3.改めて自己紹介しましょう

 治療を受けた後は、迎えが来るのを待つらしい。先生が引き続き話し相手になってくれた。

 というわけで、まずは自己紹介から。


「改めて。この学院で医務室を預かっている、キャレという。家名はデクトレア。子爵家の生まれで現在無爵だ。君は?」


高石栗志たかいしりつしです。栗志が名前で、高石は名字、家名です。高校2年生で誕生日まだなので16歳です」


「ふむ、家名があるということは、貴族家の生まれかな?」


「いえ。日本では、というか地球の大体どこの国でも、平民でも名字を持ってます。そもそも爵位とか残ってる国が少なくて、日本でも一時ありましたけど今は無いです」


「爵位って無くなるもの? あ、いや、もしかして貴族って存在自体が無い?」


「無いですね。王様はいますけど外交上の顔役っていうか一応国で一番偉い身分の人って感じで、名目上身分の上下は撤廃されてます」


「ふむ。じゃあ、王様ひとりで国が運営されているのかな?」


「むしろ王様は政治しないですね。昔戦争に負けて王様から政治の決定権を取り上げる法律を押し付けられて、そのままです。今は国民が選んだ代表者たちの合議制ですね」


「なんと、それでよく王が納得したな。では、民主制なんだね?」


「そうですね。昔から日本は摂政政治が長いんで、あんまり違和感無いっていうか。そのおかげで地球上で一番長い歴史を持つ国ですよ。武力闘争で摂政家が奪い合いになっても天皇家、じゃ伝わらない、王家はそのまま存続し続けてるので」


 摂政政治っていうと日本史上藤原家くらいしか学ばないけど、将軍家による軍事政権もデッカくくくれば摂政政治だよね。と思うんだけど、どうだろう。世界史上あんまりない政治形態だし、武家社会とは習うけどこういう政治形態をなんていうのか、習った覚えがないよな、そういえば。説明し辛い。

 ふむふむ、と頷くキャレ先生は、俺の拙い説明で分かったのかどうか、自国の歴史を良く勉強しているね、と誉められた。いや、このくらいのザックリした内容は中学生レベルなんだけど。


「こっちの世界では、貴族が政治をしてるんですか?」


「そうだね。平民の学問レベルも貴族に遜色ないほどに上がって久しいし、そのおかげで文明レベルも随分と豊かになったが、政治はいまだに貴族主体だ。地方行政には平民の台頭も進んでいるんだけどね、中央だけはまだまだだね。既得権益は如何ともし難い」


 この国は、この星で最も多い政治形態である貴族政治で運営されているらしい。各地方を王から任命された貴族が領主となって治め、中央政府の役人も貴族が独占。事務員や兵士職は平民が採用されるが、ある一定の役職以上は貴族位でないと上がれないのだとか。

 ただ、平民から国王への直接奏上権を認めているため、貴族の独裁によって平民が苦しめられるような事態にはなりにくいらしい。平民の監視が付いていると考えて良いそうだ。

 国王が貴族を抑えられない無能力者だったら成り立たないのでは、と思うんだけど、国王自身も貴族たちから監視されている立場だから大丈夫なんだとか。つまり、相互監視の状態というわけだ。


 それに、国王や貴族の行動規範を縛る法律もあって、領地を持たない貴族による司法が行政から独立して監視しているらしい。つまり、立憲君主制だ。

 何故領地を持たない貴族が司法を司っているかというと、領地税収の改竄やら地方行政の執行に伴う汚職などという政治犯罪に手を伸ばす機会がそもそもない彼らなら、妬心から結託による見逃しを避けられるだろう、という思惑があるそうで。

 歴史を紐解くと、兄の即位から新たに公爵家を興した王弟が治める領地の割り当てができず司法のトップに就いたところからの慣習らしい。ちなみにその公爵は後に跡継ぎかいなくなって爵位を廃された侯爵家領地を引き継いで司法長官を退いたとのこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る