第5話 スローライフは山田と共に(ガウガウ)

「おおーっ、ここが師匠が使っていた魔の森の隠れ家か、いいところだなーと」


僕は今、やっと師匠がかつて住んでいた魔の森の隠れ家にやってこれた。

森を進むと突然、木々の無い開けた空間が現れ、中央に小さな丸太小屋があったのだ。


「苦節四十年、長かったなぁ、ってあれか、前世分足したら駄目じゃん?!」


とりあえず、周りを見回してみる。


「あれ?井戸がないけど水は?どうしてたんだろう?」


うーん、あ、そうだ、師匠はなんか魔法で作り出してたわ。


「やってみるか、ええと、魔法陣書いてたな、面倒だ、こう、水よ、出でよ!なんちって」


ザバーッ、ガコン


「………頭から水を被る。は、分かるが、いやいやわからんけど、なんでアルミの桶が頭に?!いまどきこのギャグ使う?」


桶を取る、ただのアルミ桶、自分にとっては前世で見慣れた物たがこの世界では初めてだ。


「アルミ金属、ここではアーティファクトじゃない?!」


ガコン


「……………誰か、わざとやってない?桶、要らないんだけど!」


ザバーッ


「……………ヤバい、思考の切り替えを、水と桶から離れないと!」


ザバーッ、ガコン


「ムキーッ!!」


桶をぶん投げる。ガラン、転がっていく。


なんか息が上がってクラクラする。

ふと左手を見る、手のひらが虹色に輝いてる?


「まず、賢者の石の制御があまい!落ち着いて、かけ声は必要か、魔法解除!!」


手のひらの輝きが消える。

シーン、しばらく待ったが水も桶も止まった。


「賢者の石の力は❪力の授与▪増幅▪統合❫だけじやない?僕が魔法を使えているのは石の力か、使い方を考えた方がいいな」


ギャーッ、ギョーッ、ギャーッ


鳥?の泣き声がする、先の森から十数羽が飛び立つのが見える。


「なんだ?なんかあったな、行ってみるか」


魔物避け袋を腰に着ける、師匠直伝だ。めちゃ効く。


ざっ、ざっ、ざっ、少し早歩きで進んでいくと、森の奥から獣の複数の声がする。


林の向こう、鉄な匂い?否!血の匂いだ!!

僕はいつの間にか駆け足になっていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、なんだ?!熊、熊の親子?血だらけだ、あれは鎧鬼熊!!あ、やったな!くそっ間に合え!」


鎧鬼熊、ドラゴン種に並び立つ生態系頂点に近い存在、身体は十メルとジャイアントベアーに拮抗するが、特徴は頭に生えた角、そして身体を覆う固い鎧骨だ。

鎧骨は剣すら弾き、角は鉄の盾を貫通する。


その角が今、まさに一頭の親熊の胸を貫通した。


「ガウアッ」

「グウアアア………」

「ガウ?!」

「クウゥン…」


うーん、何を言ってるかわからん。

だが、状況から父熊?が倒され母熊が小熊を守っているところか、あまり時間は無いけど僕に出来ることがあるかな?正直、無我夢中で走って来たけど非力な僕は殺されに来ただけじやない?


ズウンッ


父熊が倒れ、母熊がその爪を鎧鬼熊に振るうが鎧骨には傷もつかない。

身体差も圧倒的だ、母熊は七メル、小熊は一メルもない。


あ、母熊が鎧鬼熊の片手に吹き飛ばされた。


僕は思わず両手を拡げて、鎧鬼熊と小熊の間に立っていた。

鎧鬼熊が右手右前足を振り上げる。


僕は迫る恐怖の中で、それを茫然と見上げて思った。

(あ、死んだ)


「ガウッ!」

「グオッ?!」

その瞬間、鎧鬼熊の背に母熊が噛りついた。


「グオオオオッ」

「ガウウウッ」


やっぱりわからん。

僕は、後ろで震えている小熊に向き合った。


「今のうちだ、ほら、君、一緒に逃げよ」


「クウウウン」


僕は、小熊のお尻を押してなんとかこの場を離れようとしたが、小熊は全く動かない。


「ここにいたら殺されちゃうんだって、うーん、重いい、早く立ってよ!」


「ギャンッ!」


「あ?!」


振り向くと、母熊の腹を鎧鬼熊の角が貫いていた。

そのまま母熊は吹き飛ばされ、動かなくなった。


そして鎧鬼熊はゆっくりと僕達に振り向くと、立ち上がり僕達の前に来た。


もう駄目だ。

僕は再び死を覚悟した。


その時だ。


「ガアウッ」

小熊が鎧鬼熊に突進した。


「ああ、駄目だ!!敵うわけない、殺される!」


鎧鬼熊はゆっくりと右手を上げていく。口元が笑ってる。くそっ、誰か、誰か小熊を助けてくれ、止めろ、奴の腕が振り下ろされる。


「止めろーつ!」


突然、僕の前に伸ばした両手から虹色な光が出て、小熊を包みこむ。


その途端、小熊が急加速し前足の爪を伸ばしたまま鎧鬼熊に突っ込んだ。


「ガウ???!」

「ガーウーウーンッ!!」


ドカッ、ズシャッ


小熊はいつの間にか、鎧鬼熊の後ろにいた。

そして鎧鬼熊の腹に小熊サイズの大きな穴が開いていた。


「ガ?!グアアアア!」

ズウウンッ


鎧鬼熊が倒された?!

僕はそれを見た後、意識を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「佐藤、何時も言ってるだろ、やられたらやり返さないと、あいつら懲りずにまたお前を虐めてくるんだって」


「うるさいな、あんなガキども、無視してれば気にならないよ」


「佐藤はいつもそうやって一人になって、また俺みたいなだれかの盾になってるんだ」


「僕に近づくとお前、また虐めが始まる、離れるんだ」


「佐藤!」


「山田、佐藤っていうな、どこの佐藤かわからんだろ、日本で佐藤って何百万人もいるんだぞ」


「じゃあ、麟太郎」


「気安いな、山田」


「山田じゃない、俺の名前は▪▪▪▪だ」


「何?よく聞こえなかった、君の名は?」


「▪▪▪▪」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うーん、なんか懐かしい夢を見ていたような」


「ガウッ」


「うお?!、おお君、大丈夫だったか?ってここは?」


周りを見ると、いつの間にか丸太小屋の前だった。

どうやら、小熊が僕を引きずって連れてきてくれたらしい。


「お前、ここまで僕を運んで来てくれたのか」


「ガウ」


「愛いやつ、愛いやつ、あ、あ、むえ?うお、な、は、?!あ、や、やめ、舐めないで、あ」


小熊の頭を撫でていたら、小熊にベロベロ僕の顔を舐めまわされた。


「わ、分かった、分かったからストップ、ストーップ!」


僕は立ち上がって小熊を見る。

ちょこんと座ってやっぱりカワイイ。


「あれ、また、賢者の石の力だよね?この子があんなに強くなるなんて。ほんと使い方、気をつけないと、ん?」


あれ、この子、一応魔物だよね?なんで魔物避けが効いてるこの土地に入れたのかな?


「んーっ、ま、いっか。お前、僕とここで暮らすか、一人だと寂しいだろ」


「ガウ」


「うわ、また、ぶわっ、分かったから、ぶ、もうやめって」


僕は子熊にまた、飛びつかれて舐められた。べしょべしょだ。


「ふーっ、じゃ、今日からお前の名前は❪山田❫だ、いいな」


「ガウ」


山田は、嬉しそうに僕の周りを回った。


「とりあえず山田の両親のお墓を作らないと、いくよ、山田!」


「ガウッ」


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