名探偵の推理 第4,294,967,296話
みなもとあるた
名探偵の推理 第4,294,967,296話
「証拠は全て揃いました。…これらの証拠が示す犯人はただ一人。そう、安井晶さん。あなたが犯人です」
「…なあ、探偵。その、言いにくい事なんだが…」
「どうしましたか?今さら『私は犯人じゃない』なんて言い訳は通用しませんよ?潔く認めてください」
「いや、確かに俺が犯人だ。だが今回使ったトリックがだな…」
「観覧車とメリーゴーランドにワイヤーを仕掛け、その回転する力で東京タワーを折り、被害者に空から突き刺したトリックですね」
「実は、第1,833,445,046話でも同じトリックが使われてて…」
「さ、さて?あの時はそんな事件でしたっけー?」
「目をそらすんじゃない、探偵。あの時東京タワーの運営会社から出版社にクレームが来ただろうが…『東京タワーを凶器に使うな』って」
「あ、あー、確かそんなこともあったような無かったような…?」
「やっぱ思ってたんだけどよ、ここまで続いたこのシリーズもいい加減ネタ切れなんじゃないのか?」
「しかしですね…同じトリックと言ったってもう20億話以上前の話ですよ?覚えてる読者なんてそうそう居ないですって」
「はぁ…マニアってのはちゃんとそういうところも気付くんだよ…」
「大丈夫ですよ、今回はドラマ版に人気アイドルが歌う主題歌もついてますから!そうだ、なんなら『実は探偵が犯人だった』というオチに今から路線変更しますか?」
「その程度のどんでん返し、第65,535話と第440,429話、あとは第141,421,356話、それから第522,360,679話でもやってる。その上、読者からの評判も全部悪い」
「で、でも、そのたびに『次回より新章開始!』って宣伝ができますから、探偵を犯人にすると売り上げが伸びるのは確かなんですよ!」
「その結果、お前は何代目の探偵なんだ?」
「…53代目です」
「はぁ…やっぱりさ、もうやめにしないか?」
「…」
「そもそも、人が死ぬ事件をエンターテイメントとして消費するのもどうなのかと俺は思うんだ」
「し、しかし…それでもミステリーは常に人気のジャンルですし…別にふざけて人間を殺してるわけじゃ…」
「こんなピタゴラスイッチみたいな装置で人間を殺してるのにか?」
「…だったら…だったら、私はどうすればよかったんですか!」
「探偵…」
「言わせてもらいますがね!最近トリックが適当になっていることくらい、私だって当然気付いていましたよ!っていうかなんですか東京タワーが凶器って!!」
「こいつ開き直りやがった…」
「でも、みんなやってることなんですよ!新本格派と呼ばれる推理小説だって、ありえない状況で都合よく双子は出てくるし、館には殺人に使える謎の仕掛けがあるし、被害者は死の間際に超複雑な暗号を思いついてダイイングメッセージを残せるんですよ!?いったい何が本格なんですか!?」
「…」
「時刻表トリックだってそうです!犯人がうまく電車を乗り継いで人を殺したからって何が面白いんですか!?そんなの電車オタクが喜ぶだけじゃないですか!でも、本を売るためには仕方のない事なんです!」
「それだけのために被害者は死んで、俺たち犯人は人生を狂わされなきゃいけないのか?」
「そうです!被害者は全員不思議な状況で死ね!犯人は同情を誘う悲惨な過去を送れ!読者はそういうものを求めているんです!売り上げのためには、倫理なんてどうでもいいんですよ!」
「お、お前…」
「とにかく、今回の事件はもう解決したんです。さっさと警察を呼んで終わりにしますよ」
「…悪いが、警察は来ない」
「どうしてですか!?」
「この作品はもう40億話以上続いてるんだ。その全てで人が殺された結果、この世界に生き残ってる人間はもう俺とお前の二人しかいない…」
「な、なんですって…?」
「残念だったな、探偵。毎回人が死んでいたら、いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたが…」
「ああもう!だったら知りません!こうなったら、あなたを殺して私も死にます!」
「ど、どうしてそうなるんだ!」
「うるさい!これも売り上げのためだ!お前も謎の仕掛けで面白おかしく死ね!」
「おっ、おい!!お前は探偵だろうが!」
「安心しろ、今までに一度も使われたことのない斬新なトリックで殺してやるからな!さて、この小説のキャッチコピーは何がいいですかねぇ!『衝撃のラストに、あなたは驚愕する』、『あなたもきっと騙される』、『最後の一文で全てがひっくり返る』!」
「やめろ!最近の安っぽい小説みたいに帯で重大なネタバレをするな!!」
「うるさい!こうでもしなきゃ書店で手に取ってもらえないんだ!!」
「ま、まて、落ち着けって!」
「だ、だってっ!…もうたくさんの人間が死んでしまったんだ…それに、男二人だけ生き残ったところで、人類はもう…」
「…それは違う」
「…え?」
「男二人じゃない、俺は女だ」
「…は?ど、どうして…?」
「『犯人が実は女』ってトリックを最後のどんでん返しに使おうと思って、わざと男口調でしゃべってたんだよ」
「そ、そうか、姿の見えない小説だからこそのトリックだったのですね…」
「だからさ、探偵…その、なんだ、まだ俺たちはやり直せる。人類はまだ絶滅しない」
「え、何を言って…?どうして私の腕をつかんでいるんですか?」
「安心しろ…痛くしないから。天井のシミを数えてる間に終わらせてやるからな…」
「い、いやっ、まだ心の準備が…」
「実はな、探偵。俺は昔からずっとお前のことが」
名探偵の推理 第4,294,967,296話 みなもとあるた @minamoto_aruta
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