第4話 ある少女の遺書

前略、英雄の皆さま


この手紙をシンに託したことで、彼を責めないでください。

私は全てが終わってから彼がこの手紙を皆に渡すよう、彼に嘘をつきました。

おそらく彼は彼の主人の為、手紙の公開時期を遅らせるでしょう。


ごめんなさい、結局私はこんな生き方しかできないんです。


今、いろいろ疑問があるでしょう、ここにその全てを書き記しておきます。


まず、私は人間ではありま………



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



バキッ、ダン、ガン、


シンがレッドに叩かれ、壁に叩きつけられた。


「も、申し訳ありません」


「貴様が彼女を殺したんだ!」


震える拳をグリンとイエルに掴まれ、止められているレッド。

マリンに介抱されているシン。

手紙を、改めて眉間にしわを作って眺めているブラック。


ここ、ランス王国執務室は騒然としていた。


「いい加減にして!シンは彼女の話を信じただけよ。貴方の為にした事じゃない。シンは彼女から(皆へのお世話になったお礼とレッド様への気持ちを綴ってあります)と言われたのよ。誰だって貴方への恋文かと思って、真っ先に貴方に渡すまで公開を保留にするでしょう!」


シンを介抱しながら、レッドに目線も合わせずマリンが話す。


ダンッ、レッドが机を叩き割った。


「レッド兄さん?!」

「兄上!」


あまりの荒れように、グリンとイエルが声をかける。


「くそっ!」


レッドはそのまま執務室をでていってしまった。


入れ替わるように、一人の煌びやかな銀髪イケメンが入ってくる。


「やあ、レッドは随分とご機嫌斜めなようだね」


「これはこれはルケル王太子殿下、このようなところに」


マリンがカテーシをし、シンが膝をついて騎士の礼をとった。


グリン「ルケル兄さん?!」


イエル「ルケル兄上」


グリンとイエルも会釈をする。


ブラックはチラ見した後、フンッと鼻息したあとまた、手紙を見いっている。


ルケルは、その反応が面白くない様子で眉をピクッとさせた。


「さすが英雄だ、子供に命まで差し出されて助けられた挙げ句、このようなところでお寛ぎとは、は、頭がさがりますね」


「「「「!!」」」」


「なんだと!」


ブラックが立ち上がってルケルを睨む。


「あ、ルケル兄さん、いくらなんでもそれはっ」


グリンがギリッと唇を噛んだ。

イエルも拳を握りしめ、無言で耐えている。

マリンとシンは俯いたままだ。


「なんだ、グリン?事実を言っただけであろう?フンッ」


「「「「「……………………………」」」」」


皆、悔しさに耐えていた。


「そうだ、彼女を英雄として盛大に葬儀を執り行おうと思って来たのだがどうだろうかな、ファイブスターの英雄達よ」


ルケルは左手に握った右手をポンと叩いて、たった今思い付いた事のように言った。


グリンが口を開く。


「いえ、本人の遺書が見つかりました。ある山奥の洞窟に我らだけで埋葬してほしいと」


「そうか、本人の意向なら無下にできんな。ふむ、そうしてやりなさい。それではな」


ルケルはニコニコしながら出ていった。


バタン、バフッ


ルケルが出たあと、衛兵が閉じた扉にクッションが当たった。

マリンが投げたのだ。


「最低!」


「申し訳ありません、あれでも王太子ですので、英雄人気に嫉妬してるんだと思います」


グリンが大きいため息をついた。


イエルが呟く。


「あんなの、兄じゃない」


「滅ぼしてやろうか?」


ブラックがにやりと笑う。


「ちょっと!あんたが言うと洒落になんないわよ、その辺で止めときなさいよ」


マリンが額に手をやりながら、ため息をついた。


「それで?皇太子様は何か分かったのかしら」


「ああ、だがもう過ぎた事だ。リンが生きていればいろいろとできたが」


「最初から分かってたんでしょ、貴方の皇族だって?あんなに分かりやすい黒髪の特徴」


ブラックは窓を眺めながら、ポツリと言った。


「彼女は間違いなく人間だ。いや、人間だった」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「リン………」


レッドは城地下の仮安置場に来ていた。


ボツンと置かれたちいさな棺を開く。

ふわっと敷き詰められた花ばなが、まだ枯れることなくその芳香が鼻につく。


黒い漆黒な黒髪はいまだみずみずしいままにあり、その美しいながらもまだ幼さの残る顔立ちはまさに絶世の美少女だ。


だが、その肌は健康的だった赤みや肌色から完全に冷たい白い肌になっている。


彼女の手をつないで、その唇にキスをする。


ああ、氷のように冷たい、改めて彼女がこの世の者でない事を実感した。


ポタッ、ポタッ


彼女の顔に大粒の雨が降る、命も、身分も、そのすべてを捨てても守ると誓い、全ての人生を彼女に捧げると誓ったのに。世界の危機より彼女の安寧だけが望みだったのに。ああ、なんて色のない世界なんだ。

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