方を続けているそうだ。

 平日は学業に専念したいからねぇ、とのこと。


「ボアが品薄かなぁ」


「オーガの討伐依頼出てっけど、これは?」


「週末までには片付いてんだろ。でなきゃ騎士団が出るさ。村の存続に関わる」


「なら、狙い目はボアか」


 彼らの狩り場は基本的に管理森林エリアから入った山の中だ。この管理森林エリアは、学生の戦闘訓練に利用されるために区切られたエリアで、授業で使われない間は教師や依頼を受けた冒険者が間引きに入って生息する魔物の数を調整している区域である。

 とはいえ、山脈から続く森と何らかの形で物理的に区切られているわけではないため、その奥に踏み込めばそのまま森に入ることができる。つまり、森への近道として、学院生の特権を利用するわけだ。ヘリーとドイトが寮生活だし、エリアスとエイダもスクールバスが使えるため、交通費節約目的でもある。

 なお、スクールバスは年末年始のような特別な祝祭日以外は毎日運行している。曜日感覚のない大学院の研究生に需要があるためだ。


 冒険者ではない俺は、今日は彼らの会話をただ聞いているだけだ。生活環境は日本と変わらない便利さだが、会話の内容は典型的ファンタジーなので、ギャップが面白い。


「ねぇ。せっかく仲良くなったんだし、リツくんも参加しない?」


 完全な他人ごとで勝手に楽しんでいた俺に、携帯から顔を上げたヘリーがそう言った。それをきっかけにみんなの視線が集中する。

 そんなに注目されると恥ずかしい。

 てか、そもそも、冒険者はやめておけって言ったのはお前らだろうに。


「良いな。リツがいれば攻撃の選択肢が増える」


「そうだな。昨日見た限り十分戦えそうだったし」


「強化魔術はボクがサポートするよ」


 いや、待て。確かに剣と魔法の世界にいるリョー兄ちゃんに会いに来るつもりで剣の腕は上げたが、実戦経験は皆無なんだ。いきなりプロの冒険者に加わって戦力にはなれない。

 それに。


「そもそも、武器がねぇよ」


 この世界には刀は無い。似たような片刃の剣としてサーベルとかカトラスとかに近いものはあるが、剣の振り方からして全く異なるそれを使えるものでもない。


「じゃあ、参加前提で準備から始めるのはどう?」


「良い鍛冶屋紹介するぜ」


「資金も提供するぞ。パーティー費用から」


「新規参入がいるなら肩慣らしは必須だし、連携を調整するためにも時間はいるし、実戦経験はその間に積めば良いよ」


「火力が増えてくれたらボクみたいな戦えない後衛も後ろで安心だし」


 何やら全員で勧誘に乗り気なんだが。昨日の戦闘訓練で最低限の力は推し量れたとしても、そこまで期待されるほどではないだろう。何せこちらは平和ぼけするほど平和な世界出身だ。基本的な心構えが全然違う。


「とりあえず試しでどうだ? 武器は自分で工面するよ。費用出してもらうと足手纏いだったとなっても抜けにくくなるし」


「杞憂だと思うけどなぁ。まぁ、本人がそれが良いなら任せるよ」


「今週末は無理だぞ。武器が間に合うとは思えない」


「分かった。じゃあ、来週からのお楽しみだな」


 いや、だから、何でそんな高評価だ。友だちの期待は裏切りたくはないが、こればっかりは過大評価が怖い。


「何にせよ鍛冶屋には行こうぜ。間に合うかも知れねぇだろ」


「あぁ、それは頼む」


 どう転ぶにせよ、武器は必要だからな。

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