第27話 おじさん、ゲームクリアする

「同期完了――貴様、先ほどは良くもやってくれたな」

「喋った!」

「モル!?」


 校庭に出るとボンノーンは喋り始めた。

 姿を変化させ、一番最初に倒した人――隊長と呼ばれていた人間と同じになる。


「貴様たちのせいで私の物語がメチャクチャだ。大人しくしていれば良いものを」

「な、何がですか!? 訳が分かりません!」

「だが、ダークエモーショナルエネルギーは集まった。この力でお前を倒す」

「ダークエモーショナル……なんですか!?」

「説明が必要か?」

「はい!」

「ならば体で直接知ると良い!」


 怪人態に戻ったボンノーンはこちらに向かって駆け出した。

 拳を振り回して綺麗なフォームで突き出す。

 私はガードの姿勢に入った。


「夜見さん避けるモル!」

「――ッ!」


 ダント氏の指示で慌てて避けると、目の前が爆発した。

 後方にごろごろと吹き飛ばされる。


「うう、今のはなんですか!?」

「分からないモル! 敵の拳が夜見さんのシールドにぶつかった瞬間に爆発したんだモル!」

「じゃあ攻撃を受けるのは不利という事ですね……!」

「フハハハ、無知な女め。なぶってくれる」


 立ち上がると、ボンノーンは再び接近戦を仕掛けてきた。

 私は爆発を避けるために回避を余儀なくされる。


「くっ、どう戦えば」

「夜見さん! マジックミサイルを使うモル!」

「マジック――なんです!?」

「マジカルステッキから出せる魔弾モル!」

「魔弾!?」

「喰らえ魔法少女!」


 こちらが困惑している隙を突いて、敵の拳が正面を捕らえた。

 ドンッ、と爆発が起きてまた吹き飛ばされ、シールドにヒビが入る。

 幸いにも受け身は取れた。


「くっ、ううっ、どう出せば良いんですか!?」

「敵目掛けてステッキを振って!」

「なるほど! えいっ!」


 ビュンビュンビュン!

「ぐお……ッ」

 発射された星型のエネルギー弾が相手に命中するも、平然としていた。


「目くらましのつもりか?」

「ぜんぜん効いてないですよ!?」

「じゃ、じゃあ! 武器機能を使うモル!」

「どう出すんですか!?」

「底のボタンを押すモル!」

「は、はい!」


 ポチッと押すと、杖の蕾が開いてピンク色の儀礼用両刃剣ツーハンデッドソードが伸びてきた。


『プリティコスモスソード!』

「めっちゃゴツい! でも軽い!」


 まるで羽毛のように軽い剣だ。

 これなら剣術初心者の私でも扱える。


「……おのれ魔法少女め、武器を使うとは卑怯な!」

「女の子を殴る貴方には言われたくないです!」

「言わせておけば!」


 ボンノーンは腕を振るった。

 するとぐにゃぐにゃの鉄パイプのような触手が伸びて、私を滅多打ちにする。


「それずるくないですか!?」

「どんな手を使ってでも真正面から勝つ! それが俺の望む物語! 煩悩の形だ!」

「なんて卑怯な人……! くぅっ!」


 シールドがバシバシ壊されていく。

 何か手を打たなければ。


「夜見さんっ! 必殺技を使うモル!」

「どうすれば!?」

「武器機能を使った状態で底ボタンを二回押す!」

「倒せますか!?」

「僕を信じて!」

「分かりました!」


 カチカチッと二度押し込む。

 すると剣から音声が鳴った。


『エモーショナルタッチ! プリティコスモスラッシュ!』


 ドゥッ、と剣からピンク色のエネルギーが放出され、元の何十倍もの大きさに変化した。私は思いっきり振り上げる。


「ななな、何だそれは!?」

「それは私が聞きたいです――――!」

「ぐあああ――」


 敵めがけて振り下ろすと、攻撃を受けたボンノーンが半分に割れて、謎の鉄パイプ生命体とテロリストの隊長に分かれた。隊長は気絶していた。


「倒せた!?」

「オ、オボエテイロ……! エルサゲート!」


 謎の鉄パイプ生命体は、謎の異空間の中に去っていった。


「やった! 勝ったモル!」

「ホントですか!? やったぁ!」


 ダント氏とハイタッチすると、急に空が暗くなり、『GAME CLEAR』というデカデカとした白い文字が現れた。沢山の花火も打ち上がる。


「あれなんですか!? 敵からの嫌味!?」

「分かんないモル!」


『夜見ちゃんお疲れー』

「ええっ!?」


 続いて空にマスク女子高生――赤城先輩のホログラムが浮かび上がった。


「な、なんなんですか!? なんなんですかこれ!?」

「何が何だか分かんないモル!」

『ああ、これね。実はシミュレーションコフィンの中です』

「どういうことですか!?」

『続きは起きてから説明するよ。二人ともログアウトって言って?』


 私とダント氏は戸惑うように顔を見合わせたあと、ログアウトと叫ぶ。

 すると意識がブラックアウトした。



 急に体に熱が入ったような感覚がして、バシュゥゥ……と音を立てながら目の前が開いた。

 白い光が差し込む。


「おはよう夜見ちゃん。君たちは本当に優秀なモルモットだ」


 そこに立っていたのは、白衣姿の赤城先輩だった。

 後ろには巨大なモニターがあって、パソコンが何台も置いてあるのが見える。


「え、えっ?」

「夜見さぁぁん!」

「ダントさん!?」


 戸惑っているとダント氏が抱きついてきた。

 彼の頭からぽろりと黒い金属製の被り物が外れ、小動物フェイスが露わになる。

 私はぷるぷると震える彼を撫でたあと、事情を知るべく外に出た。


「ここは……」

「ここは管制室なのだ。つまり学校の中」


 近づいてきたのは青メッシュ先輩。

 彼女は申し訳なさそうながらも、ほんのりと頬が赤くなっていた。

 私はとりあえず深呼吸して気を静め、冷静に尋ねた。


「どういうことか説明して貰えますか? 赤城せんぱい?」

「うわ怒ってる」


 赤城先輩は慌てて逃げようとした。

 しかし私はすでに相手の首根っこを抑えていて、ぎゅっと抱きついて耳元でこう囁いた。


「納得させてくれないと絶対に離しませんよ~」

 ギリリリリリ……

「話します、話しますから許して」


 私は先輩の首元を、とても強く抱きしめながら事情を聞いた。

 どうやら言いつけどおりに窓の鍵を開けていたのを良いことに、ぐっすり眠っていた私とダント氏をオートテレポートで拉致したあと。

 青メッシュ先輩から条件付きで借りた、カプセル型の最新型シミュレーション機材に私たちを収納し、『テロリストが学校を占拠するのを想定したシミュレーション』を開始したようだ。


「それでどうしてこんなことを?」

「あ、あの日……夜見ちゃんが、変身しないで飛び出していくところを……見ちゃったから……」

「はぁ、それで?」

「咄嗟に変身する、癖を……つけたくて、協力しました……」

「誰に?」


 赤城先輩はぷるぷると前を指さした。

 そこには青い狼のような聖獣がいた。


「私の聖獣、青狼のブルーノちゃんです……」

「はじめてお会いする。夜見殿」

「ああ、はぁ。どうも」


 私は赤城先輩を開放し、彼の方を向いた。


「どうしてこんなことを?」

「今回の一件は、拙者の個人的な考えに基づく仕出かし。まずは深くお詫び申し上げる。拙者はどうしても、ダント殿が夜見殿に相応しい聖獣か見極めたかったのです」

「と言うと?」

「我ら聖獣――光の国ソレイユの住民のほとんどは、現世の少女に魔法の力を与えて代わりに戦ってもらうしかない無力な生き物。しかしここ現世では、そのような状況の子供は『子供兵士』と呼ばれ、倫理的に禁忌されるべき事象です。拙者はいち早くその矛盾に気付き、聖獣たちも、魔法少女に負けないほどの力を身につけるべきだという結論に達しました」

「は、はい」

「しかし我が国は、聖獣が力を付け、行使することを望んでいません。拙者のような上位聖獣ほど国に秘蔵され、戦地からは遠のく始末。最前線に立つのはダント氏のようなか弱い者ばかりになっています。なのでせめて、ダント殿のサポート役としての実力を知りたかった。それが今回の誘拐劇の真相です」

「……そうですか。満足いく結果でしたか?」

「修行不足です」

「そうですか」


 私はもう一度だけ深呼吸して、正直に言った。


「ブルーノさんの言い分は分かりました。私は許します」

「申し訳ない」

「でも、ダントさんが許すかどうかは分かりません。あなたの大義は素晴らしい。きっと国のために必要なことだと思います。でもそれは、必ずしも大衆のためにはならないと、お忘れなきように」

「――」


 彼は、私のお腹に抱きついて震えているダント氏を見て、深く頭を下げると、赤城先輩と一緒に帰っていった。


「ダントさん大丈夫ですか?」

「僕にはもう何がなんだか分からないモル……ここは現実モル……?」

「よしよし。ここが現実ですよー」


 私はダント氏を優しく抱きかかえて、『吾輩はここに住んでるのだ』と語る青メッシュ先輩に別れを告げて帰宅した。深夜三時の出来事だった。

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