ep.22
日が煌々と照らす中体操着姿で校庭を歩く。四月なのに何でこんなに暑いんだよ… 心の中でそう愚痴を垂れながらとぼとぼ歩く。
「よーし、全員集まったな。これから体力テストを始める!各自、ハンドボール投げ、走り幅跳び、50m走、持久走の順番でやっていってくれ!記録は…… 各自協力してとってくれ!それじゃあ、始めていいぞ!」
村田に誘われたため、村田と共にハンドボール投げをしに行く。
「お前確か去年の体力テストは壊滅的だった気がしたんだが大丈夫か?」
「うっ… 最近筋トレ始めたし、今年は大丈夫なはず…だ」
つい最近始めたばかりの筋トレに期待しても仕方がないのだが期待してしまう。
「次の人投げていいですよー」
「おっ、呼ばれたから投げてくるわ」
そう言うと村田は位置につき、行きまーすといってボールを投げる。おぉ、去年も思ったけどあいつの肩強いな。
ボールは30mを少し過ぎたところ落ち、少し不満そうにした村田が戻ってくる。
「お前やっぱり肩強いよな、羨ましいわ」
「いや、お前の肩が弱いだけだと思うぞ。それに今のは手が滑ってあんまし飛ばなかったし… もうちょっといけたんだけどなぁ」
そう言う村田。これより投げれるのかよ、と少し驚いていると次の人どうぞ、と呼ばれる。
ボールを持ち勢いよく投げる、が弧を描くように遠くにボールが飛んでいく想像と違い、あっけなくストンと落ちていく。
「19m!」
想像とは全く違ったが去年よりも記録は伸びてる。まだまだ成長期だし、俺の成長はこれからと自分を慰める。
「相変わらずだな、宇津は」
「俺からしたらお前が飛びすぎなんだよ。…次は走り幅跳びか。あっちだな」
村田と歩き出そうとすると、肩に激痛がはしる。どうやらさっきのソフトボール投げで肩を痛めたらしく動かすだけで痛い。
「投げるだけで肩痛めんのかよ… 日頃から運動しとけよ? とりあえず保健室行ってこい」
「俺もまさか投げるだけで肩痛めるとは思わなかったよ… 少し行ってくるわ」
そう言って保健室へと向かう。
保険医の先生に診てもらうとただ肩を痛めただけだったらしく、氷を持たされ体育は見学しててねと言われただけだった。
元々やる気もなかったし丁度いいか、と思い体育の先生に理由を説明し見学させてもらう。
「あれ、宇津さんどうしたんですか」
「あ、瀬見矢くんどうしたの」
「ボール投げたら肩を痛めて見学中だ」
桃華と橘さんが丁度よく休憩をしに来たようで話しかけられる。心配した目と呆れた表情を浮かべる二人。
「そっちは、体力テストの結果はどうだったんだ?」
それが、聞いてよ!と少し興奮気味で話してくる橘さん。何かあったのかと不思議に思い話を聞いてみる。
どうやら桃華の体力テストのどの結果も全体で一位だったらしい。桃華の才能の高さに驚く。瀬見矢くんとは大違いだね、と橘さんに言われムッとするが実際そうなので返す言葉がない。
「…あっ、宇津さんにも凄いところありますよ!……家事ができるとか」
桃華が頑張ってフォローしようとしたが余計に悲しくなってくる。
「よーし、そろそろ時間だから終わった奴から昼休みだ!」
これで終わりか、案外早いなと思いながら教室に向かおうとすると呼び止められる。
「あー、宇津これ用具倉庫まで持って行ってくれ。片腕で運べるやつだから」
肩を痛めてる俺に荷物運ばせるのかよ… とうなだれていると橘さんもこれお願いと頼まれていた。
桃華に先教室戻っててくれ、と言って二人で用具倉庫まで向かう。痛めた方の肩をなるべく動かさないように歩く。橘さんに変な歩き方、と笑われるがこっちは痛みを感じないために必死なので構わず歩く。
「用具倉庫ってここだっけ?」
「確かここだったはずだけど… 思ったよりも汚いね」
中に入るとあちこちに埃がたまっている。それもそのはず、ここは一年に数回ほどしか開けないため掃除はもちろん人が出入りすることもない。その割にはやけに広く、学校のいらない物置き場となっている場所だ。
奥の方にしまって置いてくれと言われていたので物をどかしながら二人で奥へと進む。動かすたびに埃が舞ってせき込むが橘さんは意に介さず周りの物を興味深そうに見ている。
「あっ、これなんかの写真があるよ!」
棚に何かを見つけたようで取り出して俺に見せてくる。どうやら2年ほど前の卒業アルバムのようだ。見てみよ!と既に探検気分の橘さんが言うのでページを開いてみる。卒業生徒全員の名前が書いてあるページのようで4ページにわたり名前と写真がかいてある。
サーっと流し読んでいくと『赤倉静』という文字。そういえば、あの人もこの高校の卒業生だったことを思い出す。写真も今とほとんど変わらず美人でお淑やかそうだ。まぁ、俺はその中身を知ってしまった訳だが。
「そのページばっかり見てるけどどうかしたの?」
「あ、いや、知り合いが映ってたから気になって」
そう言って静さんの写真を指差す。すると、橘さんも見覚えがあったようで店員さんじゃん!と思い出す。
「…でも、知り合いって …いつの間にそんな仲良くなったの? 」
「つい最近かな。家にお邪魔させてもらったことがあって」
そう俺が説明するとジト目を向けてくる橘さん。何故か身の危険を感じてお邪魔した成り行きを説明すると、そういうことねと納得してくれる。
「そんな事より、早く片付けて教室戻らない?」
俺が提案すると、橘さんも確かに、埃臭いし戻ろっかと言って少し急ぐ。体育教師に言われた通り奥の方に適当に片付け入口に戻る。これでやっと教室に帰れるなと思い入口を開く。
入口を開く、が動かない。
「橘さん… 扉開かない」
「いや、そんなことあるわけ…」
そう言いながら橘さんも開けようとするが扉は全く動じず開くことはなかった。
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