レブン領 編

第7話 魔法使い

兵士A「お、おい、ありゃなんだ?」


兵士B「ひぃ?!ジャイアントベアーだ!警鐘を鳴らせ!ジヤイアントベアーが攻めてきたぁ!」


カンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッ

カンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッ



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ、山田!町だ、町がみえてきた。これでお買い物ができるよーっ、嬉しいな」


「ガウ」


僕は山田の背にまたがって、のんびり町を眺めていた。


後ろには五人のむさい男達をロープでグルグル巻きにして引きずり、馬車が続く。


「これでこの邪魔な荷物、無くせるね。テンプレとはいえ、このイベントはいらないよね」


「正義の仮面マン様ーっ!」


六歳児のメディちゃんが馬車から手を振っている、かわいい。


「メディちゃん、危ないから中に入っていてね、町はもうすぐだよ」


「はーい」


「仮面様、そのまま進むと一般な方の城門になりますだ。皆様が並んでおりますので、右側に進んでくだされ。貴族通用口になりますだ」


御者のハウエルさんが指差しで教えてくれた。


「了解でーす。でも皆が並んでいるのになんだかズルするみたいで、いいんですか?」


「仮面様は奥様とお嬢様の命の恩人、当然なことですじゃ。わしらがご領主様から叱られてしまいますじゃ」


「じゃ、頼らせていただきます。」


ふーっ、あまり貴族とは関わりたくないんだけど、身分証がないから内心有難い。



◆◆◆



三時間ほど前◇



「はぁ、やーと街道に出た。お、立て札だ。なになに、右がヤナ町で左がナヤ町、なんか紛らわしい町名だな?」


「ガウ」


「どっちに進むか?んーっ、て、そうだ!」


両手を前に付き出して、念じる、念じる、念じる、よし。


「桶の表が出たらヤナ、裏はナヤ、いくよ!」


「桶魔法!」



ガラランッ



「ヤナ町だ、よし、山田、右に進むよ!」


「ガウ」


そうなのだ、僕はついに魔法らしい魔法を使えるようになったのだ。


① 水を出す(時々頭に被る、桶もたまに頭に当たる。桶は5分くらいで消える、いらん)

② インベントリ(空間を倉庫として使える)

③ 桶を出す(時々頭に当たる。5分くらいで消える、魔法か?)

④ 回復魔法(傷が治る、それ以上は未使用ため不明)


以上、四つ?の魔法は僕の意思で発動可能になった。


師匠とは魔法陣の書き方は少し教わったけど、僕は師匠みたいに魔法を使えることが最期まで出来なかった。

だから今、結構わくわくなのだ。


しばらく街道を進むと、遠方からなにやら争っているような声が聞こえてきた。


「なんだろう?山田、急げる?」


「ガウ!」


山田に急いでもらって着いた先は、修羅場だった。


兵士と思われる人達が十数人血だらけで倒れていた。

身体の至るところに刺し傷があり、どう見ても死んでいる。


「ご、ごめん、山田、下ろして、うっぷっ、早く、うぐっ」


「ガウウ?!」


山田が身体を屈めるより早く、僕は飛び降りた。


「うげえっ、うぐ、うええっ」


僕はお腹のものが無くなるまで吐き続けた。


正直、前世、今世含めて人が亡くなるところに居合わせたのは師匠以外では初めてだ。

それも殺し、殺される、命が軽い世界を改めて実感させられる。


この人達も家族がいるだろうに、人はここまで残酷になれるものなのだろうか?


ガキン、キン、カン、キン


まだ戦っている?!まだ僕に出来ることがある!


僕は山田を見上げた。

山田はコクンと頷いた。

最近何故か、山田の気持ちが解るようになった。

嬉しい、悲しい、楽しい、おおざっぱだけど解る。それは山田の方も僕の気持ちが解るということ。


「山田、ごめん、お前の力が必要なんだ。良い人も悪い人も誰も死なせない、巻き込むよ、いい?」


「ガウ!」


「僕が合図を送ったら立ち上がって、おもいっきり吠えて!後は僕がやるよ!」


「ガウガウ?!」


「なに?僕が襲われる?大丈夫、すぐ逃げるから。それじゃあ、いくよ」


「ガウ」


これでも伝わるんだよね、すごくない?!



◇◇◇



林を曲がったら、少し先に馬車を囲む集団がいた。

明らかにガラが悪い方が馬車を囲む、やはり盗賊だ。

さっき殺されていた兵士と同じ服の人達が、三人で馬車を守っている。


僕は山田に林の中で待つように指示して、彼らの前に出た。


「やーっ、やーっ、我こそは正義の仮面マン、双方、剣を納めよ!」


「な、なんだ?てめぇは、怪しいやつ!」


盗賊な奴らから五人ほど、こちらに向かってくる。剣が血まみれだ。こ、怖い!でも落ち着け、僕!大丈夫、山田がいる。


「僕は、怪しいものじゃありません」


「どこがだ、このチビが!見られたからには逃がさねぇ!」


ム、気にしてる事を!んーっ、話合いは駄目そうだ。怖い顔で駆けてくる!は?!不味い、山田が出て来ようとしている!早く止めないと!


「桶魔法!!」


ガンッ「げっ?!」、ガコン「ぐぇ?」、バコン「なんっべぇ!!」、ガン「かは?」、バン「ぎぃ?!!」


「よし、と、おっと!」、ガラン 


ふぅ、何とか上手くいったけどまだ制御が甘いな、避けれたけど。


「魔法使いだとぅ?!!」


なんか、親玉みたいな顔に大きい傷がある男が目を丸くして見ている。

そんなに珍しいのかな、師匠も英雄の皆も普通に魔法を使ってたけど?


あ!!


「いやぁーっ、放して!おかあさま!」


「メディ! やめて下さい!」


「うるせぇ!」

ザンっ、どさっ


「ああ………」


「きやああああ、いやぁ、放して、おかあさま?!おかあさま!おかあさまぁ!」


「カリス様?!!、ぐわっ」ザシュッ


いけない!小さい女の子が捕まってその母親と兵士一人が斬られた?!酷い!こいつら人間か?


許さない!くそ、五人は気絶させたけどまだ盗賊は二十人もいる!


「桶魔法!」


ガン、「はが?!」


「おかあさま!」


よし、女の子を捕まえていた盗賊が手を放して、女の子は倒れている母親の元に駆けだした。


今だ!

僕は山田に手を振った。


「ガアアアアウオオオオーグゥウオオオ!」


山田が咆哮し立ち上がって、林から盗賊達に向かっていく。


盗賊A「ジャイアントベアー?!なんでこんな街道に?!!」


盗賊B「やってられっか!逃げろ!!」


盗賊C「ぎゃー、死ぬぞ、逃げろ!!逃げろ!!」


盗賊D「あいててて、ま、待ってくれぇ!」


親玉「お前えら、くそ、てめぇ、覚えてろ!」


盗賊達は散り散りになって逃げていく、僕は女の子の元に走った。



「おかあさま!おかあさま!おかあさまぁ、しっかりして、わーん、わーん、えがあさまがし、ヒックッしんじゃう、ヒックッ、たすけヒックッ、だれかたすけて、うええん」


ひゅーっひゅーっひゅーっ


酷い、もう虫の息だ!血が背中からかなり流れでてる。こんなの、日本でも間に合わないじゃないか?!


一人の兵士が足を引きずりながらこちらに歩いてくる。

もう一人は斬られた兵士に付き添っているのか、あっちもヤバそうだ。僕に治せるだろうか?まだ、山田とあの冒険者チームの女の子のスリ傷しか治した事がない。


でも、やるしかない!助けないとじゃ駄目だ、必ず助ける!僕の今の全力で!!



スゥーッ



息を整える。大丈夫、今の僕は凄く冴えている。何故か、魔法の言葉が浮かぶ。


「神の癒しに抱かれん。星霊の許し、星の心を知り、大地の力を授かれん。いま、ここに顕現せよ、スターヒール」



天空より白い光が辺りを照らす、虹色の光の粒子が僕の全身から迸った。




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