2.ひとまず治療を受けましょう

 強制連行されていったオッサンと離れて、俺は医務室っぽいところに案内された。背中と頭を打ちつけて痛いと訴えたせいだ。


 自転車は責任もって預かりますと偉い役職らしい人に口約束をもらって預けてある。建物内で使うものではないのは汚れ具合と構造で理解されたようで、移動の途中で外に持ち出されていった。その間、多くの人から興味深げに観察されたので、どうやら同じ構造の乗り物は無いらしい。

 自転車の前籠に入れてあった通学カバンは籠の編み目に嵌まって投げ出されずにすみ、現在手元にある。通学カバンの上に載せてあったスポーツバッグも投げ出されたものの一緒にきたらしく、これも手元にある。勉強道具の入った通学カバンより、こっちの方がありがたいかも。


 連れてこられた医務室で、まずは上着を脱ぐように指示されて丸椅子に座らされ、ハンディスキャナみたいなものを俺が痛いと言った場所にアチコチ翳された。優しそうに目尻に皺がよった初老の男性で、やっぱり白衣を着ているのでたぶん医者とかの医療従事者だろう。

 翳した機械とは別に据え置き型のタブレットっぽいものを見ているので、診断の結果がそっちに写されているのだと思うが。


「うん。脳内にも出血は見られないし、重傷には至っていないようだね。今までに治癒術で頭痛や吐き気を感じたことはあるかな?」


「ちゆじゅつ……って、なんですか……? あ、治癒術? え、スゴい。魔法あるんだ」


 言って、自分で間抜けなことを言ったことに気づいた。そもそも魔法の犠牲者じゃん、俺。

 俺が驚いたことに先生もビックリしていて、首を傾げている。


「魔法ではなく、魔術だが。一体君はどこから来たんだい? 治癒術の存在そのものに驚かれたのははじめてだよ」


「えーと。日本、なんですが……多分伝わらないですよね?」


「ニホン? 地名かな?」


「いえ、国の名前です。地球の一番大きい大陸の東の端にある島国です」


「チキュウとはつまり星の名前かな。我々は住んでいるこの大地を持つ星を本星と呼んでいるが、同じ意味だろうか」


「同じ意味ですね」


「つまり、異星人?」


「いや、多分、異世界人、かな。俺たちには魔法とか魔術とか空想の産物だし、星が違うからってそういう法則的なものが変わるとは思えないし」


「ふむ。それでその異世界人がどうしてここへ?」


「なんか、俺もよく分かってないんですけど、超古代文明検証の実験がどうとかって、俺がこの施設に来た時にいたオッサンが喜んでたので、その辺の都合で誘拐されたっぽいです」


「へぇ。超古代文明の検証ねぇ。うん、それで第三者を巻き込んでしまっているなら立派に犯罪だね。ウチの学院でとうとう犯罪者が生まれてしまったかぁ」


 あはは、と乾いた笑いが続いた。うん、俺も同じ立場なら笑うしかない事態です。俺は犠牲者側なんで、犯罪を立証してもらって犯罪被害者として生活の補償をお願いしたいが。


「となると、魔術も安易にかけるわけにはいかないね。湿布にしておこう。治療するから服脱いでそこのベッドにうつ伏せになってくれるかな」


 魔法を使わない治療法もこの世界にはあるらしい。ちょっと体験してみたかったけど、専門家が避けるなら従っておこう。

 ちなみに、ペリペリと剥離紙を剥がして背中にペタンと貼り付けられたのは、俺も馴染みのあるスーッとした清涼感のある薬草臭い湿布だったし、頭に包帯で巻きつけられたのは凍ったものを布で包んだ冷却剤だった。世界が変わっても対処法は変わらないらしい。

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