殺人ウサギ、記憶を喪う
遠くから声が聞こえて来る。
「…………い、おい!! しっかりしろ!!」
「…………ぅ、あ?」
喧しい音に目を開けると、鎧兜を被った誰かが見えた。
阿呆らしいくらい必死なその声に、なんなんだろうかと思った。
「ああ、良かった……生きてた…………痛いだろうが我慢してくれ、今から治療する」
その声が一気に安堵に染まったので、さらに訳が分からなくなる。
そこで初めて全身が痛いことに気付いた。
「うぎっ……!!?」
「っ!! いたい、いたいよなあ……でも悪い、我慢しろ……絶対なんとかするから……」
何か暖かいものが自分の身体に触れた、痛くなければきっと心地よかっただろうその温もりは、痛むだけの身体の苦痛をさらに増加させた。
「〜〜〜〜〜〜!!?」
「っ!! だいじょうぶ、だいじょうぶだ……!!」
大丈夫じゃない。
すごくいたいの、すごくすごくいたいの。
でも、なんでこんなにいたいんだっけ?
それからしばらくして、治療が終わった。
身体はまだまだ痛いけど、それでもだいぶマシになった。
起き上がれるようになったので起き上がって、自分の身体のあちこちに巻かれている赤で少し汚れた白い布に触れてみる。
「触るな。解けるぞ」
「…………うん」
自分を助けてくれたのは鎧を身に纏った人間の男のようだった。
鎧兜のせいで顔が見えないのでよくわからないけど、声は若く聞こえたので多分少年と言っていいような年齢なのだろう。
「……ひとまず血を軽く拭いて薬を塗って包帯を巻いただけの応急処置だ。偶然ちょっといい薬を持っていたからまだマシだろうが……俺はただの騎士だからな。あとでちゃんとした医者に見てもらわねーと」
そう言う人間の少年を見て、ふと思った。
「だれ?」
人間の少年はすぐにはっきりとした聞き取りやすい声で名乗ってくれたけど、なんだか長くて覚えにくい名前だったので勝手にレッドと呼ぶことにした。
「それでお前は? なんだってお前みたいな女の子がこんな物騒な洞窟で切り捨てられていたんだ?」
そう問われて、私は聞かれたことを普通に答えようとした。
けど、何にも答えられなかった、覚えていない。
なんでこんなところにいるのかとか、なんでこんな大怪我をしていたのか。
それどころか、自分の名前すら思い出せない。
それを素直に話すと、レッドは神妙な顔になった。
「記憶喪失……か。……確かにこんな娘がこんなところで、こんな傷を…………無理に思い出す必要はないが、本当に何も覚えていないのか? 名前や家族のことも?」
「なまえ……名前…………えっと…………K……と……Rが名前に入っていた、ような?」
あとBも入っていたような気がするけど、よくわからない。
家族に関しては一つも思い出せなかった、なんかずっと一人でいたような気がするけど、それすら本当のことかどうかわからない。
「そうか……どこに住んでいたのかもわからない、よな?」
「うん」
自分のことに関しては、名前にKとRとBが入っていたことしか思い出せないと答えると、レッドは暗い声色でそうか、と答えた。
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