ベールの中、君と僕と

侑梨江

ベールの中、君と僕と

 僕は君の好意に応える資格がない。君が見てる僕は僕じゃない。こんな風貌じゃそりゃあ分からないよね。君は純粋だから、

「髪が長いのは切るのが面倒だから。胸が膨らんで見えるのは胸筋のせい。靴が女物なのは足のサイズが小さいから。小さい頃から夜更かししがちだったから身長が伸びなくて。その上声変わりもあんまりしなかったから声が高いまま。」

 なんて僕の言葉を信じてくれたけど、どれもこれも嘘っぱち。本当の事は何一つ言ってない。

 大体、君はお人好しすぎるんだ。いくらバイト先の上司だからって僕が良い人間だなんて保証はない。もしかしたらとんでもないセクハラ野郎かもしれないというのに。

 君が僕に向ける純粋な好意はどうしたって僕を惹きつける。だけどこんな嘘だらけの僕がそれに答えてしまったら、君のこれからは嘘になってしまうだろう。

 

 君を守りたい。傷つけたくない。

 君が大切だから。大好きだから。

 

 嗚呼、そうか。そうだよな。僕が嘘をつき続ければ。君が嘘に気が付かなければ。そうだ、それでいいじゃないか。下手に本当の事を言って傷付けるくらいなら、嘘で君を守ればいいだけの事なんだ。今までだってそれでうまくやってきた。君は僕がベールを被ってる事に気付いてすらいないんだ。だったらそれでいいじゃないか。僕は薄いベールを被ったまま、君にもベールを被せてしまおう。そして薄暗くてぼんやりとしたベールの中で何も知らずに過ごそう。

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