ep.23

「はぁ… 」


「ため息なんかついても変わんないでしょ、そのうち桃華ちゃんとかが私たちがいないことに気づいて見つけてくれるでしょうし。…それまでさっきのアルバムでも読んで待ちましょ」


 用具倉庫の扉を閉めたであろう体育教師を思い浮かべため息をついた俺に比べて、橘さんは焦ったりせずに冷静に判断していて頼もしい。こんなところも橘さんが人気である理由なのかと考える。


 そばにあった台のようなものに腰をかけアルバムを開こうとすると、隣に橘さんが座る。運動をしたのに汗臭くはなく逆に柑橘系の香りがふわっと香り、密室で隣には美少女という状況に鼓動が早くなる。


「アルバム開かないの?」


「…あ、開くよ」

 

 少し誤魔化すようにそう言ってアルバムを開く。最初の方は飛ばすと、生徒会の集合写真と全体での写真が載っている。

 

「あっ、お姉ちゃんだ」


 どうやら、橘さんのお姉さんがいるらしい。どれ?と聞くと生徒会の副会長を指差す。確かに橘さんと顔立ちが似ていてショートヘアの美少女が映っている。

 めっちゃ綺麗でしょ!と自分の姉を自慢しているのを見て、仲が良いんだなと羨ましく思う。


「お姉さんとずいぶん仲がいいんだな」


「私の小さいころからの憧れだからね」


 どうやら、橘さんは昔からお姉ちゃんっ子だったらしくずっと後ろをついてまわっていたらしい。そんなお姉さんも橘さんが後ろをついてくるのを可愛がっていた結果今では橘さんが引くほどのシスコンになってしまったようで、家では甘やかしの化身となっているようだ。


 家でのお姉さんのシスコン体験談を聞かされひきつった笑いを浮かべる。逃げる様に再びアルバムに目を向けると気になるところで目を止める。


『生徒会長 赤倉静』


 あの人生徒会長までしてたのか、と驚く。イラストレーター、学業、生徒会としての仕事、この三つを同時でやっているとか天才か、と思うが前に静さんの家に行ったときの汚さを思い出し家事能力を犠牲にしたのか… と納得する。


「人の話聞かないでどこ見てんのさー ……これって、…あの店員さん生徒会長だったんだね」


「あぁ… まさか、生徒会長だったとは思わなかったよ」


「……でも、瀬見矢くんさっき見た時もこの人見てたし、……もしかして、好きだったり…」


「いやいやいや、そんなんじゃないって。本当にただの知り合いだから」


「でも、先週の金曜日もその人の家に行ったんでしょ?」


 なんでそのことを橘さんが知ってるんだ?誰にも言ってないはずなんだが…

 不思議に思って聞いてみるとどうやら桃華が教えてくれたらしい。多分服についた匂いで分かったのだろう。


「確かに静さんの家には行ったけどお手伝いとして行っただけで…」


「その名前呼びも気になる… 」


「…別に静さんと仲良くしても橘さんには関係ないだろ?」


「かっ、関係…… あるよ」


 これ以上追及されないためにきつめに言ってしまったのだが、まさかそう返ってくるとは… しかし、これ以上聞かれると俺が静さんの家で下着を洗っていた事がバレる。あの時はそこまで気にしなかったが今考えると色々アウトだ…。心を鬼にしなければ。


「例えばどんな事?」


「例えばって……、ほら、あれとか…」


「あれじゃ分かんないぞ」


「え、えーと…… 瀬見矢くんと、私って親友以上の仲じゃん…」


「最近仲良くなって親友以上は違和感があるが、親友以上の仲だとしてその人の関係に口出しはしないだろ」


 この程度のことで橘さんにきつく言ってしまうのが申し訳なくなってくるが、我慢する。少し涙目になっているが後で何か奢るから許してくれ、橘さん…


「そ、そうだけど…」


「じゃ、静さんと仲良くしててもいいだろ?」


 よし、これで追及されることもないだろう。まさか、用具倉庫の中でこんな事を言い合うことになるとは… 途中から用具倉庫の中ってことも忘れていた。


「…ダメ ……ダメ!」


「だから、なんでだよ」


 まさかここまで食いついてくるとは。そこまで気になる話題でもないと思うのだが何故か気になる。


「それは…… もうっ、私が瀬見矢くんの事好きだからだよ!」


「…………え?」


 静かな用具倉庫の中に俺の空虚な声が響き渡った。





 感想・レビュー・評価お待ちしております。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る