第4話 おじさん、幼女を守るために体を張る
「なんか言えよオルァン!」
「ふぇぇ……」
「大変だモル! 子どもたちが襲われてるモル! いまこそ魔法少女プリティコスモスに変――」
近所の社畜以外誰も来ないような寂れた公園に、家族連れじゃない幼女たちが居る理由は不明だし疑問だが、それはともかくとして。
ダッ――
「幼女先輩は私が
気がついたら走り出していた。
男子高校生と幼女先輩の間に割り込み、相手をキッと睨む。
「やめてください! 子どもたちが怖がってるじゃないですか!」
「何だテメェ、オラァ!」
「やんのか!? ああん!?」
「……っ」
私も大人として、魔法少女として、それなりの覚悟を持っていたつもりだったが、本能的な恐怖を感じてしまう。これが男と女の格差なのか。
「頑張れ、くじけるな夜見……!」
前を見ろ。理不尽に怒れ。
ここでやらなきゃ、幼女たちは守護れない!
「ど、どうしてこんな幼い子を脅すんですか!」
「テメェには関係ねぇだろうが!」
「関係はなくてもあるんです、私には!」
「なんだとぉ……?」
「私は知ってます! この公園には昼時になると周辺の会社から男性社員が集まる! あなたたちはその大人からカツアゲしようと企んでますね!?」
「……ッ、な、なんで知って」
「だったら! こんな無垢な子を脅して追い出そうとするより、ここに集う前の大人たちに喧嘩を売って搾り取る方がまだマシってもんでしょう!? ヤンキーなら脅す相手は選ぶべきです! プライドはないんですか!?」
「う、うるせぇ!」
ドガッ!
「うっ……!」
反論出来なくなった高校生の片割れが暴力を振るってきた。
私は反射的に顔を守ったことでガード出来たが、殴られた箇所がぴりぴりと痛む。
「痛っ……」
「さっきから口ウルサいんだよ
「ち、中学生ですけど!」
「中学女子のクセにオレたちをバカにしやがって……! おい、やるぞ!」
「へへっ、おう!」
ガッ、ドゴッ!
「ううっ……!」
高校生たちは格下と見てタガが外れたのか、問答無用で拳を振るってきた。
その嬉々とした顔が怖くて、他人に、自分より弱い相手に暴力を振るうことになんの抵抗もない彼らが怖くて、私は暴力に耐えることしか出来なくなってしまう。
「やめ、て……!」
「ははっ、よいしょぉーッ!」
ドゴォッ――
「うあっ……!」
最後は調子に乗った男子のドロップキックで吹き飛ばされ、地面に倒された。
明らかにスッキリした顔の高校生二人組は、地面に寝そべるボロボロの私をバカにする。
「はぁーあ、女が男に勝てるわけねーのに。あほくさ」
「身の程を知れ、ク・ソ・ザ・コ・ちゃん」
「くぅっ……」
悔しいが、彼らの言う通りだ。
魔法少女になれたから、若い体になれたからと言って、強くなった訳じゃない。
むしろ成人男性だったときよりも非力で弱い立場になったのだ。
「さーて、こういう生意気なメスガキにはしっかりした調教が必要だよなー?」
「おっ、良いね。物陰でヤっちまおうか――」
「もうやめてぇー!」
「――痛ッ、目が、うああああッ!」
「アオト!? 誰がやりやがった!」
ひどいことをしようとする男子の目に、1つの小さな小石が当たって呻かせた。
かなり痛かったようで地面で悶えている。
投げた当人の幼女たちも、まさか目に当たるとは思っていなかったようで、恐怖に震えていた。
「あ、あ……ごめん、なさい……」
「ガキどもてめェ石投げやがったな! ぶっ殺してやる!」
「ひ、ふぇ」
高校生は走り込んで、サッカーボールを蹴るように足を振り上げた。
「幼女先輩……ッ!」
私はまた反射的に動いていた。
幼女たちを体で抱え込み、身代わりの盾となる。
ガッ――
「うぐぅ……ッ!」
「オラ、オラァッ!」
ゴッ、ドボッ――
高校生は容赦なく私の背中を蹴り、踏みつけた。
少しすると目に怪我を負った方も混ざり、本気の殺意で蹴りしだく。
「クソが! 俺の目に怪我させやがって! 親に怒られるだろうが! 死ね、死ねッ!」
ドゴ、ゴッ――
「うう……っぅ……!」
なんと理不尽で自分勝手な怒り方だろうか。
「治療費出しやがれ! 出来ないなら死ねッ! 死んで詫びろッ!」
「そうだ謝れ! 謝罪しろッ!」
ガッ、ガッ、ドガッ――
「うッ、っ、ぅぅっ――」
怒りで理性が働いていないのか、彼の相方と共に全力で蹴りつけていた。
言葉だけではなく、本気で殺しにかかっている。
私はただ、幼女たちを抱えて耐えることしか出来なかった。
「はぁ、ハァ……くそっ……」
「なかなか……はぁ……耐えるじゃねぇか……」
それからどれだけ立ったか分からない。
彼らは息切れを起こしてついに蹴るのを止めた。
お互いの顔を見やって、冷静になった声音で話し出す。
「おい、どうす――」
『警察だ! 暴行罪の現行犯で逮捕する!』
「――なっ!?」
「くそっ、逃げるぞ!」
しかしそこに公的治安維持部隊、警察が駆けつける。
誰かが通報してくれたらしい。
男子二人組は慌てて逃げていった。
「はは……やった……」
私は背中の痛みで倒れそうになりながらも、幼女たちを見る。
彼女たちは潤んだ瞳で私を見つめていた。
「おねえちゃん……」
「みんな、大丈夫? 怪我してない?」
「うん、でも」
「おねえちゃんは大丈夫だよ。なんてったって正義の味方だからね」
優しく微笑むと、幼女たちはくしゃっと顔を涙目に歪め、私にぎゅっと抱きついた。
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